こうして、音虫の森で開かれたアルトの小さなチェロコンサートは森全体を使った盛大なフィナーレを迎えた。
演奏を終えたアルトはとても満足しており、やや興奮を残したままタキレンの方を向いた。
「はぁ、楽しかった!どうでしたタキレンさん、オレの演奏…」
彼はまたしても泣いていた。いや、アルトがまた泣かせてしまったという方が正しいだろう。
これはまずい。そうしてアルトは本日二度目のテンパりを見せたが、彼の顔は微笑んでいた。
「とても…素晴らしいファーレでした…!」
アルトはその顔を見て安心したのか、聴いてくれたお礼を伝えた後に座ったままタキレンの方に向き合った。
「確かに…、辛くてしょうがない時は泣く事も大事だと思います。けどオレ、泣いた後は笑っていたいんですよね。勿論、タキレンさんにも。
「…」
「だからタキレンさんが笑ってくれてオレ、すっごい嬉しいです!」
「…私も、貴方のお陰で気持ちが晴れた気がします。改めてお礼を言わせてください。」
しんみりとした雰囲気がチェロと森の音のファーレによって和やかになるとアルトは雨上がりの森を眺めてこう話しかけた。
「へへ、やっぱりファーレってすごいですよね。普段の生活に欠かせないっていうのもそうですけどなんかこう…それ以上のパワーがあるっていうか!」
「ええ、私もそう思います。」
振り返れば、アルトのこれまでの人生は音楽なしでは語れないものとなっていた。
楽しい時も、変わろうと必死だった頃も、辛くて泣いた時も、いつもアルトのそばにはたくさんのファーレがあった。
そしてこれからもアルトにとってファーレは離れがたく大切な存在になるだろう。
「大変な事も沢山あったけど…オレ、これからも沢山演奏して、皆んなと一緒にいろんなファーレを奏でていきたいです!それで、もっといろんな人と出会って友達になって…」
その時、彼の頭には大切な友であるシルヴァの顔が浮かんでいた。そういえばまた長い事彼に会っていない。
一体今何をしているのだろうか…
会いたい。また一緒に演奏したい…。
そうして、気づけばアルトはその場で立ち上がっていた。急にどうしたのかと不思議そうな顔でこちらを見上げているタキレンと目が合う。
「あっ、すいません!話してたら友達のことを思い出して、そしたらなんか急に会いたくなっちゃって…!たぶんあいつもオレに会えなくて今頃寂しがってるだろうし!」
「…ふふっ、あはははっ!」
慌ててなぜ急に立ったのかを辿々しく説明するアルトにタキレンは可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「ふふ、それなら早く行ってあげないといけませんね。」
「へへ…」
そしてアルトも照れくさそうに笑った。
その後、チェロをケースにしまい、背中に背負ったアルトはお世話になった彼に別れを告げる。
「それじゃ、今日は色々とありがとうございました。」
「いえ、こちらの方こそ。…お気が向いた時で構いませんので、また会いにいらして下さいね。」
「はい!タキレンさんにも会いにいきますね!」
そして、また自分の母に会いにくることを約束した。すると、近くで遊んでいたパロパロが二人の元へと駆け寄ってくる。
「ぱろぱろっ!」
「おや、パロパロ…!」
「あははっパロパロもまたな!」
パロパロにもすっかり懐かれたアルトはそういってまたわしゃわしゃと頭を撫でやった。
「では、今後ともお元気で。えっと…」
するとタキレンは、ふいに言葉を止める。
アルトはそういえばいろいろあったからまだ彼に自分の名前を伝えていなかったことに気づき、こう答えた。
「アルトです。オレの名前…」
「はい、またお会いしましょう。アルトさん。」
こうしてアルトは彼らに大きく手を振って気持ちを新たに、森を後にした。
「…いってらっしゃい。」
そしてタキレンも、その彼の背中を見えなくなるまで手を振って見送ったのであった。