皆さん、おはこんです(*゚▽゚)ノ

今日は手塚治虫先生のご命日です。
最近読んだ手塚先生の素晴らしい作品の
イラストと感想で偲ばせていただきたいと思います。

今回読んだ作品は、MW (ムウ)。
先月SATOEMAブログ記事に書いた「奇子」や「きりひと賛歌」のように『黒手塚』と呼ばれるダークで重い物語でした。

手塚治虫先生の晩年の作品で、当時の社会への警告であり、
現代にも通用するメッセージにもなっていると思います。

命日を偲ぶというにはかなり過激な内容かも知れませんが、もし手塚治虫先生がご存命なら今の日本の状態をご覧になり、再びMWのような作品で警告されるのではないでしょうか。
そんな思いから書かせていただきました。


⚠️ネタバレ注意⚠️
以下に「MW」についてのネタバレがあります。




★絵馬イラスト「MW」(模写アレンジ)筆ペン作品

※イラストのご説明は後ほどm(*_ _)m





《ざっくりあらすじ》
時代は昭和の高度経済成長期。
東京のとある教会の賀来という神父には、秘密がありました。
少年時代に不良少年達について行った離島で島民全滅事件を目撃してしまいました。

島には某国の機密貯蔵庫があり、そこにはMW(ムウ)と呼ばれる化学兵器=有毒ガスが厳重に保管されていました。
それが突然漏洩してしまい、島民をはじめ生き物はすべて死に絶えたのです。

島のはずれの洞穴にいた賀来とその時に偶然島に来ていた小学生・結城美知夫だけが助かりました。
ですが美知夫は残留ガスの影響で頭痛や吐き気などで苦しみ始めます。
2人は何とか島を脱出し日常生活に戻りました。

事件は政治と軍事機密のためひた隠しにされ、
世間には一切伝えられずに15年が過ぎました。

成長した結城美知夫は優秀な銀行マンになり、
支店長からの信頼も厚く出世有望株です。
美知夫は歌舞伎役者の河本玉之丞の弟で、女の子のような美少年から美貌の青年に成長して女性からの人気も絶大です。(縁を切ったようで家族関係については普段は秘密にしています。)

ところが美知夫は「MWのために大脳が冒されたのか、知能は進んでも、その心には一片の良心やモラルの欠片もなくなってしまった」(賀来のセリフ:原作のまま)
それを知っているのは賀来だけ…。

美知夫は知能も美貌も駆使して自分の欲望のままに犯罪行為を繰り返し、警察に追われると賀来の教会に「懺悔」のフリをして逃げ込みます。
「教会に懺悔に来た人を警察に引渡したり、懺悔の内容は他人に教えられない」…賀来は苦しみながら刑事に伝えます。
美知夫は尼僧に成りすまし教会から平然と出ていくのでした。

賀来にはもうひとつの苦悩の秘密がありました。
美知夫との同性愛の関係です。
15年前にまるで美少女のようなあどけない美知夫を「可愛がって」(美知夫のセリフ)しまったのです。
※…当然当時も犯罪であり、今なら未成年同士の淫行になってしまいます…;

賀来は自分の犯した罪の贖罪とMWのせいで亡くなった島の人々の断末魔の表情が忘れられないため、すがるような気持ちで神父になったのです。

そんな賀来を嘲笑い「俺たちは一蓮托生だ!」と抱きつく美知夫。
「神よ!我が身を焼いて下さい!」と苦悩しながらも美しく妖しい美知夫を拒めない賀来…。

賀来は思い切って司教様に全てを打ち明けます。
「君の受ける試練は、常に主の御心に沿ったものなのだから…君はきっと仕事を果たせるよ…主のお守りを」
司祭様から広島原爆で亡くなったという司教様のロザリオを渡され自分の教会へと戻っていきます。

