この二次創作はフィクションです -2ページ目

「弟くん、本当に大丈夫?あいつら弟くんにずいぶん酷いことを……」
「ジョイナス……彼らは優しい心を取り戻せると思いますか?」

 それぞれの仲間たちから疑問の声が上がるが、九郎太とジョイナスはしっかりと肯定で返す。

「あの人は、きっと優しい心を持ってる」

 それは「自分の味方だから優しい」という、動物的単純思考。だが元より彼らにはそれが全てで、それで良かった。立ち上がり目の前の巨大な影に向けて戦闘態勢を取る九郎太のメガフェンサーに、その肩の上に乗るジョイナス。

「あれは……比野なのか?光に取り込まれてクロムスリになった人情太郎のように、セオベイドに……」
「いや、あれが俺の言っていた暗黒神――ゼードイル!かつて俺たちの世界ミズガルズで見た時は、人型をして理性を保っていた……恐らく人の欲やセオベイドたちの力を取り込み過ぎて、暴走しているんだ。あれは……セオドイル、とでも呼ぶべきか」

 咆哮と共に、セオドイルがどろりとした黒い泥をこね回すように、その身体を組み換え形成していく。手足を生やして人型を取り、その胸に付いた比野の顔が大きく歪んだ苦悶の表情を浮かべながら、口を大きく開く。そして――その口から、光の奔流を撃ち出した。

「来るよ、クゥ兄ぃ!」
「ああ!」

 薙ぎ払う光を躱し、メガフェンサーが飛翔する。と同時に全員が扇状に散開し、セオドイルへの十字砲火を狙う。

「GAAAAAAAA!!」

 洗脳ヒロインたちが、エルメシオンの使徒たちが、それぞれセオベイドの力を巨体に向けて放つ。爆発した着弾地点からはその巨体を構成するモンスターや取り込まれた人間たちの死体がこぼれ落ちていくが、巨体そのものを崩すには至らない。

「凄い邪心――きっと奴は、とんでもない欲で大勢を不幸にしたんだろうな」
「うん、あいつは――僕らの『好き』を踏みにじった。ジョイナスも、好きな作家が『売れないから』ってその作品を打ち切られたら、嫌でしょ?あいつはそれを『やる側』の人間なんだ。後からようやく人気になった作品を突然打ち切ったり、過去の作品に泥を塗ったり、好き放題してきた。だから――僕たちオタクが『好き』を守るために裁くべき相手だ」

 ジョイナスが九郎太に対し、頷く。

「……ああ、分からない話じゃない。世の中には本当に素晴らしい物を書ける、尊敬すべき作り手たちがいるんだ。そんな人たちが作った素晴らしい物を潰す――そんな欲深き資本主義の化身に俺たちは『否(ノン)』を突きつける!」

 ――実のところ、この会話の中だけでも九郎太とジョイナスは互いに引っ掛かる物を持ってはいた。好きな物の為と言って人に危害を加える事を肯定した九郎太、どさくさに紛れて資本主義批判に走ったジョイナス。だがその引っ掛かりも「自分たちのエゴの肯定」より優先すべき物ではないとお互い流す事にした。

「あのデカいの、鈍いけど――ボクらが幾ら攻撃してもこたえないし、すぐに回復されるよ。どうすれば……」
「闇雲に攻撃したって意味無ぇって事らしいな。さてどうしたもんか」

 セオドイルの頑丈さに打開策を求めるルーシーとディック。確かにその通り、攻撃が通じているようには見えない。

「こういう時、クゥちゃんの見てたアニメなら……ああいうのにはコアがあるはず。そこを撃ち抜けないかしら?」
「コア……そうね。セオドイルの中に渦巻くエネルギーの流れさえ掴めれば、その根源であるコアの位置を探せるはず!」

 セシリアがアニメ知識から出した案に、ラーンが学術士として推論を展開する。不思議な共闘が今ここに成立していた。

「で、あたし達は何すれば良いわけ!?」
「ああ……そうね。兎に角攻撃に攻撃を重ねて短時間だけでも内部を露出させて!」
「応!」

 全員が寄せて返す波の如く、セオドイルに殺到する。エネルギーを撃ち込み、斬撃を放って次々とその外皮を破壊しては泥塊を掻き出す。傷ごとに修復される速度も順番も向きも僅かに違う。コアに近い部位の方がコアから受けるエネルギー供給が激しく、末端よりも優先的に修復されているのだ。

 彼らを押し潰さんと迫る腕を躱し、モンスターの頭が吐き出す炎を受け止めては返しの一撃を加える。そこから、少しずつではあるがコアの位置を割り出していく地道な作業であった。しかし、その作業にこそ光明は確かにハッキリと見出せた。

「見えた――!」

 そしてコアの大体の位置が特定されると、アメシストが光をマーカーとしてその位置を指し示す。狙うべき場所、ゼードイルに取り込まれた比野社長の体がある地点――巨大な比野の顔の額の丁度奥、脳があるべき場所だ。

「あの部分を消し飛ばせば!」

 

 だがセオドイルは、それに反応して幾多もの端末――モンフレのモンスターたちを無数の尖兵として放ってきた。その上で両腕をクロスさせ防御態勢を取るセオドイル。己の危機を悟ったのだろうか、モンスター達は最も高い火力を持つ九郎太のメガフェンサーを集中的に狙ってくる。これでは手出しが出来ない――!

「……九郎太、俺に考えがある」

 ジョイナスが再びメガフェンサーの肩に降り立つ。真剣な目で、メガフェンサーの顔越しに九郎太を見つめていた。

「弟くんには……指一本触れさせない!」
「あなたに、優しささえあれば!」

 乙葉とルティアがセオドイルの腕に着地すると、自身の得物をその上に突き立てながら走り抜ける。が、次の瞬間には弾き飛ばされてしまう。洗脳ヒロインたちも、エルメシオンの使徒たちも、セオドイルの出力を前に圧倒され始めた。

「GRRRRRRRRRR!!!」

 そして、そのセオドイルの前には遂に纏わりついてくるモンスター達を前に膝をついてしまうメガフェンサー。ジョイナスが回復に努めるも、モンスターを跳ね除ける事はかなわないように見えた。そして――。

 突如としてセオドイルはその両腕を解放し、大きく開いた比野の口を露わにした。その中には、先ほどの攻撃とは比にならないほどのエネルギーが渦巻いている。セオドイルはこの時を狙っていたのだ。

「――――!!!」

 そして放たれる暴力的なエネルギー波。地を焼き天を焦がすその力は、モンスターたちを焼き払いながらメガフェンサーに到達する――はずであった。

「俺が手に入れたセオベイドの力――『大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)』」

 ジョイナスが左手で掲げた掌を返すポーズを取り、そのまま掌を前に出す。と、目の前に迫る光の濁流は元から存在しなかったように消失していく。これはライトノベル「ある学園の目安箱(ガイドボックス)」――その裏主人公が持つ「無効化」の異能だ。これまでジョイナスが見せていなかった、切り札であった。

「今だ!光の先を撃て、九郎太!!欲望と資本主義に終止符を――!!」

「これが僕たちの、オタクの復讐だ――!!」

 目の前には、がら空きになった弱点。隙を晒したセオドイルのコアに向かって、メガフェンサーが背部のドリルを手に構えて突撃する。――リーマーインフェルノ、そう九郎太がヒーロー面をしながら叫ぶと、巨大なドリルは肉を破り泥を掻き分け、辛うじて人の形を保っている比野に到達する。

「私は……っ、ただ、良いモノを、作りたく……て……」

「煩い!」

 比野の断末魔を掻き消すように声を重ねる九郎太とジョイナス。比野の身体はミンチとなり、黒い泥に溶けて行った。すると――セオドイルの身体を構成する人体とモンスター達の身体が次々と破裂し、セオベイド由来の光の粒子とゼードイル由来の黒い霧に分かれて消えていく。
 そして数度のスパークの後、セオドイルの身体は繰り返される破裂によって発生した内部圧力に耐えかね、大爆発を起こした。

「弟くん!」
「ジョイナス!」

 ――そして、その爆発を背に悠々と歩いてくる影。メガフェンサーであった。

 そう「正義は勝利した」のだ。


 強制排熱による冷却で陽炎を揺らめかせながら、メガフェンサーは帰還した。コックピットには九郎太、肩にはジョイナスを乗せて。それは、彼らにとっての悪の徹底排除――その成功体験を確かに強固な物とした。

「――終わったんだな。これで最悪の事態を迎える事だけは避けられた事になる。俺も信じてみよう……人間を」
「うん。でも僕たちの戦いは続く――、皆の『好き』を身勝手な正義で潰そうとする奴がいる限り、ね」

 ジョイナスはエルメシオンの使徒たちとハイタッチし、九郎太は洗脳ヒロインたちに抱き着かれる。そうこうしている間にも瓦礫の中で命が消えて行くのだが、それはそうと戦いは終わり場は祝賀ムードに変わっていった。
 ジョイナスは「相手が自分の思い通り改心し、欲望の権化を断罪してくれた」九郎太は「自分の他力本願な生き方を肯定し、オタクの敵を共に討ってくれた」事――双方とも都合の良い解釈ではあるのだが――に酔いしれ、全能感に浸りながら喧噪の中で暫しの時を過ごした。

 そんな中での事であった。

「――こちら、脳特対の紅凪です。モッツアレラ小隊及びそこのセオベイド・セオベイターは全員……手を挙げ、速やかに投降願います」

 次々と自衛隊員たちが現れ、彼らを翼包囲陣形で行動を封じる。その奥では救助部隊が瓦礫の撤去と人命救助を行っており……包囲部隊の方は九郎太とジョイナスたちに銃口を向けていた。

「……は?」

 九郎太は茫然自失する。世界を、街を守った自分に向けられた銃口。過去に同じような事は確かにあった。最初にメガフェンサーで戦った時の事だった、だが今回は違う――九郎太は彼ら自衛隊の、紅凪の要請で出動したのだ。それなのに、ただオタクたちの復讐と私刑を肯定しただけでこの仕打ち――裏切られた、九郎太は眉間を震わせる。
 ジョイナスは歯噛みする。かつて優しい心をと働きかけ、そうでない者に鉄槌を下した時。権力者たちはそれを許さずジョイナスらを追い詰めた。強欲な王子を独断で私刑した際も、義務教育を子供に強要した教育省を断罪した際も、競争主義に毒された社会はそれを許さなかった――同じ構図だ、ジョイナスは拳を握り締める。

「今すぐに破壊行為をやめ、投降してください――九郎太くんまで加担するとはね。あなたを脳特対に入れた責任は私にある、だから」

「――ッこの、上級国民!クー兄ぃは……クー兄ぃは街を、世界を守ったんだ!それなのにアンタたちは!やっぱり皆殺しにしてやる……!」
「……その銃を降ろしてください。それは人を傷付けるもの、人と人の会話に……いえ、そもそも武器は人の世に必要ないものです」

 ミーニャが吠え、ルティアが強い語気で威圧する。

「待って下さい!銃を降ろして、その人たちは悪くありません!」

 その時、自衛隊員たちの前に空から降りてきた一人の女性が立ち塞がった。

「あっ、あんたは……!結婚という枠組み自体の性差別性を見抜いて、そいつを改める法案を一貫して出し続けてるヤブウチ議員!ろくでもねえ政治家が多い中でしっかりしてて思いやりある発言するあなただけは応援してたぜ!大丈夫か?というかなんで此処に……」

 ディックが感嘆の声を上げた。彼女は元々ジョイナスたちの世界――ミズガルズのジャッパー国議員だった筈だが、今は日本の議員バッジを付けている。

「ええ、日本もジャッパーと同じ問題を抱えた国だと感じたので、この国を変えるべく先にこの世界に潜入していました。そして日本国民になりすまして国会議員に――残念ながらこの国の政府に洗脳された国民からの支持は得られなかったので、エルメシオンの加護で投票結果に細工をし、国会議員の座を得たわけです。この国を、世界を言葉と優しさで変える為に」

「は、はあ?」

 唐突なヤブウチ議員の登場と目の前で繰り広げられる会話に、紅凪はあっけらかんとしていた。

 

「な、何……何なんです、あなたは……」

 凪が凄い形相でヤブウチ議員を見る。今の会話の内容――咀嚼するには時間が掛かるがとんでもない事を口走っていた事実だけは理解した。が、それと同時に九郎太がヤブウチ議員とそれを称賛したディックを睨み付ける。その心の奥には冷え切った感情が生まれていた。

