昨日はすごく価値のある一日だった。
普段は物体越しにしか感じられないものを生で、しかも好きなだけ学ぶ事ができたのだ。この上なく贅沢だった。






何年か前に六本木のバーの店長に、ライブが終わったあと耳元でささやかれたことを思い出す。

「日本人のリズムのとりかたと黒人たちのリズムのとりかたは全く違う、やつらは裏でとるんだ。意識してフローしてみろ。」


俺がオシメしてる頃からダンスミュージックで体を揺らしてきたそのオッサンの言葉には奇妙な説得力があって
触発された俺は家に帰って必死に「裏」でリズムをとろうとしたものの上手くいかずヤケクソになって風車のようにラップしていた事を覚えている。
そのとき確かに風は吹いていた。俺が嗅いだことのない時代のニオイが鼻先をかすめていた。






そんな時代の「本場」を生きてきたラッパーのひとりと昨日会うことができた。
Mad Lion氏である。








↓↓最初にラップしてるのがMad Lion氏。




↓↓数ある代表曲のひとつ。










DJ YUTAKA氏のスタジオの中で初めての握手を交わした彼は非常にきさくな人だった。
DJ YUTAKA氏とSIMONJAP氏に紹介された俺が自己紹介をしようとしたら、彼は鷹揚に手を振って「酒は飲めるのか?」と無表情で聞いてきたのだ。




「ノー、レコーディング アフター…。」とかカタコト英語で俺が答えると、彼は近くにあったコップに「山崎」のウイスキーを3分の1ほど注いで「さあ飲め」と言わんばかりに差し出してきた。




「高知のはちきん」ではないが俺は出された酒は断らない(断れない)日本人である。
ぐっと飲み干して顔をしかめている俺を尻目にMad Lion氏はニヤニヤしながらPCをいじってトラックを流し始めた。




一発目に流した無茶苦茶かっこいいトラックは、よくよく聴いたらベースになっているメロディが「さくら」である。

「さくら」のメロディをアレンジしたぶっといベースラインと自然に首を振ってしまうグルーヴ。


サビの部分に差し掛かると彼は
「さあ金を稼ぐんだ!!」と叫びながら立ち上がり、ノリノリで指を鳴らして踊っていた。


なんつー「Mad」なイカレっぷりだ。
俺は笑いながらテーブルに置いてあったポテチを勝手にむさぼり食っていた。













1曲目の録りが終わり2曲目。


俺がブースに入りあらかじめ用意したリリックをキックすると、どうもプロデューサーMad LIon氏の反応が芳しくない。


1曲目を蹴りこんだ時の超ゴキゲンな反応と違うのだ。明らかにシックリ来ていない。




その曲のテーマが俺が普段LIVEであまり扱わないトピックだった事もあり、正直俺自身そのバースにはあまり納得いっていなかった。

4通りのリリック(計32小節)をその場で書き上げてはいたがどれもクリティカルヒットするまでには至らない。いくら製作時間が短いとはいっても、ラッパーにとって「100%出し切れていない」とRecした時点でわかっているバースは廃棄物でしかない、そんなものを世に送り出す事ほど辛いことはない。





どうすればいい?簡単だ。
俺はただいつもしている事をするだけだった。












一本目のフリースタイルは6小節目でテーマからずれてしまったのでボツ。3本目くらいで「もっと言葉を抜いてみてくれないか」とMad Lion氏から指摘が入った。




日本語がほとんどわからない彼が俺のまくしたてるフリースタイルを聞いて感じているのは「フロウ」と「グルーヴ」のみである。


SIMONJAP氏が通訳してブースの中の俺に届けてくれるMad Lion氏のさまざまな指示は、今までのどのプロデューサーとも違うものだった。
「ダンスミュージック」として成立するか否か。
意味や理屈を削ぎ落とす必要があった。固定観念の通用しないレコーディングはひどくスリリングで、超自然的にエモーショナルなフローは全身から溢れ出していた。






フリースタイルを「合わせていく」感覚は俺にとってこれまで積み上げてきたキャリアとはまた別の次元での発見だった。








6回ほどテイクを重ねてOKが出た。


ダブルを入れて(フリースタイルで録って一番苦労するのはダブルだ。理由は歌詞がないから。)ブースを出ると
立ち上がったMad Lion氏が右手を胸に当ててお辞儀をしてくれていた。この日一番印象に残ったシーンだった。





朝方ひとりでスタジオを出て
すき家で焼き鳥丼をガンガン食って家に帰った。悪くない朝日がベランダから差していた。寝てないのに目が冴えていた。











また今週中にはスタジオに行く。


学べることはまだまだあるはずだ。






big up Mad Lion.







この日作った2曲は、Mad Lion氏の新しいMIX TAPEに入るので是非。







輪入道