美知夫は銀行の支店長や彼が支持する政治家・中田議員がMWの隠蔽に関わっていたと知り、したたかに近づいていたのです。
中田議員が政治スキャンダルで次の選挙に陰りが見えてると支店長から聞いて、ある企業を倒産させて裏金を捻出し献金します。

支店長の娘・美保が自分を気に入ったのを知り、致死薬品を注射して陵辱・殺害します。
女装で彼女に成りすまし身代金を奪ったり、その姿のまま銀行強盗までする悪辣さ…。

時に賀来にも無理やり犯罪に協力させ、
しかも賀来を慕って訪ねて来た信者の女性・澄子を無理やり自分のものにして利用したり、人でなしな振る舞いをして喜ぶ美知夫…。
巨大な雌犬・巴に殺人をさせ、愉快に戯れる姿を覗き見た澄子は「あ、悪魔…」と震えますが、美知夫に魅入られて離れることが出来ません…。

美知夫と賀来に疑念を抱いた検察庁の目黒検事は徹底的に調べてジリジリと追い詰めます。

美知夫は突然倒れました。
実は美知夫の脳にはMWの毒の悪影響が段々と出てきていました。
度々激しい頭痛、ついに意識を失ってしまうくらいの状態でした。
美知夫の病室を中田の娘・美香が見舞います。
澄子に自分が美知夫と婚約していると告げます。

罪の意識に耐えられなくなった賀来は新聞記者の青畑に全てを話しました。
青畑はさらに調査して化学兵器MWは島民全滅事件以降、都心からほど近い某国・R基地内の地下に内密に移送保管されたことを突き止めました。
そして島民の生き残りに会い、証言を元に新聞でMWについての告発をしました。

世間は大騒ぎで国会で中田も証人喚問されます。
「知りません」「記憶にございません」
ひたすらとぼけてやり過ごします。

青畑は島出身の伴という男の居酒屋を訪れます。
ところが爆弾を投げ込まれ青畑はは瀕死の重症を負います。
伴も拐われ拷問されて美知夫の犬に殺されかけます。

意識を取り戻した美知夫は中田議員の娘と結婚し婿入りします。
式場で中田からミンチ中将を紹介された美知夫の目が光ります。
美知夫は中田議員と共にMW隠蔽工作をした空軍司令のミンチ中将とその妻とまで関係して、MWを隠したR基地に入ろうと企んでいました。

美知夫は中田の娘・美香も惨殺し、中田の議員生命を断ち美香の指を中田に送り付けました。
中田はショックで倒れ脳障害を起こします。

賀来はそんな美知夫に「復讐のつもりか!?」と叫びます。
美知夫は「自分は復讐なんかする気はない、それよりMWを使って世界の人間がどれくらい死ぬか見たい」と言います。

自分の寿命が長くないと悟った美知夫は、
自分が死ぬ時は人類も道連れ、という恐ろしいことを考えていました。

R基地に潜入した美知夫は追いかけてきた賀来と共に、とうとうMWを手に入れます。
大量に積み上がるミサイルのようなMWの筒のひとつからガスを抜き取り袋詰めして、「いざとなればばら撒く」と包囲網を脅迫して笑う美知夫。
某国高官の何も知らない幼い子供達を人質にして小型ジェット機に乗り込みます。
追いかけてきた警察や目黒検事も手出しが出来ません。

そんな事態を聞いて駆けつけた美知夫の実兄・河本玉之丞が刑事と二人で密かに小型機に隠れて乗り込んでいました。
美知夫とは瓜二つ、服装まで同じにして、偽のMWの袋を持ち込みこの窮地を救おうとしていました。

美知夫は機内で刑事を射殺し兄と鉢合わせして揉み合いになります。
MWを噴射するも、それは偽物の方でした。

その隙に賀来が本物のMWの袋を奪います。
「結城!勝ったぞ  これで救われるぞ!」
美知夫を殴り、飛行機から飛び降ります。
海中深く沈んでいく賀来、ガスが抜けたMWの袋…。
落胆し涙する美知夫。

