因業地主と野良犬ブチ(お婆ちゃんの昔話)その3 | ゴマメの呟き・アンモナイトの徒然草

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第5章 ブチのくれたご飯


所が、一口、口に入れたとたん、嘉衛門は顔を歪めました。御飯の中に、砂利や小石が混じっていて、食べられなかったからです。


「折角ご飯を頂きましたが、これでは、じゃりじゃりしていて、食べた気がしません。石の混じっていないご飯と、取り替えていただけませんか」と嘉衛門は申しました。

すると、「そうですか、しかし貴方が私に下さった飯(めし)もこれと同じようなものでしたよ。貴方は確かに、腹の減っている私に、飯を恵んで下さいましたけれど、いつも直に(じかに)泥の上へ放り投げて、与えてくれたでしょう。その為、私の飯も、貴方が今、食べている飯と同じで、ジャリジャリしていて、とても食べ難かったものです。だから、今の私にはこれが精一杯です」とブチ鬼は申します。


腹の減っている嘉衛門は、仕方がないので、小石混じりの御飯でも、食べるより仕方がありませんでした。

しかし手鎖によって手の自由が奪われている嘉衛門には、手で小石をより分ける事は出来ません。それだからと言って、小砂利ならともかく、小石までは、そのまま飲みこむ事もできません。嘉衛門は犬のように這いつくばってお鉢の中に顔を突っ込むと、舌の先で小石や大粒の砂利をより分けながら懸命に食べました。


しかし非常に少しずつしか飲み込むことが出来ませんから、食べても、食べても、本当に食べた気がしませんでした。


第6章 相変わらずの強欲ぶり 


それでも嘉衛門は、お鉢の上に覆いかぶさるようにして、せっせとご飯を食べ続けました。

所が、食べるのに、時間がかかっているうちに、いつの間にか彼の周りには、人頭カラスや、同じ餓鬼道に落ちている、他の亡者どもが、一杯集まってきて、隙を狙って、その飯を横取りしようとし始めました。


彼らも、腹が減っていますから必死です。

鉢の中に頭を突っ込もうと、嘉衛門の頭に咬みついたり、頭突きをしたり、体ごとぶつかってきたりと、何んとか、嘉衛門を鉢から、押し退けようとします。


嘉衛門も、一粒でも盗られてなるものかとばかり、そいつらにかみついたり、頭突きを食らわせたりしながら、身体全体で飯を覆うようにして、飯を守りながら、御飯を食べ続けました。


食べても、食べても、一向に減っていかないほど沢山にご飯はあったのですが、嘉衛門は、絶対に、他の亡者に分けてやろうとしませんでした。

独り占めして、いつまでもいつまでも食べ続けておりました。周りの餓えた亡者達の目を気にすることもなく食べ続けました。


第7章 気がつけば元の地獄風景


こうして食べ続けているうちに、ご飯でパンパンに張ったお腹は、とうとうパンクしてしまい、嘉衛門はその場で、もう一度死んでしまいました。するとそれを待っていたかのように、彼の周りにいた亡者どもは、いっせいに


嘉衛門に飛びかかり、大鉢の中の飯は無論のこと、彼の破れたお腹から漏れ出していた飯も、最後は嘉衛門の身体さえも、全部食べつくし、残っていたのは、白い骨だけとなってしまいました。


所が、死んで暫くしますと、骨の上を、一陣の風が通り過ぎて行き、それにつれて嘉衛門は、また元の姿に戻り、そして意識も戻ってきました。


見回すと、そこにはもうブチ鬼の姿も、あの飯が盛られていた大鉢もみあたりませんでした。そこに見えるのは、以前に広がっていた、地獄の寒々とした光景だけでした。お腹も以前のように苦しくて仕方がないほどに減っておりました。


今ではあの腹いっぱい食べた事が、夢の中の出来事のように思えました。


とその時、まだ事態がはっきりと見えないままに、ぼんやりと立っている嘉衛門をめがけて、鬼の激しい怒声と、厳しい鞭が続けざまにとんでまいりました。また今から、以前の苦しい地獄の生活が戻ってきたのです。


ブチ鬼からの報告を聞いた閻魔さまは「お前が申し出たから、もしかしたらと思って、お前を見に行かせたが、それではなー」とおっしゃると、沈鬱な顔をして、そのまま奥へと入ってしまわれましたと。


「縁なき衆生は度し難し(すくいようがない)」というけれど、やはり日頃から、仏様を信じて、良い行いをしようと心掛けている人でなければ、仏様だっていくら救ってやろうとされても、救ってくださりようがないのだからね。

祖母の話は、終わりました。                         


追記


正式の、仏教の教えの地獄道とは少し違っているかもしれません。お坊さんが説法の時の方便として、善男善女に分かりやすいよう、六道の一つである、畜生道、餓鬼道も地獄の一つとして話してくれたために、地獄と六道がもつれ絡まって、この話になってしまったのか、それとも地獄の中に、餓鬼地獄があるという教えが本当にあるか、私にはわかりません。                         終わ