幸せの泉 悲しみの泡
その13 二人、結ばれる
柳の茂る川原に着いた二人は、待ちきれなかったかのように、再び激しく抱き合いました。肌という肌をくっつけ、互いの歯が、音を立てるほど強く唇を合わせました。しばらく見ないうちにめっきり美しくなり、女らしさを増した、おみよの身体から立ち上る、女らしい薫りや、纏わりつくような滑らかな女の肌の感触は,彼の理性を奪ってしまうものでした。伝衛門は、考える事を止めてしまいました。ただ本能に身を任せ、おみよの身体を弄り(まさぐり)ました。
おみよの気持ちも、同じらしく、喘ぎ、もだえ、一層強く絡みついてまいります。会えない間に募った男への思いが、彼女を大胆にさせているようでした。
彼女は、身も心も男に委ね(ゆだね)ました。男は何度も何度も求め、女もそれに応じました。
自分たちの先行きへの不安に怯えながら、それを打ち消そうとするかのように、二人は、何度も、求め合い、愛を確かめ合いました。
しかし、その一時の情熱の嵐が去った後に、再び二人に襲ってくる、未来への不安は、拭い去りようもありませんでした。その夜、二人が、それを口にすることはありませんでした。ただ次の逢瀬の時と場所を約束しただけでした。もしそれを口にしたとき、今の幸せは、泡沫(うたかた)のように消え去ってしまうであろうという、この愛の宿命を予感していたからでした。
その14 おみよ、地頭の所への妾奉公がきまる
その夜二人は、もしどちらかが都合が悪くて、来られなくなったときの為に、この場所に、次に会う時期を示し合わす、合図を残す事に決めました。
この為,その後は、以前よりは少し会いやすくなりました。お互い都合のいい時を示し合わせておいて、会えるようになりました。若い二人は、会えば、互いの身体を貪りあいました。しかし、会えば会うほどに、別れが辛く、物足りなさが募るばかりでした。
しかも、この二人を取り巻く状況は益々悪くなっておりました。伝衛門の所では、あまりに話しに乗ってこない伝衛門の態度に、痺れを切らした父親が、伝衛門の承諾もなく、勝手に、他の部落の長の娘との縁談を進めようとしていました。
一方、おみよの方も、おみよの美貌を聞きつけた、この地の地頭から、妾奉公に出して欲しいという話が、長を通して、舞い込んできていました。もし、おみよが、自分の所に来てくれるなら、およし婆さんには、たっぷり金を下して、一生楽をさせてやるし、村の年貢も少し負けてやるという好条件までついていました。
こうなりますと、人は現金なものです。今まで冷たくして、近寄りもしなかった連中が、さかんにおよし婆さんの機嫌をとり、顔色を窺うようになりました
。
幼い時からおみよのことを可愛がってくれていた長も、「無理は言わないけれど、出来たら、地頭の所に行ってもらえないだろうか。」と頼みます。
村の事などどうなってもいいと言っていたおよし婆さんでしたが、食うや食わずの、この貧しい生活から抜け出し、新しい屋敷に、女中まで付いた生活が待っているというこの話には、心が動きました。およし婆さんはもう、おみよの意向とは関係なく、地頭の世話になる事を決めてしまっていました。(註:当時はこういう話は親がかってに決めてしまって、子供の感情や意思などあまり考慮されませんでした。)
次回に続く、次回投稿は8月23日