「ああ……彼女は俺たちの世界の人間で、俺たちと志を同じくする者だ。そもそも結婚というのは――、いや競争社会そのもの、資本主義も含んでだが……『男性という性が生まれつき持つ暴力』を肯定している。それと戦うのが彼女なんだ」

 ジョイナスが誇らしげに九郎太に話し始める。ジョイナスから見れば九郎太は既に自分とある程度の相互理解――「同調」してくれた人間だ。当然、自分の言う事を肯定するに決まっている。そう確信していた。

「ジョイナス……?」

「そもそも、女性には人を育み未来に繋げていく力がある。だが男性には――それが無い。戦争を起こし、全てを壊してしまう。俺の父親もそういったタイプの人間だ。家父長制と暴力の化身。お前の父もそうだったんだろう?九郎太……!」

 九郎太の目が眩む。彼の味わってきた否定の言葉――それは「男らしくないから情けない」という物には留まらなかった。その一方で「男だから汚らしい」「男だから汚い欲求を持っている」という偏見と差別、それに押し潰されていた。否、もはや――そう押し潰された被害者である為、その罵倒を自ら幻覚・幻聴として聞き続けてきた。
 だからこそ、ジョイナスのように「男性性を批判する」方向に思想が傾く事はなかったが、その反面「男性性を批判する人間」にも敏感になっていたのだ。だからこそ「聖母の会」の案件で女性活動家たちが踏み潰された時だって心の奥底でほくそ笑んでいた。

「……クソフェミ野郎が……女がそんなに偉いってのかよ……」

「は?」

 九郎太の瞳に暗い炎が灯る。ジョイナスは戸惑い、九郎太の肩に手を振れようとする。が、その瞬間。

「弟くん!」

 沸々と煮えたぎる九郎太の憎悪に反応し、その傀儡である乙葉はジョイナスに斬りかかった。

「九郎太、お前!」

 ジョイナスはすんでの所で後ろに飛んで躱し、代わりにルティアが斬撃を受け止めた。

「やめなさい!何を……!」

 凪が制止に入ろうとするが、次の瞬間セシリアが艦装具から砲弾を、ミーニャが自動操縦のオファニムから電磁ライフルの弾丸を放つ。爆炎が立ち上り、包囲していた自衛隊員も、人命救助をしていた自衛隊員も、凪もヤブウチ議員も血の霧と化して粉々に吹き飛んでしまった。だが、エルメシオンの使徒たちだけは素早く反応し戦闘態勢に入る。

「やっぱり、あなた方に――優しい心は無い!」

 ルティアが怒りの声を上げる。一帯は再び、戦場と化したのだった――。

(守る価値の無い人たちばかりだった。僕からSEOを奪い、男らしくないと貶め、なろう小説をバカにし、男性は汚らわしいと蔑み……、期待しては裏切られ続けた。僕の事を分かってくれると思った自衛隊の人たちも、ジョイナスたちも、そんな夢さえ見せてくれなかった。僕を騙したんだ。僕はどうしてこんな国を、こんな世の中を守ろうとしていたんだろう。何が「ヒロイン達と共に平和のために戦います」だ。違う、僕は――!)


「――僕(オタク)の為の世界じゃなければ、何もかも要らない!」

 九郎太の駆るメガフェンサーが、ビルの残骸を投げ付ける。その蹴りと衝撃波で瓦礫を巻き上げ、飛散した瓦礫は遠く離れた人々に降り注いだ。その姿は――まさに「ロボット怪獣メガフェンサー」九郎太が呼び出した、その原典――「ネビュラマンに描かれた、人間が科学の過信で作った負の遺産であり、基本的に否定される存在(https://ncode.syosetu.com/n9539ik/7 )」そっくりであった。たった1人のエゴイズムが、偶然にも巨大過ぎる力を得てしまった――その成れの果てを前に、力なき弱者は声を上げる事すら叶わない。

https://grok.com/imagine/post/feb2ef49-ea40-45ab-874f-40830c8047a5?source=post-page&platform=web

Movie:Grok

「……大丈夫だよ、弟くん。私たちはずっと一緒にいてあげる。地獄の底まで付いていくから……安心して」
「結局クー兄ぃの気持ち、一番尊重してあげられるのは私たちだけだったね。クー兄ぃに助けられたくせに自分勝手、クー兄ぃの事なんか何も考えてない」
「そう、ママたちだけがクゥちゃんの居場所なんですよ。嫌いなものは……ぜーんぶないないしちゃいましょうね」

 3人の洗脳ヒロインたちが、メガフェンサーの操縦席に乗り込む。九郎太はただ「ありがとう」と涙を流した。
 しかし――その直後、空が"割れた"。

 響く雷鳴と共に、空間が裂ける。在るべき法則を捻じ曲げて、その存在は降臨したのだ。

「やはり……人の欲を止める事は出来ませんでしたか。幾ら試しても、結局人は自らを滅ぼしてしまう。科学の過信が人を傷つけ、資本主義が人の優しさを殺す――」

 上位存在、創造神エルメシオン。まさに人のイメージする「神」の姿を取って現れたそれは、自らの視点で善悪を騙り、己の言説を垂れ流す。そして。

「ジョイナス、優しい心を持ち続けているあなたに――この世界の命運を任せます。ミズガルズであなたが人間の可能性を信じて行った"選別"は――決して『競争』しない少数の優しい人だけを救い、世界中の富をその正しい人たちのみに分け与えました。それがこの世界でも通用するか分かりませんが……私はあなたという人間の出す答えを信じます」

「……分かった。俺たちは――優しい、争う心の無い人間を救うため、世界から邪悪な物を、進歩も科学も資本主義も――全てを断罪する!」

 エルメシオンがジョイナスたちに向かって光を放つと、ジョイナスたちが自分たちに従わないセオベイターやセオベイドたちを否応なしに脅し、時に殺して奪ってきた力が増幅される。
 邪魔な相手は全て墓の下に押し込め、競争社会で培われた全ての豊かさと力を、ジョイナスの選んだ人間たちだけで分け合う――そんな理想の世界を作る為に心を合わせたジョイナスを中心に巨大な光の柱が形成され、そして――それは、メガフェンサーと同サイズの巨人の姿。セオベイター・ネビュラマンへと変貌したのだ。

 

illust:CopilotAI(AviUtl編集)

 

https://grok.com/imagine/post/29f8418f-f6ef-4b90-a775-464e39609fbc?source=post-page&platform=web

 

Movie:Grok

 

「お前が!僕を裏切るから!!」

「欲望の根源を滅ぼす!」

 メガフェンサーとネビュラマンは、その拳をぶつけ合う。巨大なエネルギーが爆ぜ、爆心地には2体の巨人以外何も残らない。2体は高速飛翔し、その軌道で大空というキャンバスに曲がりくねった邪悪な蛇の怪物の如き歪な痕跡を刻み付けながら、空中で幾度も幾度もぶつかり続ける。巨体がぶつかり合う度に発生した衝撃波は、いとも簡単に街を消し飛ばしていく。

「SEOは終了しました」「俺が到着してるのに掃除終わってないとか本当お前はよなあ!!」「ブルーカラー職は街から出ていけ!」「お前らは異常者の集まりだ」「おい、ヤクチー」「何もない上に汚い、情けない。お前みたいなヤツはこの程度って事だ!」「産んでくれた親だろう?恩返ししない理由がどこにあるんだ?」――九郎太の脳裏に焼き付いた罵声の数々。老若男女問わず自分を責め立てる、自分の不幸の象徴。
 九郎太は、怒り、妬み、苦しみ、憎悪し――本当は心のどこかで喜んでいた。自分が被害者であるという立場を得られた事に、その原因が自分ではない事に、喜びがあったのだ。だから無駄な努力なんかしなくても良い、自分を変えなくても良い。――末期には、自ら進んで「自分への罵倒」を見聞きしに行っていた。そうする度に感じられる――自分は優しい被害者だ!自分を肯定しない者は被害者いじめをする悪党だ!!自分こそが!正義だ!!だから只――自分に同調しない相手を否定し続ければいい!!!

 九郎太のメガフェンサーが光り輝くと、急速に全身にエネルギーがチャージされていく。

 ジョイナスは己の道筋を思い返す。男らしさを押し付ける父に反抗し、そうでない世界――楽園を目指し世界を見続けた。そこで出会ったのはメディウス。貧しく、いじめを受け、妬まれて何度も殺されそうになる小さな子供。そこにあったのは、人が人に暴力を振るい、性欲の捌け口にし、笑い物にし、不幸な人間を「自己責任」とうち捨てる世界。ジョイナスは絶望した、どうして人は人に優しくできないのだろう?
 ――だから、間違った者からは容赦なく奪った。肯定してくれる人たちも増えて、凄く正しい事をしている気分になった。俺たちに相対する者が全員、他人を不幸にする事に躊躇が無く、そして宿敵たるゼードイルのお陰で死んでいくのはとても気分が良かった。目の前の無惨な死体が、犯され心を壊された少女が、自分たちの正義を強固にしてくれて内心とても嬉しかった。そうだ。そんな事をする奴も、そんな連中の世界に甘んじて生きる奴らも切り捨てて何が悪い?そんな奴から全てを巻き上げ、俺が正しいと思った人たちに分け合う。それが正義――。

 ネビュラマンが腕をクロスし、空間が震えるほどのエネルギーを蓄える。

「優しい人間を否定するお前は――優しくなんかない!!」

 九郎太とジョイナスが叫び、海上でメガフェンサーとネビュラマンが、互いに向けて同時に光線を放つ。ぶつかり合う光は数秒間拮抗し、そしてそのエネルギーの衝突によって起こった津波は、大都市をも呑み込んでいく。セオベイドも、人間も、ただただ己の無力を嚙み締めながら最期の時を迎えた。

 

 

 

版権図鑑 番外編③

【魔物少女タワークエスト】 

塔を攻略しながら少女モンスターを集めるソーシャルゲーム。ナンセンスギャグと下ネタだらけのストーリーは人を選ぶが、ゲーム性自体はライト層にも取っ付きやすい。R18版も存在する。

アレコレ言う割にこの手のソシャゲは九郎太……もといロボやはプレイしていないらしい。


【ファイナルクエスト】
日本の剣と魔法のRPG、その祖とも言われる作品シリーズ。海外ファンタジーを元に取っ付きやすい形にした剣と魔法の世界で、ベースは勇者が魔王を討伐する英雄譚であるがストーリーには様々なバリエーションが存在する。
 九郎太の愛してやまないネット小説群はこれをベースにしたもので、本来なら苦難を乗り越え成長する王道の「勇者」を悪辣な特権階級的に描き、それを主人公が断罪し「ざまぁ」と嘲笑するような物が目立つ。

【ある学園の目安箱(ガイドボックス)】
中高生向け学園バトル系ライトノベル。異能を持った学生たちが青春を過ごしながら学園中に潜む陰謀と戦うストーリーで、何度もアニメ化されたシリーズ作品。異能を無効化する異能――「大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」持ちの裏主人公キャラは人気が凄まじく、その仕草を真似する中高生が後を絶たない。



 【次回予告】

 なんでこうなっちまったんだろうね。

 銀行で正義振りかざしてたのが悪かったのかねえ。

 主人公様の正しさを示す為に踏み台用の愚かな敵を出して無様な有様にする手法……主人公を肯定しない奴はこれと同じだぞってやつ。

 あれをやってる作品同士、最後まで気が合う未来もあったんじゃないかと思うんだけどね……。

 次回 最終回「敢えて言うけど、現実見ろよ」

 

 このイベント、どう攻略する?

