今朝の地元紙報道で、石垣市当局内に設置された「石垣と台湾基隆を結ぶ定期航路フェリー開設に係る検討委員会」が中山市長に施策提案を出したとの記事が大きく出ていました。

 

この高速船による石垣と台湾を結ぶ計画は、2016年頃にも検討されましたが、採算性等の目途が立たずにとん挫した経緯がありましたが、ここに来て急展開となっていることに違和感を感じてますが、一連の報道や先島諸島を取り巻く状況を併せて考えると報道されている表面上のこととは異なる、背後で深刻なことが動いているのではと感じます。
 

高速船「ナッチャン・レラ」とは。
このスタイリッシュな双胴船は、東日本フェリーが青森港と北海道函館港を結ぶ青函航路に就航させるために2000年代に2隻建造した高速船で、建造は高速双胴船造船大手の「オーストラリアのインキャット・タスマニア社」、船名はそれぞれ「ナッチャンworld」・「ナッチャン・Rera(レラ)」となり2007年に同航路に就航。


しかしながら、就航してから燃費の悪さや高速船の曳き波による養殖業への悪影響で高速運航が出来なくなるなどの問題で、運航を停止、その後、同社は津軽海峡フェリーに吸収合併され細々と運航していました。
 

ナッチャン号の高速運航性能、貨物・車両搭載量に目を付けた防衛省・陸上自衛隊は、離島奪還作戦等の国内大規模演習で同船をチャーターするなどして、防衛省による購入する検討もされましたが、結局、「ナッチャン・World」を現在もチャーター船として活用、「ナッチャン・Rera(レラ)」は、台湾の運送大手の華岡集団(WAGON・GROUP)に売却されてしまいました。

(陸上自衛隊の演習で戦車を運ぶナッチャンworld)


2013年11月に行われた島嶼防衛の自衛隊演習では、ナッチャンWorldが自衛隊車両約40両や隊員を石垣港新港地区(南ぬ浜町)に運んで来ています。


この「ナッチャン」号を建造した、オーストラリアのインキャット・タスマニア社ですが、アメリカ海軍の高速輸送船を建造した事もあります。


 

 

石垣港ー台湾花蓮港就航計画

「ナッチャンRera」を取得した台湾の華岡集団(WAGON・GROUP)は、台湾の宜蘭県蘇澳港と花蓮港を結ぶ航路で運航していましたが、2016年に沖縄の運送会社「あんしん」と共同で石垣港と台湾花蓮港を結ぶ定期航路を計画、実際に台湾花蓮の経済人や大物政治家らを乗せて花蓮港から石垣港に試験運行を実施しました。

(石垣港に接岸したナッチャンRera、船名は「麗娜」となっているが、英語表記はそのまま。石垣市関係者を招待して船内見学を実施)

 

石垣港ー花蓮港就航を目指していた同社でしたが、集客や採算性、貨物が同路線では期待できない、貨物搭載車両通行用ランプウェイが船尾にしかないなどの問題で、就航実現には至りませんでした。

(台湾宜蘭県蘇澳港に停泊しているナッチャンRera 2014年市議会建設土木委員会蘇澳鎮訪問時)

 

突如浮上した就航計画

当時、石垣港へは大型クルーズ船が頻繁に就航しており、比較的安価なカジュアルクルーズで台湾から多くのクルーズ客も訪れていました。
また、新石垣空港国際線には台湾の中華航空の季節運航、台湾他社のチャーター機の運航、香港LCCのHongKongExpressの就航で国際線の利用客も増加、コロナ禍前には大手LCCによる新石垣ー台湾間就航も具体的に進んでいるなど、海路による就航の必要性は乏しく話題にも上がりませんでした。

その後、世界的なコロナ禍で空路海路共に就航は無くなり、今年に入りやっとクルーズ船の寄港が再開、国際チャーター便も運航され、コロナ禍前の状況に近づきつつある中、突如浮上したのが再び「ナッチャンRera」による、石垣港ー台湾基隆港就航の計画です。

国際線の復活では、就航を検討した航空会社もありましたが、保安要員の確保の目途が立たず再開に至っていませんが、いずれ空路再開も期待できる中、あえて海路開設なのか。

政府の積極的な支援と市長の不自然な要請

2016年の石垣港-台湾花蓮港就航計画時と今回の就航計画では、政府と石垣市の取り組みが雲泥の差で進んでいます。
今朝の地元紙の記事には、今回の就航に中山市長は「住民避難の際の活用を見込む」と発言しており、これは台湾有事の際の住民島外避難を差していると思われます。
中山市長にとって「台湾有事は打ち出の小槌」なのでしょうか。
12月18日、石垣市議会は最終本会議を迎えましたが、中山市長はその翌日19日に上京し、防衛相や沖縄担当相に台湾有事を念頭とした空港や港湾の拡張等の要請をしており、その際に、木原防衛大臣に台湾との定期航路開設について述べているし、自見沖縄担当相には、「ナッチャンRera」号で課題となっていた貨物搭載車両通行用ランプウェイの船体サイドに増設する改修費用に国の財源支出を要請しています。

 

 

木原防衛相の「観光の観点から面白いのではないか。ぜひ観光と結び付けて進めてほしい」と応じたようですが、この「観光と結び付けて」は観光と何を結び付けてなのかが非常に気になりますが…

この要請した日は、永田町や霞が関は、政治資金問題で自民党派閥事務所に家宅捜索が入り、自見沖縄担当相の辞任や派閥離脱が問題となっている大変な状況にあるにも関わらず、このような要請をしているのも不自然で、上の記事は地元紙2社のものですが、どれも市提供の要請画像となっており、市長自らマスコミ各社に送りつけたのかどうかは不明ですが、異様なアピール感丸出しで違和感を感じます。

 

今朝の記事では、「ナッチャンRera(レラ)」の船籍を「台湾籍」から便宜置籍の「パナマ船籍」とするとあり、驚くのは、船体サイドランプ改修費の約7億円を内閣府からの補助金を充当するとのこと。
外国船籍の改修になぜ日本の公金を充当するのか疑問ですが、台湾定期路線開設を防衛大臣に要請している理由に、すでに姉妹船「ナッチャンWorld」で行った、軍事車両自走積み込み用とするからではないかと推測します。

今年秋に実施された日米共同演習レゾリュートドラゴンでは、新石垣空港に航空自衛隊の輸送機C-2が、米海兵隊の最新鋭の対空戦闘レーダーを空輸し、今後の日米軍事一体化の様相を呈してきました。

 

 

この台湾定期路線就航計画ですが、人々の国際交流への期待と裏腹に「観光は平和産業」を隠れ蓑に水面下で軍事作戦をも想定しているのかと思うと、暗澹たる思いに駆られてしまいます。