浅田真央選手は女子選手として、トリプルアクセルを成功させた数少ないスケーターの一人です。
小さい時から注目を集め、オリンピックには2010年のバンクーバー（カナダ）、2014年のソチ（ロシア）の2回出場しました。2006年のトリノ（イタリア）は、国際スケート連合（ＩＳＵ）が定めた出場条件である15歳という年齢に達していなかったため、出場できませんでした。
バンクーバーでは銀メダルとなり、次のソチでは悲願の金メダルをめざしましたが、ショートプログラムの最初のアクセルジャンプで失敗し、その後の演技にも、いつものキレとスピードが感じられませんでした。結局、ショートプログラムで16位となりました。シニア転向後最低の順位だったそうです。
「最初のアクセルから『いつもと違う』と思ってしまいました」「自分の考えと気持ちが違いました。（気持ちはいくと？）そうですね、でも体がついてきませんでした。」と浅田選手は語っています。
メダル獲得が絶望な状況の中、ブルーの衣装、ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第２番』で臨んだフリースケートでは、何かから解放されたような完璧な演技で、世界中で観ている人たちの心に大きな感動をもたらしました。その後の会場の大声援がそれを表わしています。冒頭のトリプルアクセルを含め8回の3回転ジャンプを決め、フリースケートの得点は142.71という自己ベストで、そのシーズンの世界最高得点でした。
以下の記事によりますと、ショートプログラム終了後、家族だけでなく、マラソンの高橋尚子選手、荒川静香、安藤美姫、小塚崇彦などから浅田選手を励ますメールが次々と届いたそうです。
男子シングルに出場していたミーシャ・ジー（ウズベキスタン）が、「＃ＧｏＭａｏ」「＃ＭａｏＦｉｇｈｔ」のハッシュタグをつけて、応援する仲間を募りました。
ファンだけではなく、ジェレミー・アボット（米国）、ジェフリー・バトル（カナダ）、ジョアニー・ロシェット（カナダ）ら海外のスケーターも次々にメッセージを発信し、２つのハッシュタグを含むツイートは、ＳＰ、フリーが行われた２日間で９万２０６３件にまで達していたそうです
この時のことを、浅田選手は次のように語っています。
「たくさんの方に励ましの言葉をもらったので、最後は覚悟を決めてリンクに立ちました。」「終わったときは『やった』という気持ちが強くて、たくさんの方から『笑顔が見たい』というメールが来たので、終わったときは良かったと思って、すごいうれしかったんですけど、おじぎのときは笑顔になろうと思いました。自分の中ではうれしかったです。うれし泣きと笑顔です。」
フリースケートの演技が終わってからの、浅田選手の泣いているような笑っているような表情は、それを物語っています。最終的に、6位入賞となりました。もはや浅田選手の順位など気にならないほどの大きな感動に包まれました。
フリースケートの演技を世界がどう見たのか各国の実況をまとめた記事です。
浅田真央選手のオリンピックの演技をまとめてみられます。オリンピックの公式動画です。
2010年バンクーバー（カナダ）
ショートプログラム：ハチャトゥリアン『仮面舞踏会』
フリースケート：ラフマニノフ 前奏曲「鐘」
前回のトリノでは年齢制限で出場できず、世界中が待ちわびたオリンピックデビューでした。伸び伸びと滑っている様子がうかがえます。演技が終わると同時に、会場から盛大な拍手と歓声が送られます。しかしフリースケートで、なぜあのような暗い曲調の曲を使ったのでしょうね。
フリースケートの演技を観て思い出しました。この時、浅田選手も、北京五輪の羽生選手のように、リンクの穴にひっかかって、ジャンプが1回転になったのでした。ジャンプの点数は、わずか0・44点。その後の演技には勢いがなくなったように見えました。
「跳ぶ前にガクッときてしまった。疲れかもしれない」と浅田選手は、そう振り返っています。
この時、キム・ヨナ選手（韓国）が金メダルで、浅田選手は銀メダルを獲得しました。
2014年ソチ（ロシア）
ショートプログラム：フレデリック・ショパン「ノクターン（夜想曲）」
フリースケート：ラフマニノフ『ピアノ協奏曲第２番』
浅田選手を失意のどん底に突き落としたショートプログラムと、世界中のファンやスケート選手、アスリートから励ましのメッセージを送られ、気持ちを立て直し、見事な演技をしたフリースケートが観られます。
すらりと伸びた細くて長い脚、可憐な雰囲気、高度な技術と完成された美しい演技、あくまでも自分と向き合って限界に挑戦し続ける強い意思とひたむきな姿に、世界中の多くのファン、スケーターが魅了され、多くの人々から愛された選手でした。（続）