 

 

 

 

 

 

 ――そこは町はずれの田舎道だった。そこでフラフラとした足取りで歩いていたのは、一組の老夫婦。夫の方は息は上がり、膝は震え……遂にはその場に座り込んでしまった。

「婆さんや……儂はもう駄目じゃ。だが……お前だけでも頼む。こんな時代だが最後まで子や孫たちと生きてくれ……こんな所で人生を終えるのは儂だけで十分……」

 がっくりと項垂れる夫、舗装こそされているとはいえ、老人にはきつい山道。長年の山仕事で足を悪くしていた夫は、己の限界を感じていたのだ。このままセオベイド災害で自分は死ぬ。だが愛する妻だけは、助けたい――既に独立した子供たち孫たちの所で、人生を全うしてほしいと。

「何言ってるんですかお爺さん!まったくあなたは本当に大袈裟なんですから……若い頃、あれだけお前は俺が一生守るとか威勢の良い事言っておいて……分かりました。ここで休憩にしましょうね」

「婆さん……儂という荷物をこれ以上支えんで大丈夫と言っとるんじゃ。お前を束縛する権利は儂には無い……」

「弱気になるとこうなのは若い頃から変わりませんね、まったく……。来月の、結婚50周年の記念日は特に期待してくれって言葉、忘れてませんからね。――せっかくだし、最期まで一緒に生きましょうよ」

 妻の方も、一緒に座り込む。柔らかく笑いかけ、夫も少し遅れて笑い返す。2人の中に巡る、沢山の思い出。偶然出会って気が合って、一緒にいる時間が長くなっていった。意見が合わず何度も喧嘩した事だってあった、それでもそれ含めて相手を受け入れれば、それが相手の1つの魅力であると感じられるようになった。そして――気づけば家族になっていた。

 それからも、長かった。お互い苦しい時に相手を責めてしまった事もある。お互いの理解が浅くて、傷つけあってしまった事も多い。でも――その度にお互い成長して進んできた。今はそれら全てを、自分たちの歴史として胸を張って肯定できる。だから。

「もう少し……最後まで頑張ってみよう」

 若い頃のように、2人は手を叩き合わせる。気合を入れて困難に立ち向かう合図だ。そのまま2人は手を握り締めて立ち上がり――。

「世界がこうなったのは――全部!」

 その瞬間に響く轟音。そして空中からの、九郎太とジョイナスの2人の声――。

「女が悪いんだ!!!」
「男が悪いんだ!!!」

 発生した衝撃波。――老夫婦はその望み通り、最期の時まで一緒だった。


「くたばれゴミカス!!」
「大丈夫だよ弟くん。君は間違ってない――!」

 メガフェンサーとネビュラマンの戦い。最初は拮抗していたものの、その巨体を操る術を熟知していたのは九郎太の方。徐々にネビュラマンは圧されていく。

 このままでは勝てない。隙を伺うジョイナスだが、間髪入れずに九郎太は光の剣を振るって距離を詰めてくる。

「俺達は負けてしまうのか……?こんな所で……」

 しかし、その時であった。

「ジョイナス……あなたの手助けをします。これは、人の可能性を開く手伝いです」

 エルメシオンの声がジョイナスたちの脳内に響く。

「トドメだ!リーマーインフェルノォォ!!」

 目の前に迫るメガフェンサーを前に、ネビュラマンが黄金に染まり始めた。そして光の粒子を全身から拡散すると、後方にメガフェンサーを吹き飛ばし、空間そのものが「変化」を始める。
 ジョイナスは知る由もないが、とあるネビュラマンシリーズ作品の最終回で起こった、全人類が光を得る自身の可能性の発露であり――そして。

「これは!?」
「まさか……」

 セオベイド、それはSEOより生まれた電子生命体。それが現実世界に現れた原理は解明されてはいなかった……。
 だが、そこには人類の把握していない未知の物理法則が存在しているのは確かだ。
 その物理法則を元に、世界そのものの法則を改変するエルメシオンの力が加わった時。

 ――SEOは現実の物となった。 


 世界を染め上げる電子空間。キャラクターだけではない。マップ地形も、オブジェクトも。全てが現実に現れたのだ。

「か……帰ってきた……僕の……ここは僕のSEOだ!皆……ただいま……!!」

 そして、それはモノだけではなかった。人にも次々とその変化は現れる。――SEOは、同じ電子空間上に人と人を繋ぐツールでもあったのだ。

 物理的な距離を無視して、世界に生ける人々の意思が集ってくる。この時2人の歩みは、ステータスとして拡散され全ての人間がそれを知る事が出来た。

「ジョイナス……優しい人々の意思を、力に変えて集めるのです。そして、あなたの求める世界を!」

 ネビュラマンが腕を掲げると、そこに光が集まってゆく。

「――大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」

 ――そうだ、優しい人たちなら理解できるはずだ。俺達の守るべき世界が何なのか。
 ジョイナスが掲げたそれは、かつてセオドイルに向けた虚構を否定し消し去る力。自分が生き残る資格ありと選定した優しい人々の意思を、そこに込めてゆく。

「ここは……そうだ!僕の居場所だ!僕と同じ……現実に居場所がない弱者の為の場所なんだ!!」

 九郎太が「全体チャット」で呼び掛ける。あれを倒して、オタクたちの世界を作ろうと。邪魔する全てを消して、フィクションに耽溺出来る世界を作ろうと。

 メガフェンサーのドリルが紫電を纏う。オタクたち、弱者たちの意思をそこに集めて力に変える。

「これで……終わりだ!!」

 メガフェンサーが、ネビュラマンが、飛翔する。そして――激突。
 九郎太とジョイナス。お互いに集めた力が――人々の意思が、一つに集う。

 そしてその瞬間、世界は光に包まれた。


「――もう、いい加減にしてください」

 人々の意思は、確かに通じた。それは、ジョイナスの「大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」を介し、世界を塗り替えていく。

「こんなのはもう沢山だ」
「害悪なのは両方です」
「これ以上私たちを苦しめないで」

 だが、その結果は九郎太もジョイナスも全く意図しない物であった。自分と同じと判断したタイプの人間を集めた筈なのに、2人に共感し、その両方に協力しようという声は全くと言っていいほど上がらなかった。

「お前たちさえいなければ」
「私達の代表面するのはやめてくれ」
「家族を返して」

「なぜ、俺達を否定するんだ!」
「可哀想な僕を悪く言うな!」

 九郎太とジョイナスはパニックに陥る、そして無情にも、大嘘潰しの光は広がって――。

「SEOも、エルメシオンも」
「九郎太も、ジョイナスも」
「私達には――要らない!!」

 人々の意思がひとつとなり、光を大きく育てていく。
 セオベイドやセオベイター、エルメシオンの使徒たちが起こした悲劇ごと、世界を塗り替え再構築する為に。

 九郎太とジョイナスを肯定している仲間たちが消え去る。SEOもエルメシオンも、光の中で崩れ去っていく。
 そして、九郎太とジョイナスの顔面が剥がれていく。そこにいたのは――。



 ――メガフェンサーとネビュラマンが翔けた空は、静寂に包まれていた。フィクションが現実と切り離され改変された世界は、正常さを取り戻していたのだ。

 瓦礫の山だった街は喧騒を取り戻し、人々のささやかな暮らしと、彼らによって回る人間社会がそこには広がっていた。
 決して良いニュースばかりではない。あぶれ者はどうしても暮らし辛い。幾ら科学が進歩して、人1人が使えるエネルギーが何百倍になろうとも、人そのものが抱く不幸せはついて回る。思想の多様化が進むにつれ、自由よりも窮屈さを感じる人間は増えていく。
 ……だがそんな中で、人々は歩み続けていた。

 そんな世界の中に、彼らはいた。

 倉庫バイトの先輩にどやされていた中年男性が、休憩時間にSNSを見る。今日も憂さ晴らしをしようと、自ら嫌いな界隈や悪いネットニュースを見て叩きに行く正義的行為に明け暮れようとした、その瞬間――自分の悪行が大勢に露見し否定されるイメージを見た。
 その瞬間、男の脳裏に疑問が湧き出した。どうして俺はこんな不毛な事を?……と。
 元来、自分は好きな物を好きと言いたかった筈だ。なのに、好きな物を否定される事の方が、そして否定者に正義を振りかざす事の方が好きになっていた。
 ……いつからだ?「好き」を攻撃の手段にし始めたのは……。男は、頭を抱えた。変わるなら……今しかない。
 男は、スマホからSNSをアンインストールし、遠い空を見上げた。


 また、とある初老の男は積み上げた本を片付ける事にした。それは競争社会、資本主義、科学技術を批判する沢山の本。苦境に立たされた就職難の時代に読み漁り、その時は単純化された勧善懲悪の悪の部分を自分の不幸に、そして自分の不幸の原因を現代社会に当て嵌めていた。
 ……だが、物事はそう単純ではないと、その社会に身を置き続ける事で分かったのだ。過去に作って記念に取っておいたゲームのデータもゴミ箱に移す。
 優しい自分が報われないのはこの世界のせいだ、という思いで作ったゲームだった。だが本当に自分はその時、優しさの意味を理解できていたのだろうか……思えば恥ずかしい物を作ってしまったのかもしれない。何故かそう思ったこの日だった。


 一方、江洲 英須(えす えす)は裏でヘイト系二次創作を垂れ流してる事がバレて炎上した。



 彼らは歩み始めた、このどうしようもない現実を。ゆっくりと一歩一歩――。







 この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。 

※注意

この作品には独特の表現が多数存在します。

それらは全て「SEO」「聖王の冠」原作を踏襲したリスペクト表現である事をご理解ください。

出来ればSEO、聖王の冠の2作をご覧になってください。

 

 

 元世界的ゲーム「SEO」より生まれたセオベイター/セオベイドと呼ばれる厄災――原理不明の物理法則によって現実に侵食してきたゲームキャラが世界を焼き払った「虹の日」――それは地獄の釜の蓋が開いた日だった。
 元ゲームプレイヤーはSEO内の力を行使する異能の者「セオベイター」、彼らがゲーム中でメイキングしたNPCはAI制御の「セオベイド」となり、その力量には個体差こそあるものの、それは巨大ロボであったり獰猛なモンスターであったり……人にとって分不相応な力であったのだ。


 結果、起こった事は想像に難くない。


 知識もなく社会の仕組みも知らず"腐敗した政権の打倒"という正義感に溢れた一部の底辺層セオベイターらにより奪取された政権はいとも容易く崩壊し、最終的にずる賢い利己的な人間が最も上手くセオベイター・セオベイドの力を集めた。

 

 その先にあったのは、各地で勢力争いが続く果てなき混沌世界。「世界中で底辺層をこき使う上級国民を打倒しハッピーエンド」というお花畑の妄想など見る影もなかった。
 政情不安な国から順に社会が崩壊していったのもあって、日本(正確には先進国)においては最初の数日間は大きな動きが少なく「奴隷根性の日本だけは事も無し」と揶揄されてはいた。が、当然そんな都合の良い事がまかり通る筈もない。社会秩序の崩壊は差し迫り、各地で自称「成り上がり弱者」の「民間自警団」――じきにヤクザやマフィアと呼ばれるようになるであろう勢力が台頭し始めていた。

 

 世界に蔓延する疑心暗鬼と混乱、氾濫する私刑――。もはや社会維持は不可能な所まで陥っていた。セオベイターという「国家に匹敵する武力を所有する個人」が世界的大ヒットゲームのプレイヤーと同じ数だけ、更にそれと同等の力を持ちセオベイターに追従するセオベイドがそれ以上の数存在する世界に、平和と安全を保障する国家は成立し得るだろうか?否、当然先にある未来は万人の万人に対する闘争時代。

 

 だが「サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜」の主人公にあたる九郎太にそんな事は関係ない、一時でも自称"弱者"が立ち上がる術を得た時点でSEOは正しかった。全て国家や社会的強者が悪意を持って弱者を虐げてきた(主観)事の責任である事を否定してはならないのだ。
 少なくともこれが無ければ九郎太は不幸から脱する事が出来なかったのだから。お陰で彼は底辺ワーカーから国家公務員のポストを得られたのだから。他者の命や社会の安定など一切問題ではない。

 兎も角としてセオベイター/セオベイドが問題化する以前から「何故か」発足していた脳特対に所属する彼は、今日も日々戦い続ける――。



「人類をセオベイドから解放せよ!上位存在など許してはいけない!人の自由は人の手で勝ち取るのだ!」

 とセオベイド排斥を掲げ声を荒げる武装組織――セオベイド騒ぎによって亡びた小国の一般市民だったらしい集団――を前に九郎太が「こわいよ~~!」と彼を守る3人の少女の陰に隠れる。そして次の瞬間、その少女のうち一人が声を上げ躍り出た。

「どんな主張をしても結構!けど……弟くんを怖がらせたあなた方を絶対に許さない!それに!」

 白く輝く刃が舞い、次々と武装組織の構成員たちだった肉塊を血だまりに沈めていく。

「人が何を与えてくれたの?奪うばかりで、何もしてくれなかった癖に!私は弟くんの為なら何でもしてあげられる。同じ事が人間にできるの?」

 血だまりの中生き残ったリーダー格らしき男は、刀の切っ先を突きつけられ全身をガタガタと震わせ粗相をした後、これは夢だこれは夢だと半狂乱のまま自らの口に拳銃の銃口を押し込み――。

 ――銃声とともに事件は収束した。

「乙葉お姉ちゃん♡お姉ちゃん♡ミーニャお姉ちゃん♡セシリアママ♡うっ……ふう」

 ヘコヘコと3人の少女に己の短小を擦り付けて息を荒げる九郎太。神楽乙葉、ミーニャ・ドロッセル、サン・マルコ"セシリア"――以下3人はその一方的な欲望を都合よく受け止めていく。彼女らもセオベイドであるが、その意思決定を司る器官は九郎太を大好きになって全肯定で甘やかすよう調教を受けたSEO――オンラインゲーム「サイバーエデン・オンライン」――のAIシステムに支配されており、彼に最も都合の良い言葉だけを発し彼に気に入られる為の傀儡であった。
 この傀儡たちを相手に、九郎太は自慰に近しい行為を繰り返し、彼は満足していた。欲望を受け止めさせ、代わりに暴力を振るわせる、爛れた生活――そんな最中、事件は起こった。

「やはり――この世界もゼードイルに滅ぼされてしまう運命なのでしょうか」

 欲望のまま暴れ回る人間やセオベイターの前に”邪触手”と呼ばれる忌まわしき魔王の端末が現れ、それを取り込んでいく。

「これも全て競争社会のせい……全ての人類を闘争の道具にしてしまう、資本主義経済という最悪の兵器がセオベイド――人間の醜い欲望に根差した悪魔を生み出してしまったんだわ……」

 聖王の冠に選ばれた救世主たちが、九郎太たちに襲い来る。これはまだ、序章に過ぎなかった。

 

 

サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜

×

聖王の冠

 

 

 

 

(「聖王の冠」ゲーム本編は削除されているため実況配信動画を紹介)

 



我欲を強要し他者を排斥する者

清貧を強要し他者を排斥する者

出会ってはいけないふたつの世界が

いま邂逅<クロスオーバー>する――!

