月曜日 

 東京京都共に雨 寒暖計東京五十六度(注・=摂氏13.3度)

 

[大徳寺龍光院の曜変天目]

 午前、帝室博物館を参観せしに、幸ひ大徳寺龍光院の曜変天目が出陳せられたれば篤と之を検分せしに、稲葉子爵のと同形同大にして其覆輪なきも亦同様なり。但し斑紋は梅鉢形にして内部に十余点散在するのみ、且つ其色彩も甚だ引立たず、日光に映して五彩燦爛たる部分少きは固より稲葉家のに比較すべきに非ず。徳川圀順侯の曜変天目も亦之れより数段の面白味あり。彼此比較参考するに稲葉家のは十六万七千円の高価を出したるだけに今日までの所にては最も優秀なりと思はれぬ。

 

[京都祇園名物都踊]

 夕食後、都踊を見物す。京都にては四月一ヶ月間都踊を一夜五回宛興行するに、六、七百人を容るべき会場の毎夜立錐の地を留めざるは東京大阪などの到底及ぶ所に非ず。隨て(注・したがって)道具立も年々に進歩し踊子の手振の一様に揃ふ所是れが亦無類なり。今年の出物は八坂神社の梅、伊勢外宮神苑の納涼、伊勢音頭古市踊、内宮の神楽殿、宇治橋の雪、二見浦の桜等にて、中にも二見浦の波が寄せては返すやう工夫したるは最も見物人の目を驚かせり。祇園廓内の申合せにて都踊に徴発せらるる大小妓は親の九死一生と雖も必ず参席せざる可からざる由にて、一ヶ月は二日乃至三日を隔てて五回の演芸に参列を余儀なくせられ、然も唯々として此圧制に服従し居るは東京などにて到底見る可からざる柔順にて、此習慣あるに依り都踊も始めて興行し得らるるならん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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