木曜日

 曇 小雨 寒暖計四十七度(注・=摂氏8.3度)

 

 各処桜花満開したれど本日は気候寒冷冬の如し。警視庁に於ては都下観花の仮装行列を大目に見逃す方針の由にて、上野、飛鳥山の辺に様々の形装を為したる観花客多しとなり。唯昨日来の雨天は花開いて風雨多しとや言はまし。

 

[伽藍洞花見会]

 午後三時頃より平岡、山本夫婦、延寿太夫父子、梅吉、梅之助、菊之助、千歳太夫、瓢家、田川両女将など十数人を招きて自宅観花会を催せり。山本の姉室内少食世話方と為り、汁粉屋一木庵、天麩羅オデン店等様々の模擬店を作り、来客い当箝めたる戯画ビラを楣(のき)間に張り付けて一同の目を驚かせり。袋物商丸嘉主人の清元青海波及び東明節小波、山本栄男の清元文弥などあり。延寿太夫連は一村座助六狂言に出演の為め六時半頃退出、其他夜分九時半頃まで遊興せり。

 

[村井吉兵衛新庭の大石]

 赤坂田町通を隔てて当宅と遥に相対する永田町村井吉兵衛氏新宅普請追々進行、目下庭園建設中の由なるが、此程甲州より重量一万貫の庭石を取寄せ、汐留駅より三日間を費して辛うじ邸内に引入れたる由、或る日途上にて其石を一覧せしに、唯大石と云ふのみにて形も色も見栄なく、甲州にて五百円にて買取り其運送費殆んど同額を費したる由なるが、此石一つを観れば村井家新庭の如何に俗気紛々たるやを想像する事を得べし。無趣味なる俄富限者の為す所概ね斯くの如し。されど従来遠方より東京に回送されたる庭石は五千貫が最重量なりと聞けば、一石一万貫は蓋し今度が初めてなるべし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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