 

 

 

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「その技、後隙12Fあるから僕のキャラ対面では振らない方が良いよ。そのキャラ産廃気味だけど唯一このムーブだけは壊れだからぶん回すと大抵勝てる、まあ僕なら対処出来るんだけど」

 とある日の午後、九郎太は脳特対の寮で3人の"妹お姉ちゃんママ"──傀儡たちの豊満な胸をクッションに背中を預け、TVゲームをしていた。寮と言っても豪華ホテル並みの設備を整えてあり複数の部屋に跨って九郎太たち専用の施設となっている。

 日々セオベイド事件に日本中を駆け回っている脳特対であったが、九郎太の負荷(とは言ってもロボットを呼び出すだけだが……)を考慮しない上層部に対し文句を付けに行ったママたちが無理矢理彼に非番の日を作らせたのだ。

「弟くん、流石♡」

 かつて九郎太はSEOの日本チャンプであっただけあり、当然ゲームの腕も低い訳が無かった。何処がどう凄いのかは不明だが兎に角彼はゲームの腕が凄いのだ。

 そんな彼から並べられる用語の羅列を3人の洗脳ヒロインはにこやかに聞いては全肯定を返す。

 九郎太に言わせれば「長閑な日常」のひとときであった。が、そんな日常を破壊したのは来客を知らせる呼び鈴だった。

「クー兄ぃとの時間を台無しにするなんて……最悪!」

 洗脳ママの1人、ミーニャが吠えながら形だけの対応はしようとぶっきらぼうに部屋の扉を開ける。

するとそこに居たのは20歳くらいだろうか、一組の男女だった。常に柔らかな笑顔をたたえており、その真意は読めない。

「セオベイターの九郎太……くんだよな?俺はジョイナス。創造神エルメシオンの使いだ」

「はァ?」

 ミーニャが怪訝な顔をする。事もあろうに目の前の客人は自らを神の使いと言い出したのだ。傀儡たる彼女であっても無理ない反応だろう。

「同じく私はルティア。単刀直入に言います。九郎太さんのセオベイターの力と、セオベイド……人の穢らわしい欲望を叶える力は世界にとって危険すぎるのです。今すぐその力を捨ててください」

 次に口を開いたのはジョイナスなる男の横に立っていた女性だった。九郎太の取り巻き3人には目もくれず、九郎太自身に対して開口一番に言い放ったのだ。

 そしてその瞬間、九郎太の顔が怒りに歪む。こいつは"敵"だ──そう彼が認識した瞬間、3人の洗脳ヒロインの思考は「説教モード」に移行する。

「アンタたち……何言ってんの?宗教?で、神……?そんなお偉い奴がそうやってクー兄ぃから何もかも奪って、惨めな暮らしを送れって言うの?ふざけてる?」

 ミーニャの声に怒気が籠もっていく。

「そんな世界、こちとら願い下げよ!危険で結構!」

 ミーニャはヒステリックに怒鳴っていた、九郎太の代わりに。

「力が無ければ惨めって考えは、競争社会の毒なんだ。君たちはそれが分かってないだけだ、それに……」

 ジョイナスが慣れたように淡々と言葉を返す。自分の正しさが絶対でありそれを分かって貰いたいというある意味で純粋な言葉が紡がれる。

「九郎太くんは分かっているはずだ。競争社会という人を残忍に変えてしまう世界で落ちぶれてしまった人間の辛さを。ヤクチーと言ったっけ?それが競争社会、資本主義の醜さだよ。人は全員でそこから抜け出さなきゃいけない」

 部屋に上がり込みながら九郎太に向かって詰め寄る、あまりに平然とした態度の2人。九郎太はその勢いに圧倒され、何も言えなかった。
 だがそんな中、乙葉とセシリアはその無礼な客人と九郎太の間に割って入る。

「それで、あなたたちの要求を呑んだとして弟くんはどうなるの?セオベイド……私たちよね?弟くんから引き離すって言うなら、私たちは容赦しない」

「それに、欲望や競争が悪と言いたげですがそれは間違ってるわ。欲望がこの社会を発展させてきたんだから……競争社会の悪い所は私のクゥちゃんを蔑んだ事だけ。分かったら帰ってくれる?」

 3人が三者三様に客人を睨みつける。そんな姿を見た九郎太の瞳から涙が零れ落ちた。

「み……みんなぁ〜〜♡♡」

 泣きじゃくりながら手を広げて3人に縋り付く九郎太を洗脳ヒロインたちは温かくその豊満な胸で迎え入れた。

「そうだよね♡ぼく間違ってないよね♡みんなはぼくの味方だよね♡」

 客人たちに目もくれず女の子たちに抱き付く子供の皮を被った中年男性。

 一転、ジョイナスとルティアの方が目の前の光景に圧倒され、やれやれといった顔でその場から引き下がる。

「私たちの言葉が届かないほど強欲なんて……これじゃ邪心を食う暗黒神ゼードイルの餌だって言ってるようなものじゃない」
「……こいつら、いや九郎太の事が少し分かったよ。他人の醜い欲望に苦しめられて、それを否定しながら自分の欲望だけは肯定するダブルスタンダードだ。……これじゃ救えない」 

 ジョイナスとルティアの眼が上から冷たく九郎太たちを映す。汚物を見る目だ。

「何時まで見てるんですか。これ以上あなたの言葉を聞く気はありません。お帰りください」

 乙葉が客人を睨みつける。命より大事な弟くんの心を傷付けた敵に殺気を向けているのだ。

「……そうか。じゃあ忠告だけしておくよ、この世界に暗黒神ゼードイルが降臨する。お前たちのような欲望の塊を吸収して完全体となり、この世界を滅ぼすためだ」

 それだけ言い残すと、ジョイナスはルティアと共にその場から一瞬で姿をくらます。

 瞬間、部屋に静寂が戻った。中断されたゲームの電子音だけがその場に流れている。

「消えた……」

 彼らがエルメシオン神とやらの使いという話はどうやら完全な嘘ではない、と九郎太たちは確信した。第一ここは脳特科の用意した戦力セオベイターの寮だ。おいそれと一般人が立ち入れる場所ではない。

 4人が顔を見合わせる中、事件の発生を報せるアラームが鳴り響く。

「モッツァレラ小隊!事件よ、現場に急行して!」

 女性の声、脳特対の上司――紅凪だ。

「待って。今クゥちゃんは非番よ?こんな時に出動を強要する気?それに今さっき怪しい人が……」

 セシリアが抗議しようとする。事件の被害や世界どうこうより九郎太の方が案じられるべきなのは当然の事だ、しかし。

「いえ……僕、行きます。あの2人組の言ってた事……今に大変な事が起こるかもしれない。事件はその前兆かも……」

 九郎太は立ち上がっていた。気掛かりをそのままにすればするほど居心地の悪さに苛まれ続ける。理由としてはそれだけだった。

「さっすがクー兄ぃ!」
「分かった、弟くんが言うなら……弟くんは私たちが守るから」

 かくして九郎太たちはその渦中に飛び込む運びとなった。それが何を起こすのか、それは"神"のみぞ知る所であった。


 ところ変わって日本某所。普段は喧噪溢れる都会だったが、この時に限ってはその様相は様変わりしていた。辺り一面から火の手が上がり、建物は無惨に薙ぎ倒されていく。そしてその上を闊歩する多数のモンスターたち。

 これはゲーム・アニメメディアミックス作品「モンスターフレンズ」に登場したモンスターたちの姿を取っている――セオベイドたちの大群だった。

 「モンスターフレンズ」――これは2つのゲーム会社「満天堂」と「レベルゼロ」が共同開発した世界的有名ゲームであり、そして幾度も社会現象を巻き起こした、まさに”モンスター作品”である。
 老若男女問わずから愛され、夕方アニメの定番でもあったこれは、大人たちの「ゲームなどに現を抜かしおってけしからん!」「動物を捕まえて戦わせるなんて虐待だ!」といった声をものともせず、海外にも大ヒット。日本の誇る最高峰のコンテンツとして、そしてオタク界の大きな柱として存在感を放ち続けていた。
 モンスターはポップな姿形をして子供に愛されるものからセクシーな姿形でケモナーたちを引き付けるものまで多岐に渡り、今も需要も満たし続けている。

 だが、そんな栄華を打ち崩す事件があった。

 モンスターフレンズのアニメ監督「たつみ」氏に嫉妬したレベルゼロ社長「比野博晃(ひのひろあき)」がたつみ監督を追放したのだ。

 名作と謳われたモンフレアニメの監督を蔑ろにしたこの報はオタク界隈に大炎上を巻き起こし、そして社長自身がワンマンでアニメ監督脚本を担当した「モンフレ2」はその出来のひどさからアニメ界最大の黒歴史と呼ばれ忌み嫌われる事になる。
 元より比野作品は賛否両論が激しく「ブリキ戦記」「ライメイナイン」「ウィンダムRAGE」「2ツ国」...等、子供には一定の評価を受ける一方で子供騙し度合いが酷いとのもっぱらの評判であった。

 当然、オタクの怒りは頂点に達する。たつみ監督を追放し、コンテンツを大爆死させた比野社長を撃ち滅ぼす為、オタクたちは集団で実力行使に出たというわけだ。

「社長を引きずり出せ!」
「そうだ!殺してしまえ!」

 モンフレのマスコットキャラ「ピカニャン」――電気を放つサーバルキャットが10万ボルトの電撃を放ち、近くの家屋を瓦礫に変える。悲鳴が上がり、巻き込まれ逃げ惑う人々を怪獣型モンスターが踏み潰し血だまりを作る。
 それはオタクたちの怒りが形になったようであった。

