シーンは熱田小社に移った。

 


北条実政は鎌倉への帰途の途中だ。実政は御子の侍女である巫女より意外なことを聞く。
「長き旅、本当にご苦労様でございます。お待ちしておりました。御子様はご実家にお帰りになられました。ここより3里でございます。ぜひ横江村の熱田社にお寄りいただき御子様にお会いいただきたく御願い申し上げます。お帰りになった理由はお会いになればわかります」とのことで急いで横江村に馬を走らせる実政。巫女に説明を受け地図を片手に何とか神社にたどり着いた。こじんまりした木々が茂るよい神社である。
若い神主が出迎えた。刀の北条紋を見て、
「北条実政様でございますね。お待ちしておりました。姉は社務所におります。どうぞこちらへ」と深く頭を下げられ社務所の奥に導かれた。

一室に通され実政は御子を待つ。
御子が現れた。
「お会いしとうございました。よくおいでいただきました」と涙を流した。
「お父上がよろしくないようでございますね。激務とお父上のことで実政様のお体を心配もうしあげておりました」

実政
「父は鬼神であった。石砦についてのことを手伝ってくれた。俺が正式に鎮西に派遣されるまでは持たぬやもしれぬ。鎌倉武士の綺羅は死。心配めされるな。それにしても急にご実家に戻るとは驚いた。何か理由が?」

御子は顔を赤らめながら、
「あなたさまのお子を身ごもりました」

実政
「驚いた。しかし、俺は次の戦いで明日は知れぬ身、申し訳ない。どうもうしたらよいのか」と考え込んでいる。
「みごもってしまったのでは熱田神宮内の立場もあるだろう」

御子
「ご安心ください。さっそく父に相談しました。この国を守る策は熱田大神様と弘法山の神様のお示しと父はすぐに理解してくれました。サニワの力を私は父からの修行でいただいております。此度の戦のすさまじさを父は霊感で察しておりますのですべてが神様の仕組みということをすぐに気づく父でございます。私の体調が悪いという理由で実家に帰ることは簡単にできました。父は蒙古の再度襲来は必ず勝てると確信しておりますが、戦後の後遺症を心配しております。特に北条家の。後世に残る得を積んだ北条家は蒙古の霊団に子々孫々恨まれるという業を受けるということを心配しております。蒙古だけでなく。北条家が滅ぼした一族も合同で子々孫々祟ることでございましょう。されど、日本最高の善徳は未来永劫消えることはございませぬ。そこで父はこうもうしました。{実政様がいつでもお帰りになられる場所をここにご用意しよう。徳を受け継ぐ子孫を代々この地でお守りさせていただこう。お前がその魁となりなさい}と懐妊を心から喜んでくれました。さらにこうもうしました{北条の名を隠しこの地をもしもの時のために北条の隠れ里としお守りもうしあげようではないか}と。私は一晩泣きました」

実政
「そこまでこのような男にお気遣いいただけるとは、執権殿も同じようなことを言ってくれた」

御子
「私は幸せでございます。側室の立場でけっこうです。いつでもお帰りになってください。あなた様は負けません。必ず勝利なされます。神仏を信じない者には負けることはありません」

宮司らしき中年の神主が入ってきた。座に着き深く頭をさげ
「御子の父でございます。本日からここがあなたさまの家でございます。全ては御子がもうしたよう。熱田大神様は未来永劫北条家をお守りいたします」
 
実政も深く頭を下げ、責任の重要性に身が引き締まる思いとともに人の情の厚さ、天下を太平の世に導く重要性を実感したのである。