晴

 少しく風あり 寒暖計五十二度(注・=摂氏11.1度)

 

 午前岩溪裳川氏を訪ふ、山県公より鶴肉を贈られたる謝詩の添削を乞はんが為めなり。然るに氏は数日前より鎌倉に赴き両三日後ならでは帰宅せずとの事なれば右の詩を家人に託して帰る。

 

[下條桂谷老松図]

 三井高保氏を訪ふて年礼を述べ、更に下條桂谷翁を尋ねたるに在宅にて種々の雑談あり。中にも過日同氏が余に贈るられたる老松の図は昨年天長節に揮毫したる十幅の一なりと云ふ、殊に翁が老松を画きたるは今上陛下が皇太子として桂公邸に行啓の節、氏は御前に於て席画を御覧に入れたるに頗る殿下の御意に叶ひ、其後程なく殿下に拝謁せしに「下條あれから直ぐ帰宅せしや」など馴れなれしき御物語ありしが、扨て今度御即位ありて日本美術協会へ行幸の節は、威厳頓に加はり嘗て[かつて]皇太子たりし時の軽快に似給はざれば、氏は陛下が名君の御資質を具へさせらるるに感じ、弥々[いよいよ]大御代万歳を祝して其第一天長節に彼の老松を画題としたるなりと。氏は斯く語りて、されば本年君が新宅の床に掛けさせたき希望にて粗画ながら特に彼の一幅を寄贈したるなりと言へり。

 

 午後、藤谷宗匠及び義兄山本夫婦来宅、広間にて薄茶を試点せり。

 

 為楽庵歳暮茶会記を認む。【東都茶会記】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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