「これは――」

そして、現地に到着する九郎太たち。何が起こっているか、彼らは即座に理解する。

「どうする?クー兄ぃ」
「これは……簡単には止まらないわよ」

 問いかけるミーニャとセシリアに対し、九郎太は落ち着いた顔をしていた。

「いや……僕はこれを止めない。これはオタクたちの”好き”を懸けた怒りだから――!」

 だが九郎太たちは、邪悪な気が迫りくる事に気付かなかった。

版権図鑑 番外編①
【モンスターフレンズ】
 世界的ゲーム会社「満天堂」と「レベルゼロ」が共同開発した世界的有名メディアミックス作品。「サイテー地方」を始めとした様々な各国を舞台として街や自然の中のあちこちに棲むモンスターたちと出会い、捕まえて絆を紡ぐ育成バトルRPGシリーズ。
 SEOが出る前までゲームソフト売上No.1を誇るヒット作品シリーズとして君臨し、そのゲーム性と交換/通信対戦機能から社会現象を巻き起こす。一方ゲームを気に入らない大人たちによって「動物虐待だ!」などとケチを付けられるが、そんな意見など歯牙にもかけない人気を誇り続ける。
 モンスターデザインには「ケロケロ小隊」で知られる漫画家の山崎魅音氏がメインで関わっており、ポップなデザインを基調として子供受けする可愛いキャラが中心であるが、たまにケモナー需要を満たすような艶美なキャラが登場する事も。
 氏のデザインした代表モンスターとしてアニメ版の相棒キャラであるサーバルキャットのモンスター「ピカニャン」が挙げられ、マスコットキャラに関する世界的な賞を幾つも受賞、何処にいてもその姿を目にする世界一有名キャラとして知られ続けている。
 しかし、そのモンフレもレベルゼロ側による「モンスターメダル商法」「完全版商法」「繰り返される発売延期」が幾度となく小規模な炎上を作り出し、その人気に陰りが出始める。
 そんな中での世界的ゲーム「SEO」リリースでモンフレは急激に落ち目に。低空飛行を続けていたモンフレであったが更に悪い事は続くもので、レベルゼロ社長の独断(嫉妬とされる説が最有力)によるアニメ版スタッフ「たつみ監督」の追放事件が発生する。
 名監督としてオタクたちに支持されていた「たつみ監督」はこれに関してSNSで告発、「経済を回している偉大なオタクたち」の不満は遂に爆発、その怒りを買った事で「レベルゼロ」社長の比野博晃及び、この追放に関わったとされる漫画家の山崎魅音氏はオタクの敵となったのだ。
 レベルゼロの比野社長によって監督脚本が担当されたモンフレアニメ(モンフレ2)は酷いの一言で、過去キャラの雑な使い捨てと粗末なストーリー、更に比野社長自身のSNSでの発言が炎上に炎上を呼び続け、ついにはオタクたちによる殺害予告と放火予告が相次ぐ事となる。
 加えて言うのであれば、元々比野社長は商業的な実績こそあるものの、ワンマンでストーリーメイキングをしたがる悪癖がある上にそのクオリティはお世辞にも高いとは言い難くレベルゼロの「ブリキ戦記」「ライメイナイン」「2ツ国」はシリーズを経るごとに不評が増えていく。更にその悪評を決定づけたのがパンライズとタッグで出した【ウィンダムシリーズ】(https://ncode.syosetu.com/n9539ik/16/ 参照)の「ウィンダムRAGE」であった。これでウィンダムファンの全てを敵に回し大炎上していた。
 ――結果、相次ぐオタクたちによる殺害/放火予告やモンフレ2へのヘイト創作がオタク間で大流行した事はオタクに無理解な外部からオタクに対する風当たりが強くなった原因のひとつである。
 だが一方では普段は優しいオタクたちの「”好き”を守る為なら全てを投げ打つ」怒りの恐ろしさと格好良さが見て取れる事件として歴史に刻まれる事になったと共に「たつみ監督追放事件」は「リアル追放系ざまぁ」としてオタクたちの語り草となっている。

 ちなみに九郎太のモンフレパーティは全員♀

【次回予告】

 皆、正義を示す事に全力だ。

 学校で、会社で、あるいは銀行で。

 だがどうやら自分の正義の為に誰かの正義を踏みにじるのもまた正義らしい。

 次回「平和とか対話とか平等とか言ってる偽善者が一番信用ならねえんだよ」
 

 このイベント、どう攻略する? 

 

 

 

 

 セオベイターとなったオタク達が多数のモンスター型セオベイドを従えレベルゼロ本社に突入する。鉄パイプを振るい、モンスターたちに指示を出し、破壊活動は勢いを増してゆく。
 社員と思しき人影がモンスターの吹き出す炎に包まれたかと思うと、次の瞬間には黒い炭塊となって転がった。社長は市民に紛れて逃げていると憶測の声が挙がれば、逃げ惑う市民に植物モンスターの蔓が迫り、その首を絞め上げそのまま捩じ切った。

「これはオタクの怒りだ。僕がニコライに向けたのと同じ、好きを守る為の力だから――僕は止めない」

 九郎太は真剣な面持ちでその光景を見詰める。僕たちオタクは大事なモノを護る為なら命を奪う事にも抵抗は無いんだ、と。

「弟くん……優しいね」

 乙葉が九郎太の頭を優しく撫でる。

「当然だよ、クー兄ぃは誰よりも辛い人の気持ちが分かるんだから!」
「クゥちゃん……いつの間にか大人になったのね。でも……ママの事はずっと大好きでいてね♡」

 続いてミーニャとセシリアが九郎太に抱き着く。豊満な胸が九郎太を押しつぶさんとする。
 その一方でモンスターに引き裂かれた死体が宙を舞う。

「苦しいよみんな♡それにここ外だし……♡」

「場所なんて関係ないよ、弟くん♡」

 3人の眼は獲物を狙う肉食獣の如く輝き、その手が九郎太の股間に伸びる。
 一方でモンスターによって血溜まりに沈んだ母親を前に子供が泣きじゃくる。

「乙葉お姉ちゃん♡ミーニャお姉ちゃん♡セシリアママ♡」

 九郎太がヘコヘコと腰を押し付け、快楽の虜となる。
 一方で瓦礫の中から妻と娘を助けようとしていた中年男性が、家族諸共大型モンスターの下敷きになる。

「うぅっ……あぁ……っん♡」

 九郎太の絶頂と同時に、レベルゼロ本社は倒壊した。


「――もう、こんな所でやめてよ……」

 九郎太は衣服の乱れを直すと、瓦礫の山の上で今尚レベルゼロ社長の比野氏を探し続けるオタクたちの一団に目をやった。

「結局、例の2人の言ってた神がどうとかは何も起こらなかったわね……」

「……違う、この感じ……弟くん!気を付けて!」

 乙葉が叫ぶ。次の瞬間だった、地の底から幾多もの黒い触手が現れたのは。瞬時にそれを察知した3人は九郎太を抱きしめ、足元から出現した禍々しい黒の奔流を飛んで躱す。
 だが、目の前のオタクたちにはそれが叶わなかった。反応出来た時には多数の黒い触手が彼ら一団を丸ごと呑み込んでいたのだから。

 オタクたちの苦悶の叫びが上がる。全身を絞め上げられながら皮膚を突き破られ、触手に体内をズタズタにされているのだ。
 当然彼らのモンスターたちも主を助けようとその爪や牙を立てるが、一切意に介す様子も無い。

「ああっ、遅かった……!」

 瞬間、空から光が降り注ぎ複数の人型を取る。その一団の中には例の2人……ジョイナスとルティアの姿もあった。

「それは……ゼードイルの邪触手です!欲望という邪心を持つ人々を餌食にします!どうか皆さん全ての欲望を捨てて……!」

「……駄目、こうなってしまっては……。そもそもこのモンスターフレンズというゲームに現を抜かしている時点で、欲望の虜なんだわ。罪もない動物を支配し、自分の武器として利用するなんて……モンスターの気持ちも考えない一方的な搾取、人間中心主義の極致と言えます。そして目指すはリーグ優勝……スポーツにも言えるけど、競争して上を目指す事になんて何の意味も無い、それどころか向上心も勝利も悲劇しか生まないというのに……。こんなゲームをやっている時点で救いは無いの。それに、この会社も『資本主義社会という兵器』に歪まされて、売り上げの為なら幾らでも他人を不幸にするような存在……誰一人として救われはしない。もはや楽にしてあげるしか……」

「そうだな……これも『聖王の冠』と創造神エルメシオンに選ばれた俺達の使命だ。助けられる奴だけ助けるぞ!」

 叫んだルティアに続き、仲間であろう緑髪の中性的な青年と荒々しげな風貌の男性。同じくエルメシオンの使い、ラーンとディックだ。

「た、助けてくれ……」

 邪触手に捕らえられているのはオタクらだけではなかった。散り散りになって逃げだしたレベルゼロ社員もまた数人、黒い邪触手の餌食となっていたのだ。

「助かりたければ欲望を捨ててください、出世も勝利も要らない、全てを弱者の為に捧げると……それが出来れば自ずと助かるはずです」
「そうだそうだ!進歩も成長も学校も、人には要らないもんだ!」

 ラーンとディックが詰め寄る。

「わ、分かった……なんでもする!何でも捨てるから助けてくれ!」

 だが社員が助かる様子はなかった、触手が首筋を貫かんとする。

「……駄目、心の奥底まで欲望に支配されて……出世する事が全てだという考えが抜けないみたい」

 そして叫びと共に社員の身体は黒く霧散していく。邪触手に吸収された者は跡形すら残らない。

「……仕方ないわ。取り敢えず、跋扈するモンスターたちを何とかしましょう。全部は無理でも少しでも減らさないと」

 ラーンが懐の中から出したカードの束を掲げる。すると、その束から光が放たれカードの1枚1枚が姿を変えていった。

「セオベイド――妖精王ダイヤモンドストーム!そして、妖精剣士チャッピーと妖精技師ポレンを召喚!」

 カードから人型の上半身と異形の下半身を持つ妖精王とその配下たちが出現する。これはカードゲーム「バトルデュエラーズ」――そのデジタル版、「バトルデュエラーズ・アリーナ」の登場カードの1枚だった。
 無論これもセオベイドであるのだが、九郎太の乙葉のような人型個体ではなく一束のカードデッキの形をした群体型セオベイドとでも呼ぶべき存在だ。
 ラーンの持ち物であるこのセオベイドだが、本来はセオベイターでありつつそれを隠して暮らしていた一般人男性――江洲 英須(えす えす)を「平和の為」と恐喝――もとい説得して奪ったものであり、彼がゲーム内で使用していたデッキがそのまま実体化したものであった。

 ラーンの操る妖精たちが「モンフレ」のモンスターと刃を交え、少しずつ打ち倒していく。

 そんな光景を見ていた九郎太であったが、次第に眉間に皺を寄せていく。彼が漠然と感じていた不快感。その元は邪触手ではなく、彼らの言葉であった。彼の不快感を洗脳ヒロインたちは敏感に察知し、代わりに言語化する。

「クー兄ぃ、あいつら……上から目線で説教して生意気じゃない?」
「うん。僕も丁度そう思ってたところ」

 すると怒りは自ずとそちら――エルメシオンの使徒たちに向かう。

「弟くん、やろう。あの触手だってあいつらの自作自演かもしれない」
「”アレ”で行きましょ、クゥちゃん」

「うん……!行こう!メガフェンサー!」

 九郎太が声を張り上げると、戦車や戦闘機――4機のマシンが戦場に襲来する。例の冗長な合体バンク気取りの描写は省くが、何はともあれ4機のマシンは一つに重なり合い、巨人の姿を形成した。
 これが九郎太が持つセオベイターとしての力、メガフェンサー。乙葉たちのような意思(九郎太の傀儡ではあるのだが)を持っているわけではない、純然たる彼の”暴力”である。

 そして九郎太の乗り込んだメガフェンサーは光の刃を展開し、今も尚オタクの一団――うち半数以上の命は潰えているが――を捕らえている黒い触手にその切先を当てる。
 高熱の刃からバチバチと火花が散り、邪触手を焼け焦げさせるが同時に捕まっているオタクたちも苦しみの叫びを上げる。

「……邪触手に捕まった者は邪心を捨てない限り助からない。触手の方を傷つけようとするとそのダメージが捕まっている方にも入ってしまう」

 「僕たちのような澄んだ心を保っていられる人でないとこれを回避できない」と付け加えるのはエルメシオンの使徒にして九郎太の所にメッセンジャーとして来た客人、ジョイナスだ。

「澄んだ心、の持ち主ですか。”あなた方基準の善人”の間違いではないですか?」

「お前たちや捕まっている人たちのように、自分の為に何かを欲しがる邪心を持たない、その為に決して暴力を振るわない人間だ」

 乙葉の鋭い物言いに飄々とした態度で返すジョイナス、メガフェンサーとジョイナスの視線が交錯する。九郎太は最早この男の声を聴くだけで苛立ちが募っていた。

「その力だって、人には要らねえよな!ここまで言って分かってくれないのなら……俺たちにも覚悟はあるぜ!」

 ジョイナスの仲間の一人、盗賊槍士ディックが手を翳す。するとその手から光が放たれ、彼の手の中には1本の槍が握られていた。これもセオベイド由来の武器であり「Faith/nightmare」というアダルトゲーム――ただし、その大人気ぶりから最高峰の現代ファンタジーと称賛され、シリーズ通して幾度ものアニメ化・幾つも外伝が発表された――において「ブルーランサー」と呼ばれていたキャラの持つ「聖具」であった。
 ――当然であるが、これが彼が自身に従わなかったセオベイターをやむを得ず殺傷して奪ったものである。

「弟くんに手は出させない!」

 乙葉が刀を振り翳し、形ある斬撃を飛ばす。ディックは聖槍の穂先に作り出した力場でそれを弾き飛ばすと、大きく逸れた斬撃は建物をいともたやすく両断する。そして返しに槍から撃ち込まれた光の束が乙葉の刀によって弾かれ、偶然そこにうずくまっていた負傷者を無惨な肉塊へと変貌させた。

