「渡辺徹」

という名は

本名である。



親にいただいた名前には誇りを持っているが
よく考えると

この「渡辺徹」という名は、ありきたりだなぁと思える。
なにしろ「渡辺」と「徹」の組み合わせである。
どちらもかなりポピュラーだ。

が故に、これまで何度も同姓同名の「渡辺徹」さんに出会ってきた。



俺が中1の時の3年生に「渡辺徹」さんがいた。当時の生徒会長だった。
後に俺も会長になるので、我が中学は「渡辺徹」の生徒会長率が高かった。


NHKアナウンサーさんと広島のテレビ局のアナウンサーさんが「渡辺徹」さんだった。
よく、身に覚えのない番組名を言われ「見ましたよ」と声をかけられた。
「渡辺徹」はアナウンサー率が高いのだ


車で街中を走っていても「渡辺徹」の看板をよく見かける
弁護士事務所さんであったり、歯医者さんであったり・・・ん?高偏差値の率も高いのか


選挙の立候補者にも「渡辺徹」さんがいらした。
何人かに「がんばってね」と声をかけられた
ますだおかだの岡田などは、メールにわざわざ選挙事務所の写真を添えて「フレーフレー」などと送ってきたほどだ。


アイドル時代、2軒隣の家が「渡辺徹」さんであった。
そちらのお宅に、ファンレターが大量に届いたり、ファンが押し寄せたりして、ご迷惑をおかけしてしまい、すぐに引っ越しをせざるを得なくなった。


SNS上でも、よく「渡辺徹」です。とご挨拶をいただく。「渡辺徹」はSNS率も高い。







本名で仕事をするというのは、ちょっと困った事も出てくる。



例えば


役所などで待っていると、マイク越しに「はい、渡辺徹さん」と呼ばれる。
すると周りの方々にジロジロと見られ「あ、どうも」「この前見ましたよ」「この辺にお住まいなのですね」「郁恵ちゃん大事にしなきゃダメだよ」などなど、急に言葉をかけられてしまう。
ほとんど部屋着で訪れていた場合などは赤面ものである。

後は、銀行、薬局、病院 などなど







以前




久しぶりに、人間ドックのようにいろいろ検査をしてもらおうと、大学病院に行った時だ。




ちょうど胸のレントゲンが何かを撮ってもらう順番だった。
その日は外来がとても混んでいた。
仕方なく、帽子を目深にかぶり、サングラスとマスクをつけ、いわゆる芸能人仕様のいでたちで座って待っていた。




すると



「さいとうけいこさーん」


と声がかかった。



え、さいとうけいこさんて、あの「斎藤慶子」さん??


周りの人達もそのアナウンスに反応して、顔をあげた。







すると





ご年配のご婦人が「はーい」と言って検査室に入っていった。






そりゃそうだ、そんな簡単に女優の斎藤慶子さんがいるわけがない。














しばらくすると






今度は

「なかむらさん」「なかむらとおるさーん」とアナウンスが・・・

がしかし、まさかあの俳優の「仲村トオル」さんではあるまい、と、そこにいた皆が思いつつ、それでも、ひょっとしてとみんなが顔をあげた。



案の定

「はい」と言いながら、初老の男性が検査室に入っていった。




全員に

「そりゃそうだ」

の空気が流れた。









そして









「渡辺さーん」「渡辺徹さーーん」とのアナウンスが。


やっと俺の番だ。



と腰をあげようとすると・・・





周りがクスクス笑っている



失笑である。





そりゃそうだ

なにしろ
斎藤慶子
仲村トオル
渡辺徹
と有名人の名が3人続いたのだ。


しかもこれまで、全く予想を裏切るお年寄りであった。

であるから

最後の「渡辺徹」はオチになってしまっている




俺は心の中で

「いや、違う」
「ここは本物です」
「あの歌う青春アクションスターの渡辺徹です」

と訴えながら




自ら

帽子とサングラスを取り


そこに座っていたみなさんに


満面の笑みで


ゆっくりと検査室に向かった。











なにやってるだ、俺・・・(>_<)