わたしが、看護学校時代に精神科の実習で受け持った患者さんのお話です。



その方は、統合失調症を抱える50代の男性でTさんといい、

これまでの生涯のほとんどを入退院を繰り返していました。



パッと見た感じは、白髪が立派でまるで大学の先生のような線の細い佇まい。

話し方も物静かで、ゆっくりでした。



未熟だった私は(今も未熟ですが・・)、

はじめて受け持った患者さんに舞い上がり、たくさんお話をさせてもらっていながらも、

「この人のどこが病気なのだろう」と思っていました。



あれ?と思ったのが食事の時。

食事が配膳されると、Tさんはおもむろに私を呼びつけます。



そして、スプーンを私に押し付け、

「僕は、ご飯を食べるとばちが当たるから食べられないんだ。君が食べさせたまえ」

と言いました。



訳も分からず言われた通りにすると、私がスプーンを口に運ぶと

それを口にいれ、もくもくと食事を開始されました。

自らの手は、ぴくりとも動かしませんでした。



食事のあとに、

「僕は、自分の手で食べると便秘をしてしまうんだ」と言われました。



もちろん、私がやってくる前は

自分で食べていらっしゃいました。




あの時感じた、感覚を今でも覚えています。

それは、しばしば言われるように、どことなく懐かしい感じでした。




懐かしいというのはまったくおかしいのですが、

私は、そのときTさんの言動が、奇妙だとは思いませんでした。



それは多分、Tさんにとってはそれが事実なのだからだと思います。

現実とは違っても、本人にとってその感覚が事実なのであれば、

(そしてそれが周囲や本人に苦痛を与えないのであれば、)

私には受け入れることが、自然に感じられたのです。




精神科医の先生の本を読んでいると、

私と同じように感じられる方がいらっしゃるようです。




あの懐かしさは、義姉のなかにも時折見られます。



社会的に期待される立ち居いふるまいとは全く違う、

だけれどどこか、

人間の根源に関わるような、意識やあり方。



それがなんなのか私にはうまく言えないのですが・・・。




なんだかよくわからない文章になってしまいました。