 「クー兄ぃ!あたしも手伝う!きっとこいつらが触手を操ってるんだ!」

 ミーニャが叫ぶと、メガフェンサーの半分程度のサイズであるが赤い巨大な影――巨大人型兵器「オファニム」が降り立ち、自動操縦で彼女をその手に載せるとコックピットに収容した。
 そのままオファニムは携行した電磁ライフルでエルメシオンの使徒たちに発砲する。人など一瞬で血煙にする程の衝撃波が断続的に発生するが、それによって使徒たちを傷つける事は叶わなかった。

「やはり――あなた方は欲望にまみれたその手で弱い人たちの喉笛を締め、その足で人を踏みにじって生きてきたのね。どんなに力があっても、全てに勝つ事は出来ない。いずれ滅ぼされる時が来るというのに」

 ラーンの操る妖精たちがシールドを形成し、その弾を無力化していたからだ。

「――ッ!あたしたちが……踏みにじった?」
「はい。例えばあなたのロボットの銃、例えばあれを人の多い空港なんかで撃ったら……大変な事になるくらい分かるわよね?そう、人は必要のない物まで生み出してきた……。銃、爆弾、核兵器――そして資本主義社会。あなたの力もそれと同じ……人と世界を蝕む猛毒」

 ラーンは淡々と語る。それと対照的にミーニャの声は震えていた。

「アンタが……アンタにあたしたちの何が分かるのよ!クー兄ぃはSEOという唯一の居場所をニコライに潰されて!現実という地獄に叩き落とされた!あたしは何も出来ずにクー兄ぃの心が死んでいくのを見てただけ!!そんな世界が正しいって言うなら……あたしが壊してやる!!逆らう奴がいるなら、代わりに全部殺してあげるんだから!!!」

 ミーニャのオファニムが光の剣を展開し、ラーンを切り刻まんと急接近する。その巨体が高速で動いたことによって発生したソニックブームは、周囲の木や車、瓦礫を吹き飛ばし数キロ先に避難していた人々に降り注いだ。――奇しくもこれによって、かつてミーニャが空港でニコライ殺害を目論んだ際に出た市民の犠牲者と同数の人間の命が奪われたと後で明らかになった。

「そうやって人の話に耳を貸さず、自分勝手な怒りや憎しみを並べ立てるだけ。あなたが可哀想な境遇だったとしても、あなたの癇癪に巻き込まれる弱者の事なんて考えた事ある?どうして競争社会から抜け出さず、今度は自分が上に立って誰かを踏みにじる側に立ちたがるの?欲望なんて全部捨てて、気に食わない事も我慢して呑み込んで、身の程を弁えた小さな人間として優しい生き方をすれば良いのに……!そうやって自分の都合しか考えない競争主義の人たちがいるから――!」

 何度も何度もラーンはスピーカーの如く同じ文句を繰り返し続け、その思想に基づいてミーニャを断じる。と同時にラーンの妖精王が巻き起こした突風を合図にオファニムに向かっていく妖精たち。そのほとんどは粉々に切り裂かれ、もしくは機体に衝突して粉砕されていく。だがその1体の残骸が、ほんの一瞬だけ機体メインカメラを塞ぎミーニャの視界を奪う。
 その一瞬を突いてラーンはカードを使用。妖精王もろとも自身の位置を大きく移動させ、ミーニャの背後を取った。

「妖精王ダイヤモンドストーム――融合進化、妖星竜ヴァルカン!これであなたを……欲望から解放してあげるわ!」

 鎮座していた異形の妖精王が光と共に姿を大きく変え、西洋竜の姿を取る。元がDCGのカードであるこの群体セオベイドは、そのカードプレイングによって自由自在に姿を変えていくのだ。
 ヴァルカンと呼ばれた竜はすかさずミーニャのオファニムに向けて、口内から熱エネルギーの奔流を照射する。

「この……ッ!生意気!そうやって上から目線で――自分の言う事ばっか押し付けてきて!クー兄ぃが人並みの愛を受け取るのが悪いって言うの!?何の価値も無い、偉いだけの人間の下で蔑まれてれば良いって言うの!?クー兄ぃ以外……こんな世界には守る価値の無い奴らばっかり。あたしたちはクー兄ぃと世界のどっちかを選ぶなら……クー兄ぃの為にみんな殺してクー兄ぃを選ぶ!!」

 九郎太によって九郎太の為だけに作られ、九郎太の為だけに存在するミーニャはその魂のままに叫ぶ。そしてオファニムはすんでの所でスラスターをふかした急制動を行い射線上からその身を翻した。
 結果、放たれたエネルギーはオファニムの左腕部を僅かに融解させただけで、偶然射線上にあった遠く離れた街と人々を焼き払うに留まった。

「――なるほど、分かったわ」

 爆炎の中で向き合うオファニムとヴァルカン、ミーニャとラーン。

「アンタは――!」
「あなたは――!」

「――ただの傲慢な加害者よ!!」

 2人の声が、重なった。

 



「欲望のままに力を振るう人達……お前たちも愛するお姉ちゃんを攫い、肉欲の捌け口として犯し尽くして捨てた借金取りの男共と同じだ!だから同じ目に遭わせてやる!」

 ミーニャとラーンの戦いの一方で、セシリアもまたエルメシオンの使徒と相対していた。セシリアはセオベイドとしての力――艦装具と呼ばれる武装を纏い、2人の使徒にその砲塔を向けて砲弾の雨を撃ち込む。

「セオベイド……このような武力で解決しようなどと……我が子と同じ道を辿ってしまったのですね。せめて安らかにわたくし達の手で……」

 セシリアの方に向かってくる小柄な影、マーシー――徒手空拳を武器とする中性的な少女。そしてその後ろに控えて力を増幅する老修道女、アメシスト。この2人も当然の如く、強奪したセオベイターの力を行使していた。
 縦横無尽に飛び回るマーシーは仮面を付けており、その後方に出現した大柄な人型の幻影が砲弾を受け止める。信管が衝撃で起動しないよう速度を殺し、手で掴んでは投げ返すのだ。
 この力は人気少年漫画「ジェイクの奇異なる仮面」シリーズに登場する「心象(ビーイング)」という能力だ――更に言えば、これは「シーズン5」の「プラチナム・アルセーヌ」――パワーだけでなく精密な動作に特化した心象。作中で主人公が自身の心象に逆支配された暴力教師の「鴨田」に殺されかけた際に発現した。そしてその主人公によって操られ街に潜む社会権力や凶悪犯を心象で裁いていく――という活躍が有名である。

「子供のため、世のため人のため。そうは言っても結局あなた達は気に食わない人たちが自由にしてるのが気に入らないって事じゃないのよ?違う?そもそもあなた、同じ目に遭わせてやるって……殴り倒して借金を踏み倒したの?」
「父さんが倒れて貧乏になったボクたち姉妹には生きる金が必要だった……だが奴らはそこに付け込んで利子なんて悪魔のようなシステムで何もかも搾り取ってきた!そういう借金取りなんて奴らに払う金は無い!」

 アルセーヌがトランプカードをセシリアに投げ付けるが、セシリアには軽く躱される。しかしそのカードは地面に"着弾"すると同時に青い爆炎を吹き出しその衝撃波がセシリアを一瞬よろめかせた。

「そう、彼らもまた欲望に心を支配された悪人だったのです。私たちのように愛と平等の元に、己の身を呈してでも弱者を救うのが正しい人の道だというのに……。私の息子も弱者を虐げる道を選んでしまい、最後までその心を改めなかったが故に引導を渡し、そして息子は不幸な最期を迎えました。そうなりたくなければ――」

 アメシストが手を翳すと、走ってくるマーシーの足元のアスファルトに次々とヒビが入る。セオベイドの力とは違う、元々彼女が己の世界で行使していた身体強化の術だろう。

「――そう。あなたたちって本当に……ろくでなしね。だったら容赦なんて要らないわ。『魚雷』!」

 拳を掲げ迫るマーシーの足元が、突如として爆発する。後方に吹き飛んだマーシーであったが宙返りしながら体制を整え、瓦礫の上に降り立った。

「まずあなた――おチビちゃん。利子の事とか何も知らずそんなおかしい所からお金を借りたの?社会福祉とかそういうのも知らなかったの?子供でも常識がなさすぎるところを見るに――あなたのパパ、相当ダメだったみたいね。そしてオバサン……あなた、自分の子供の教育に失敗して、子供が思い通りにならなかったから捨てて命を奪ったのね。親として――あり得ない。何が愛?平等?――ふざけてんじゃないわ」

 セシリアが2人に向けて砲弾の雨を降らせる、直撃を狙わずその周囲に打ち込まれたそれはマーシーのアルセーヌによって受け止められる事は無かった。

「おチビちゃんの方はちゃんと謝ったら許してあげる。ママたちのモッツァレラ小隊に来なさい。けど……そのオバサンは別」

「……ッ!何が許すだ!そうやってお姉ちゃんと同じ目に……性欲の捌け口にする癖に!」

 マーシーが九郎太ハーレムへの誘いを一蹴した瞬間、爆炎が一帯を包み込む。アルセーヌによって守られているマーシーらに致命的ダメージが入る事はなかったが――瓦礫が飛び散り、煙幕が立ち上った。

「……そう、じゃあ駄目ね。救われない。SEOを失い、社会的なスキルが無いからって理由だけで親や上司に怒られ世間に冷たくされてきた理不尽なクゥちゃんの不幸とは違う……あなたたちの不幸は全て――何もかもが自己責任よ!!!!」

 セシリアは艦装具の力で高速移動しながらCIWS...自動火器を放った。セオベイドが同サイズの人間を殺傷するならこれだけで十分の火力、先ほどの砲弾によって辺り一面は煙幕で包まれている。セシリアだけがレーダーで相手の位置を正確に捕捉出来る状態で、常に位置を変えながらターゲットに向けて銃弾が放たれ続ける。これはマーシーであっても対処出来る術は無い――そうセシリアは思っていた。だが。

「光を司る程度の力――」

 アメシストによってその手から放たれる力。電波の流れを歪ませ、認識を狂わせるセオベイドの力でセシリアはその術中に嵌っていたのだ。

 光を司る程度の力――忘れ去られた者たちが集う遠い星を舞台にしたSTG「楼方planet」に登場する能力だ。二次創作を完全許容したスタイルの個人製作インディーズゲームとして古くから長期に渡って愛され、奇しくもセシリアの出典元――少女艦隊×プリティーフリートとも双璧を為す美少女コンテンツとしてオタク向け動画サイト、そしてオタク系サブカルチャーの顔であった。

「あなたがどう言おうと、私たちは学んだのです。この世には欲を持った人間がいる限り平和は訪れないと。今より良く、快適な暮らしを――そんな歪んだ心で為されてきた進歩と発展がどれほどの自然を破壊し、科学技術と便利な道具がどれほど人の心を狭めて優しさを奪ってきたか分かりませんか!?息子は――それを最後まで理解しなかったから自業自得の最期を迎えただけです!!」

 アメシストは血肉を分けた自らの子の事に対し悲しむ素振りは何ら見せず、ただただこの世を憂いる方向だけに感情を向けている。そこに親子の情という物は一切見て取れなかった。

 マーシーのアルセーヌの投げ付けるカードが、アメシストの力によって幾多にも増えて見える。光を司る力も多重には使えないのか、コストパフォーマンスが悪いのか……肉眼で目視出来る幻影にレーダーの電波を誤魔化す力は無かった。
 しかし、目視出来る幻影とレーダーにのみ現れる幻影の二重攻撃に少しずつセシリア側に疲弊が見え始める。視界とレーダーを照らし合わせて幻影かどうかを判別し、本物は前後左右に避けるかCIWSで迎撃する、相当に神経を消耗する防戦だ。

「それに、自己責任っていうのも競争社会、資本主義の作り出した愚かな考えだ!人は人に助けられなきゃ何も出来ない……それを分かってたからお父さんもお姉ちゃんも優しかった!お前の大好きなセオベイター……九郎太は、ボクたちと同じように苦しんできた癖に何も優しくないだろ!見てみなよこの瓦礫と死体の山……沢山人が死んでるのに、知らんぷりなんだぞ!」

 マーシーが吠え、その瞬間に煙幕を突き破って飛び出す。マーシーとアルセーヌの拳が重なり、白金に輝く拳となってセシリアに迫る。これは幻でも何でもない、紛れもない本物。

