レイコさんの「一皿ずつ完食方式」と、今日も聞けた「美味しい」
ここ1か月くらい、レイコさんの食事風景が少し変わってきた。以前は、おかずをひと口、ごはんをひと口、そしてお汁をすすって……と、多少の偏りはあっても、なんとなく食卓全体を見渡しながら箸が動いていた。ところが最近は、どうも「一点集中型」になったらしい。まず、お汁。お汁を飲み始めると、ひたすらお汁。途中でごはんに寄り道することはない。お汁の任務が終了すると、今度はごはん。白いごはんを黙々と食べる。そして、おかずのお皿に進むと、その一皿をきれいに空にしてから、ようやく次のお皿へ。まるで、「一つの仕事を終わらせてから次へ進みます」という職人気質。いやいや、レイコさん。食事はもう少し“同時進行”でもいいんですよ。「おかずと一緒にごはん食べたら?」「おつゆも一緒にどう?」そう声をかけてみるけれど、一度ロックオンしたお皿から、なかなか箸は離れない。認知症が進むと、一度にいくつものことへ注意を向けたり、次の行動へ切り替えたりすることが難しくなることがあるという。だから、この食べ方の変化も、そのひとつなのかもしれない。毎日一緒にいるからこそ、小さな変化に気づく。そして、その小さな変化が、ときどき胸にチクリと刺さる。「ああ、少しずつ進んでいるんだなあ」そんな現実を見せられるようで、ちょっと寂しい。それでも私はいつものように聞く。「しょっぱくない?」「味、薄くない?」するとレイコさんは、ほぼ必ず答える。「美味しいよ」お汁だけの日も。ごはんだけを黙々と食べているときも。一皿ずつ攻略している最中も。「美味しい」そのひと言が聞けると、まあ、食べる順番くらい、いいか。栄養のバランスも大事。食べ方の変化を見守ることも大事。でも今日もちゃんと食卓に座って、ごはんを食べて、「美味しい」と言ってくれる。今の私には、それが何よりのごちそうなのかもしれない。