そして操縦室に向かう姿に「結城が向かったぞ!」という叫び声がしました。
聞きつけた操縦室のミンチ中将が入ってきた所を拳銃で撃ちます。
絶命した亡骸にそっくりな兄弟が泣いて寄り添います…。

事件の後、MWについてマスコミが騒ぎ立てますが
「奇妙な事に政府からも駐留軍からもなんの公式発表もありません…」
「日本側の操作陣に引き渡されたのは、投身自殺した賀来神父のロザリオだけ」という空回り状態。
国会の質疑応答でも「ただいま調査中であり…」などと、のらりくらりでうやむやになり、謎のまま闇に葬られそうな気配…。

テレビを見ていた元島民の伴が「誰が責任を取ってくれるんだい!」と怒ります。
「島の事件の口止めされた人間を集めて、
証拠を政府に叩きつけてやるぞ!!
国民をなめるなよ!!」
そう叫びます。

検察庁では、目黒検事と河本玉之丞が話していました。
「弟は本当は優しい素直な子だったんです…せめて弟の分も私が頑張って舞台を務めましょう」
そう言って玉之丞が建物を出ようとすると、取り調べに連行されてきた澄子と鉢合わせしてお互いにびっくりします。
美知夫さん!と駆け寄ろうとして
「おい、人違いだ。その人は玉之丞さんだよ。」
そう言われても繰り返し後ろを振り返る澄子…。

目黒検事に見送られ、お礼を言って立ち去るその時。
玉之丞はニヤリと笑いました。
はたして彼は…???


☆☆☆
という、まるでサスペンス劇場のような物語でした。
読み応えタップリ、緊迫場面の連続!
絵馬のイラスト説明に続いて感想を書きます。

☆☆
絵馬イラストを再び貼ります(´°v°)/んぴッ


左上から時計回りに

①MW(ムウ)のタイトルのM

☆やんちゃ時代の少年・賀来、

☆真ん中寄りが神父の賀来


②中央が化学兵器MW

原作ではほとんどラストに近くなるまで姿が見えません。逆にそれが不気味で恐怖感を煽ります。

上の「OFF Limit」は「立ち入り禁止」R基地フェンス門扉に書かれています


③MWタイトルのW

☆美青年になった結城美知夫(後に婿入りして中田)、

☆小学4年生のあどけない美知夫


④右下

☆(中央寄り)ラストにハイジャックされた小型機ジェット機が雲間を飛行

☆(右)国会議事堂(笑)、

☆中田議員とミンチ中将

☆(中央寄り)美知夫と結婚した中田議員の娘の美香

☆新郎の美知夫
☆美知夫が飼っている大型犬・巴
☆MWが入った袋と爆破リモコンを持つ美知夫

⑤(下部中央)背徳に苦悩する賀来と悦びの美知夫

⑥(中央寄り)賀来に会うはずが美知夫に無理やり関係を持たされてしまった澄子
☆(左下)注射器と薬剤、殺された美保
☆(左上)検察庁の目黒検事
☆(中央寄り)教会で懺悔する賀来

⑦イラスト中央
☆十字架をかたどってみました
☆真ん中のKEEPOUT(立ち入り禁止)はMW貯蔵庫の廻りのフェンス門扉、
☆門扉の左右はフェンスでしたが、MWという文字にしてみました(原作はX形)

☆☆
ここから絵馬の感想です。

「悪魔」と呼ばれる美知夫の振り切りった悪者加減が見事です。
「復讐なんかするつもりはない」と言いながら、
執拗にMWに関わった人間を追い詰め命を奪う美知夫。
普通のドラマなら「美知夫も犠牲者なんだ、可哀想」となりますが手塚先生はそう思うことを許さないほどの極悪人として美知夫を描いています。