 ――だが。

「クゥちゃんが……優しくない?」

 セシリアは鋭い眼光を向けると、至近距離に迫るマーシーを前に手を広げて向き直った。

「この距離なら、回避は出来ないわね……!」

 次の瞬間、その腹に拳を受けながらセシリアはマーシーを力一杯に抱擁する。九郎太に対する好意とは全く逆の、地獄へと誘う怒りの抱擁。そして――。

「しまっ……!」

「欲望が悪?進歩や科学が悪?資本主義が悪?よくそんな下らない時代遅れの考えで生きてこれた物ね、被害者気取りでサイコパスな原始共産主義のエコテロリストさん。……だから貴女がたの頭も進歩や成長が無いのかしら?」

 全艦装具の砲塔を自身に向ける。全身を捕まれたマーシーに逃げる術はない。
 頼みのアルセーヌでセシリアの関節を狙おうとするも、今現在の攻撃態勢を解くのに一瞬手間取ってしまう。その隙はセシリアにはあまりにも十分過ぎた。

「オバサンも覚えておきなさい。子をバカにされて、怒らない親は……親失格なのよ!!!」

 九郎太の為のママ、セシリアは己の命を懸けるのになんの躊躇も無い。盲目的に自身の主に奉仕し甘やかすのが彼女を含むSEOのAI、セオベイドの最高目的だからだ。
 実際のところ――現実逃避でフィクションに耽溺する九郎太の方にだって進歩や成長があるとは言い難い。優しいと言いながら言い返せない気弱なだけの他責思考で自ら他人の為になるような事は特にこれと言ってしていない。病気で仕方なくとはいえ迷惑を掛けた時だって謝る気も持っていなかった。だがセシリアにはそんな理屈は必要無いのだった。

 耳を劈く爆炎と衝撃波。マーシーを助けに駆け寄ったアメシスト諸共、それに巻き込まれて吹き飛んで転がる。そして――。

 熱と光が収まり、煙が晴れた所に辛うじて立っていたのは、セシリアだった。

「う……うぅ……っ!」

 すんでのところでアメシストに追加の身体強化を受けていたものの直撃を受けたマーシー、距離を取っていたもののその余波に巻き込まれたアメシスト。

 そして、マーシーが壁となる位置関係であり、尚且つ軍艦の擬人化キャラとしての強固さを備えてはいたもののその火力を決して無視は出来なかったセシリア。

 互いに満身創痍、3人全てがギリギリの状態だった。

 

版権図鑑 番外編②
【バトルデュエラーズ/バトルデュエラーズ・アリーナ】
 カードバトル漫画を原作としてゲーム・ホビー会社「タカナコミー」がリリースしたTCGであり、世界中で大ヒットを果たす。ライバルの「モンフレカード」に負けず劣らずの人気だが、その反面「裁定がテキストと一致しない」「定期的に壊れカードが暴れる」などのネガティブな意見も。
 「バトルデュエラーズ・アリーナ」はそのTCGをスマホゲームにした物であり、一部カードやテーマに上方・下方修正が加えられてある程度環境が整えられている。

 今回登場した「妖精デッキ」はマイナーカードにかなり極端な上方修正が行われてしまった「事故」とも言うべきテーマデッキであり、カードプールが広がれば広がるほど強化されていく性質も手伝って幾度も多重に制限が掛かる事となりその活躍から「エルフフェアリーズ・アリーナ」と揶揄される事も。

【Faith/nightmare】
「伝奇系ビジュアルノベル」として当初同人サークルとして活動していたグループ「category-SUN」によって書かれた現代ファンタジー作品。13人の魔導士が異界から呼び出した「守護霊」と共に聖剣を奪い合う「聖剣闘争」に巻き込まれ戦う主人公と異界から呼び出されたヒロインの剣士の活躍を描いている。
 過去の出来事やその後、Ifを描いた様々なバリエーションのシリーズ作品がリリースされ、何度もアニメ化を果たしている他、近年ではソーシャルゲーム化も果たしている。

【ジェイクの奇異なる仮面】
「 |鬼斬-ONIKILL-《オニキリ》(https://ncode.syosetu.com/n9539ik/7/ 参照)」以前より週間少年ジャックで連載していた劇画風ホラーサスペンス系バトル漫画。
 少年漫画でありつつおどろおどろしい独自の表現で描かれており、特に高い年齢層から多大な支持を集める。メインギミックとして己の心を映し出し仮面によって実体として出現する能力「心象(ビーイング)」が存在し、これに影響を受けた作品は数多い。
 「シーズン5」は「権力を振り翳して相手を抑え込む大人」への若者の叛逆や「隠れ潜み破壊的な衝動を発散する凶悪犯」との対峙を通じて「人の内面」が描かれる。
 作中に登場した暴力教師「鴨田」は「最初の敵としてのヘイト役」と言われる反面、元アスリートでありながら結果を出せなかったコンプレックスから自身の「心象」に逆支配された哀れな被害者と考察する奇特な界隈も存在する。

【楼方planet】
 日本の同人サークル「北京幻想楽団」によって製作されたインディーズゲームシリーズ作品。弾幕STGのひとつとして以上に、美少女ゲーム――ひいてはサブカルチャーの顔として長年愛されていた。作曲家を兼ねた作者による音楽的な評価も高く、これに影響を受けたゲーム作品として「below story」などがある。
 それ故全盛期はかなりの厄介ファンを抱えており、その当時新たにブームとなった、セシリアの登場する「少女艦隊×プリティーフリート」とは対立関係を見出すファンが多数いた。特に楼方の二次創作をしていた作家が少女艦隊の二次創作に手を出す事は「裏切り」と言われ作品を愛するオタクたちのバッシングの的となった。
 厄介な過激なファン・低年齢層を中心とした弁えない人間は「楼方厨」と呼ばれ様々な場所で暴れ回り、その内楼方の話題が出るだけで総叩きが行われる程にまで過激化した時期もあったほどである。
 現在はブームも相当落ち着いてファンもアンチも当時の過敏さを失ってはいるが、一方で楼方のキャラが物事を解説する動画が何故か流行っている。


【次回予告】

 人ってのは色々あるもんだ。

 何かを欲しがったり、気に入らない奴を憎んだり、あるいは銀行に行ったり。

 でも一度考えた方が良いんじゃねえかな、目の前の相手も同じように生きて銀行で正義振り翳してるって事を。

 次回「結局ブーメラン投げ大会に勝者はいねえんだよ」
 

 このイベント、どう攻略する? 

 

 

 

 とある避難所、脚に大きな荷物をぶら下げ、両手の代わりに付いた大きな翼でバサバサと羽ばたきながら降りてくる少女。各地で発生するセオベイド災害の中、遠方から支援物資を届けてきた彼女もまたセオベイドだった。セオベイターの江洲 英須(えす えす)と共にボランティア活動を行っているハーピィ型の――彼のプレイしていたソシャゲ「魔物少女タワークエスト」のキャラクターを元とするセオベイドだ。
 被災者たちは当初セオベイドであるという事で恐怖していたものの、現在は多少なりとも受け入れられているように見えた。無論、トラウマが残る者も少なくはないのだが――。兎も角として、彼女は他にも多くボランティアに参加していたセオベイドや、江洲 英須を含む有志セオベイターたち、更にそうでない一般の活動員と共に善意のボランティア活動として精力的に様々な仕事に参加していた。そして、仕事がひと段落付けば彼女らにも一息付くタイミングがやってくる。――そんな中、閃光が瞬いた。
 そして次の瞬間、避難所も被災者もボランティア活動員も、全てが跡形もなく四千度の爆炎に消え去った。


 ――そして、その上で飛び回る3つの影。刀を振るう乙葉に対しディックとルティアが幾度もセオベイド由来の槍と剣を向け、互いに武具から発生するエネルギーの塊をぶつけ合い、その余波をまき散らしながら一進一退の攻防を繰り広げていた。

「結局お前はあのセオベイターの言いなりなのかよ!学校教育という洗脳プログラムに精神を支配された現代の可哀想なガキたちみてえだな!俺たちはそういう奴らを親と教師から解放してきたからよ……お前もそうなるべきだぜ!」
「聞いてください。あなたの"持ち主"である九郎太の事を調べましたが――あなたが自分の欲求を満たしてくれるからあなたを愛しているだけ。不都合な相手は簡単に排斥出来てしまう恐ろしい人です。あなたも持ち主も事を想っているなら……過ちを見つめ直してくれるよう、語り掛けてください!」

 ルティアがその手に握るのは長い歴史を持つRPGシリーズ「ファイナルクエスト」シリーズの武器「ゆうしゃのけん」だ。聖剣が黄金の光を放ち、それに照らし出された地を消し飛ばす。

「……言いなり?私が?過ち?弟くんが……?」

 乙葉が怒りを込めた瞳を2人に向け、唇を噛み締める。廃墟と化したビルの屋上に降り立つと同時に、全身をバネに大きく跳躍した。セオベイドの乙葉は原典のアニメ――「Over flower」のアレコレを無視して九郎太の「好き」の為に――徹底的に甘やかし、飽くなき欲求の捌け口となるべく生まれたその為の命だ。その存在意義を満たす事が全ての、彼にとって都合の良い命。現実からの逃避先。彼女はそれだけで良かった。

「あなた達も同じ……SEOを滅ぼしたニコライと。知ってる?『"二次元に逃げるな現実見ろ"という説教の本質は"お前が楽しそうにしてるのが気に食わねえ"である』――のよ!私や弟くんは長い間苦しめられた被害者!私はそんな彼を助けたいだけ……それをどうして否定出来るんですか!?たとえ弟くんが酷い人間だったとして、それを作ったのはこの世界!!だから弟くんや私たちには、それを裁く権利がある!」

 乙葉の刀が、そこから発生した膨大なエネルギー波動の奔流が、ルティアとディックを街ごと切り裂かんとする。が、2人の持つ武器によって放たれる高出力エネルギー防壁によって波動は四散し、この国全体に降り注いでいった。

「競争社会に追い立てられて尚、そんな寝言を言いやがって!お前の『好き』を他の奴にも少しくらい分けてやって仲良くすりゃ良いじゃねえか!!コイツが悪いからだの何だの言って蹴落としてたら、キリがねえぜ!!」
「可哀そうに……自分の心で考える、という事を奪われてしまっているのね。やっぱり傀儡でしかない……ですが、これだけは分かって貰いたい。九郎太は――弱者から奪う側に立っている!あなた方の言う"オタク"が偏見やデマで人を傷つけているように、インフルエンサーや有名作家……声を上げる力がある者に踊らされ、私刑を行っているように!」

 ――これがディックとルティアの言である、が。一方で、自分たちに従わなかった人間に向ける愛という物は彼らエルメシオンの使徒には存在しなかったというのも事実であった。彼らの行く手を阻む者も、資本主義の社会でしか生きられない者も、学校教育に携わった者も断罪し、その口で世を憂いながらその屍の上を悠々と歩き続けてきたのだ。

 何度も波動が交錯しては地に降り注ぐ。そして焼け焦げた建物や炭化した死体たちの上に、九郎太のメガフェンサーはその巨大な足跡を付けた。 

 

「人々が優しい心を片時も忘れず、誰もが常に互いを慈しみ続ける心を持っていれば、そこが楽園になる」
「人々が欲を抑え、優しい心を持ち続けられるようあたしたちの手で働きかけていくこと」

 彼は共に戦っている恋人の言葉を反芻する。

「――そうだよな、ルティア!」

 幾度もの攻撃を受けて尚膝を立て、そしてゆっくりと動き立ち上がる巨人メガフェンサーを相手に使徒たちのリーダー、ジョイナスは相対する。その隣には4人の仲間たち。九郎太は憎々しげにその顔を歪めた。だがその口が上手に動かない。――敵への「レスバ」「論破」全てを洗脳ヒロインに頼り、インターネットの受け売りに頼り、普段の会話すらネットミームや漫画アニメのパロディに頼っていた彼には、エルメシオンの使徒たちの薄っぺらく偏った欺瞞にすら何も返せないのだ。だから。

「ぐ……うわあああああああッ!!!!」

 純度の高い憎悪――にも満たない嫌悪感とともに巨人の剣を振り回し、その小さな心に似合わぬ巨人の手足をばたつかせるしか出来なかった。
 更に間の悪い事に乙葉とミーニャは目の前で九郎太を罵倒した相手に激高し、セシリアは満身創痍。今、彼の代わりに彼の思いを言語化して世話を焼いてくれる女の子はいない。そして彼は――一人では戦えない。

