クロック井上です。

ブログを見ていただいてありがとうございます。

今回はキンツレーの釣テンプチャイムです。

時計の外観、外した器械の表側、裏側、珍しい物品税の紙があったので写真を入れておきます。

この時計はそんなに古い時計ではないのですが、物品税のシールがあるので物品税が廃止される1989年以前の時計であることが分かります。物品税が掛かっているので高級時計です。

この時計の特徴は、ウエストミンスターのチャイム付きで、脱進機が釣テンプだということです。

 

お客様が持ち込まれたとき、急に遅れが発生したので直してほしいとのことでした。

ざっとでいいからどれくらいの金額が掛かると聞かれたので、4~5万位ですとお伝えしました。

OKの返事をいただいたのでお預かりしました。

 

この時計、私は修理した記憶がないのです。

チャイム時計は部品の数が多いので時間はかかりますが、60年くらい前の時計なのでそんなに古いものではないので、楽勝かなと思って預かったのですが・・・

分解しました。すると私の先代の修理の痕跡がありました。

先代が修理した時計ならば無茶はしていないはずなのですが、そうではなかったのです

 

分解した後の部品の写真を並べておきます。

 

 

順に撞木機構、香箱とゼンマイ、表側のカムとレバー、地板を外した後の輪列の姿、そして外した歯車です。

これを見てお客様が言っていた、遅れの原因はわかりました。

お客様がオイルを付けたと思われ、テンプのり上にかなり厚くオイルが固着していました。そのため固着したオイルの重さによって遅れが出たと思われます。

 

簡単だと思ったのですが、重大な欠陥が2点見つかりました。

1点は釣テンプとアンクルがかなり激しく変形していること。

2点目は時方のゼンマイのが外端が切れる寸前でした。

香箱入りゼンマイは、切れると大変なことが発生します。

内端が切れた場合は、歯車外側に力が加わります。そのため入れ歯が必要な歯車の破損がかなりの高確率で発生します。

逆に外端が切れた場合は中の軸が空滑りするだけなので、時計にはほとんど負担は掛からないのです。しかし、ゼンマイを巻いているときに外端が切れるとその反動で巻いている人間の手に激しい衝撃が来るのです。

これは、噂話なのですが、昔々ある有名な野球選手(現役時代には16番の背番号を付けていた大選手)のご家族がゼンマイを巻いているときにゼンマイが切れて手に衝撃が加わり骨折したとの話を聞いたことがあります。本当の話なのか違うのか分かりません。私もゼンマイを巻いているときに、ゼンマイが切れて衝撃を受けた経験があるのです。骨折には至らなかったのですが手指が切れました。

だから、香箱入りのゼンマイ時計はものすごく怖いのです。

本当は、香箱ゼンマイ時計は修理を断りたいくらいなのです。

お客様にゼンマイの危険性については、丁寧に丁寧にお話ししなければいけないのです。

 

現状は分解掃除をして、輪列を地板に組み込んだ状態です。

問題の個所は組んだ後でも外して直せるところなのでまた後日修理します。

次回はゼンマイの修理と、テンプアンクルの調整についてお伝えしようと考えています。

                                         クロック 井上