美知夫は本当に情け容赦なく人々を殺していきます。
なんの躊躇いもなく、書くのもはばかられるような残忍な方法ばかりです。
遺体まで道具として使う様子は悪魔より酷いと思ってしまいます。
私はもし思春期に読んだらトラウマ間違いなしだったでしょう;

美知夫が人間らしく涙を流したのは賀来が飛行機から飛び降りた時だけ。
…いえ?もしかしたら「美知夫」として射殺された兄にも涙を流していた…ようにも見えました。
…でもはたしてそれは本当に「兄」のためなのか、
これから兄として生きる為に死んだことになった「美知夫」という自分のためなのか。

一方の賀来については、昔の悪い行いへの贖罪を懸命にしている苦悩する場面が多いですが、美知夫への複雑過ぎる感情がとても人間らしい気がしました。

自分が美知夫の人生を狂わせてしまったという後悔。MWのためとはいえ何の躊躇いもなく罪を犯し喜ぶ美知夫への憎しみ。

15年前の恐怖を共有する感覚(美知夫の方はもう持ってない様子ですが)。
否定するほどに肌を合わせる快楽をもらたす美知夫に惹かれる気持ち。

手塚先生がこの2人を主軸に描いているテーマは
「人間らしさとは」ということでしょうか。
善悪両面の意味で、です。

そしてもうひとつはやはり「戦争が生み出した弊害」だと思います。
敗戦、占領され秘密裏に持ち込まれている化学兵器。
「MW」(ムウ)という名前についても諸説あるようです。
例えばMan、Womanから来ている、とか。
アルファベットの形態で言うと上下対照ですね?

化学兵器としての「MW」は空想のものですが、
他の化学兵器…ベトナム戦争で使われた物などはどうだったのか?

日本国内で今まで色んな基地問題がありましたが、
すぐにテレビから消えていくのは何故か?
芸能スキャンダルが延々と流されているのと対照的です。

基地問題だけではありません。
政治と金の問題にも切り込んでいます。
金の力で選挙を勝つ、金の力で不都合を揉み消す。
それは「きりひと賛歌」でも描かれていました。

これだけストレートに描くために、
それが霞むくらいのインパクトのあるダークな存在・美知夫が必要だったのかも知れませんね。

ダーク・ヒーローというとブラックジャックもそうですね。
ブラック・ジャックは人命救助なのでベクトルが逆ですが…。
法外な治療費を支払わせることでダークな存在にしている。
最近「火の鳥」も全巻読みました。
そちらは別な機会でゆっくりじっくりSATOEMAで取上げたいと思います。

私が手塚作品に感じたこと。
どの作品にも「神の目線」…まるで火の鳥のような俯瞰で人間を眺めている。
でも、諦めて投げ出したりしないで、
「いつかは変わってくれる」ほのかな希望をずっと持ち続けている…そんな気がしました。
それは石森章太郎先生のサイボーグ009天使編、そしてその二次創作作品櫻井智琉さんの黙示編とも共通しています。
まるでパンドラの箱の底に希望が残っていたように…。

手塚先生が素晴らしいマンガを描かれたから、
それを読んだ石森先生をはじめ多くのマンガ家の先生方がまた新しいマンガを生み出しました。
その恩恵を受けて育った私達は今以上にマンガから夢をもらっていたような気がします。

大人になって読むマンガは、
大人目線で読む時と
まるで思春期のような感覚で読む時がある感じです。
懐かしいマンガは読んでいた時に戻るような気分になります。

マンガは本当に素晴らしい!!
その礎を築いて下さった手塚治虫先生に感謝します。

☆☆☆
ちょっと真面目に書いてみました。
絵馬が書いた文章でもし難しいマンガと思われた方がいたらすみません。
MWは先に書いたように「サスペンス劇場」のようなエンターテインメントとして読める作品です。

玉木宏&山田孝之主演で映画化もされたそうです。
絵馬もいつか観てみたいと思います。

読んでくださってありがとうございました。