「クソ!クソ!みんなそうだ!!やめろって言いたいんだろ!!僕の好きな事を!!ごめんなさいね!!悪かったな!!俺が!!筆も折るよ!!ああああ!!!」

 そして激情を爆発させる。それはヒステリーを起こした子供の如く。いつものように「かわいそう」って言ってくれ、甘やかしてくれ、と涙を流す。彼が一人で戦えないのは――彼自身がそれを望んでいたからである。
「ヒロインたちに甘やかされ守られるだけの存在でありたい」――最も強い九郎太の感情。それをセオベイターとしての力は、SEOは、忠実に彼の望みを叶えていたからだ。元よりその望みを抱えて生きていた彼は「女の陰に隠れて守ってもらいながら好かれる主人公」という物への批判に過敏だった。
 尤も、この手の主人公像の存在は男性キャラよりも戦うヒロインたちを前に押し出したい制作側の都合で生まれた物でしかない為、是非を問う事にどれほどの意味もあるのか分からないが――兎にも角にも九郎太は「そう在りたい」と心からそう願っていたのだ。

「くっ……なんて事だ……もう彼には、優しい心なんて物は残っていないのか……!」

 そして――その一方でジョイナスは免罪符を得た。分かり合えない奴だから、見捨てても良い。「俺は何も欲さず、他人の為にその力を使える人間」だけど、こいつは「人」と認めなくて良い。
 ジョイナスは仲間たちと共に悲しむ姿勢を取り、そして仲間たちに指示を下す。全力であの機体を破壊し、きっとその後は錯乱した奴を邪触手が食らい尽くすだろう。自分たちは手を汚す必要もない。
 「優しい心を取り戻して」と無意味に声を掛け続け、全て終わった後で「本当は助けたかった」「俺たちの話を聞いてくれていれば」と奴の墓前で涙を流せば良いのだ。――と無意識的に考える。ジョイナスらは揃って気づかぬまま、笑みを湛えていた。

 ジョイナスたちはメガフェンサーを討たんとそれぞれの奪ったセオベイター及びセオベイドの力を向ける。今にもその力が爆ぜて巨人を焼き尽くさんとしたその時。

「僕が!俺が!!『男らしくない』カスだから!!『それでも男か!って俺を殴ってくれた親父が正しかった』って事だろ!!!そう言いたいんだろ!!!」

「――――!!」

 瞬間、ジョイナスの顔が引き攣る。彼は無意識的に「やめろ」と言っていた。仲間たちからもざわめきが漏れる。

「――女にもやらせておけばいいようなひ弱で卑しい事を覚えよって!それでも男かぁ!!」

 ジョイナスの中で、声が響いた。忌まわしい父親の声が。――ジョイナスは静かに震えていた。

 男らしさに拘る父親……家父長制、ミソジニー・ホモフォビア・強欲・暴力的な支配。ジョイナスの根底にあった、それらへの嫌悪。
 そう、彼は「ヒーラー」――自身の男らしさからの解放を目指し、そこから最も離れた回復術士になったのも「優しく澄んだ心」を自身の志向の在り方としていたのも、元はと言えばそれが根底にあった。
 そして――自分のそれと同じ嫌悪の心が、自身が命を奪おうとしていた相手から、人とも思っていなかった者から出てきた。

「九郎太――!それは違う、男らしさなんて必要ない!!悪いのは――!」

 ジョイナスは声を張り上げていた。――そして、九郎太もまた突如として聞こえてきた、思いもよらないその言葉を前に顔を上げ、呆然とした顔でモニター越しにジョイナスを見る。時間にしてほんの一瞬、されど2人にとっては十分すぎるほどの時間。2人は向き合い――。

 

「GLLLLLLLLLLR!!!」

 突如、大地から響く爆音の咆哮。この世の物とは思えない地獄からのような叫びが大気を揺らし、人の心すら凍り付かせる。だがそれはほんの前触れに過ぎなかった。
 地響きと共に黒い霧が湧き出し、紫電が轟く。そして炎とともに、ゆっくりとその巨大な影は廃墟と化したレベルゼロ跡地から立ち上がった。

「あれは……!」

 九郎太とそのヒロインたち、ジョイナスとその仲間たちの視線が、一斉にそちらに向く。

「暗黒神ゼードイル……いや、それだけじゃない!」

 その影は、あまりにも歪だった。メガフェンサーよりひと回りもふた回りも大きい漆黒の泥塊のような巨体から無数の人間たちのパーツが、そしてモンスター――例の「モンフレ」型セオベイドたちの体のパーツが大量に生えている。そしてその中央にはレベルゼロ社長、比野の巨大な顔面が付いていた。

「俺たちが戦っている間に――邪触手が大勢の欲深い人間たちを吸収し尽くしたんだ。そしてその核となったのが例の社長、だがあれは……」

 巨体からは炎が、冷気が、雷光が迸る。絡み合った無数のモンスターと人体は巨腕を形成し、辺り一面を薙ぎ払うようにそれを振り回した。その姿からは、理性のような物は一切感じられない。ただ破壊衝動に突き動かされながら闇雲に暴れているのだ。

「クー兄ぃ!危ない!」

 巨体の腕が、九郎太のメガフェンサーに迫る。その瞬間にミーニャの乗る、片腕を失ったオファニムが猛スピードでメガフェンサーに突っ込んだ。が、オファニムの両膝から下がその拳に殴り飛ばされ火花と共に幾多ものひしゃげた金属片へと変わる。半壊したオファニムはコックピットにアラートを響かせながら九郎太の乗るメガフェンサーを救い出し、やがてメガフェンサーと共に家屋に突っ込んでその動きを止めた。

「う、うぅ……ミー……ニャ?」

 九郎太がモニター越しにその姿を捉えた。

「私たちもいますよ、弟くん」
「ママたち、結構無茶しちゃったけど……最後まで一緒よ」

 乙葉とセシリアがメガフェンサーの前に立つ。2人の身体には幾つもの傷と焼け爛れがあったが、その戦意は衰えていなかった。しかし、それでも満足に動けるとは思えない状況の2人。巨大モンスターに、エルメシオンの使徒たち。絶体絶命と言っていい状況を前に、洗脳ヒロインたちもその覚悟を決める。だが――。

「…………ヒール!」

 次の瞬間、清浄な光が九郎太たち全員を包み込んだ。乙葉とセシリアの傷が癒えていく。彼らに手を翳していたのは――ジョイナスだった。

「な……どうして!」
「俺は――お前の中に、可能性を見た。憎いんだろう……『男らしさ』を押し付ける、優しくないこの社会が」
「……うん。僕はそれがずっと……嫌だった」

 傷付いた2人も、それと構成する要素を同じくする半壊したオファニムも、元の万全な状態へと戻っていく。
 父親や人情太郎に襲われた時に自身を肯定してくれた「乙葉お姉ちゃん」を見た時と同じ目で、九郎太はジョイナスを見た。ジョイナスの声色も、何時になく柔らかくなっていた。

「お前は……君は、僕の事を……分かってくれるんですか?」
「ああ……俺の親父も、そうだったから。苦しんだんだろ?お前も……」

 ジョイナスはこれまで、敵対者と共感し合えた事も、分かり合えた事は無かった。彼自身の心のどこかで、それは心の引っ掛かりになっていたのだろう。だが彼の中には自分と共感できる部分があった。だから――。
 一方で九郎太は、現実という物から逃げ続けていた。現状の打破や周囲の環境を変える努力ではせず助けだけを求め続けていた。そんな中で現れた全肯定botのセオベイドだったが、今度は生身の生きた人間から"肯定"を貰えたのだ。だから――。

(俺はちゃんと分かり合える。だから俺は――)
(僕の味方はちゃんといた。だから僕は――)

 分かり合えそうな相手もいたのだから俺は悪くない。「改心」出来るような奴もいるのだから、出来なかった奴が一方的に悪い。これでジョイナスの免罪符はより強固になる。
 助けを求めるだけで何も努力しなくて良い。男らしさは要らないと神の使いとやらが保証してくれた。これで自分を冷遇した社会を断罪し返す根拠を九郎太は得た。

(――やっぱり、正しかった!)

 ジョイナスと九郎太の口元がニヤリと歪む。

 奇妙な事に、思想も目的も真っ向から対立するお互いがお互いとのやり取りを通じて、共に自らの正当性を悟りながら「自身が分かり合えない相手」に向ける次なる仕打ちに、心躍らせたのだ。

 

その2に続く

 

異世界クロスオーバー編
「分かるか?お前は作者の自己投影先……ただの汚らしい欲望を叶えるためのアバターでしかねえんだよ。本当に気持ち悪いよなあ!」
 「異世界はスマートフォンともに。」世界に転移したカーディフ・R・悠久。この世界で彼が嫌悪する作者の自己投影アバター……「メアリー・スー」狩りに勤しんでいた。目の前の対象は望月冬也、この世界の主人公だ。
 彼の無双と一夫多妻制ハーレム、カーディフの目には奴らはあまりにも醜悪に映った。だからこそ"裁き"の為に戦う事を決意したのだ。

 望月冬也の無様な姿を見てカーディフは静かな笑いを浮かべた。笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。そして、冬也のハーレム要員だった女の子たちは既に冬也を見限ってカーディフに抱き着いていた。
 魔剣を握るカーディフの手に力が籠る。この剣はキュルル(けものフレンズ2)、榊遊矢(遊戯王アークファイブ)、飛電或人(仮面ライダーゼロワン)の血で鍛え上げられたものであり、その威力はカーディフの強化魔術によりギルガメッシュの持つ乖離剣エアの約3倍の力を誇る。

 そしてカーディフの隣には俺ガイルの世界で出会って意気投合した比企谷八幡、ありふれの世界で出会って共に力を合わせた南雲ハジメが立っていた。彼らはカーディフに認められた数少ない主人公であり、冬也のような自己投影先なんかとは違う。元々弱者でありながら自分と同じ覚悟を持ち世界すら敵に回し滅ぼす事すら厭わない、メアリー・スーを狩る同志であった。
 カーディフは彼らの戦い――元の世界で「勇者」ポジションであった所詮は人殺しの連中――八幡に論破され悪堕ちし異形と化した葉山隼人、ハジメに断罪され全てを失い魔物と化した天之河光輝との戦いの中で、彼らを徹底的に痛めつけ、世界の笑い物として晒し上げたのもカーディフの手伝いあってこそのものである。

 そして今、ふたたび魔剣が冬也の首に振り下ろされようとしている。カーディフは「殺る」と決めた相手には決して容赦はない。ニヤリと浮かべた凶悪な笑みが次に向くのは、誰だ――。

 

 

 

カーディフの作者のtwitter模様
・俺は〇〇だから弱男じゃないと毎日のように書き込みながら、伸びてる弱男叩き系ツイートに徹底的に賛同し弱男叩きに参加する
・上げてる画像は美少女ソシャゲやアニメのスクショ
・見てるアニメは基本的に美少女物となろうの異世界物、放送中実況ツイート連打がうるさい、主人公以外の男キャラにやたら辛辣
・お気持ち表明する時には漫画のコマを引用という名の無断転載(勿論その漫画のコマの本来の文脈から外れてる)
・リプライは大半が「女性声優やVTuberへの応援という体のセクハラリプ」「伸びてるツイートへの横からの画像付きクソリプ」の二種
・自分の政治的スタンスを声高に表明しているが、基本ネットで集めた情報を鵜呑みにネットで主流な論調をコピペしているだけの為一貫したものは皆無
・ガレソ、コレコレ、ひろゆき、メンタリストDaigo、暇空、はちま寄稿、やらおん等をよくRT
・基本的に自分の事を可哀想な弱者としているが強者に立ち向かう勇気ある者な時もある。尚やっている事は「事件や炎上が起こる度にネットの反応を伺いながらそれに乗って物申す」
・主な叩き先はポリコレ、フェミ、ヴィーガン、SDGs、中韓露などネット上では安全にサンドバッグにしやすい相手(間違った論を振りかざしていると指摘・訂正を受ければ「これらの賛同者」というレッテル張りを行う)
・「日本は凄い、なのでそこに住んでる俺も凄い」と「日本は駄目、俺が報われないのは日本のせい」の属性を併せ持つ
・反AIの時流に乗っていっちょ噛みするも、肯定派からも否定派からも「お前は黙ってろ」と言われる
・尚AI絵かどうかの判別は出来ておらず普通にAI絵もRTする
・「RTした方に抽選で〇〇万円配ります」系ツイートを常にRT
・自分のツイート内、更には時々他人へのリプで カーディフ「~~」 といった感じにカーディフの台詞という体で既存のアニメキャラや他人の創作キャラに対する感想を述べる
・「#世相に切り込みを入れるカーディフ」シリーズ不定期掲載中
・基本的に毎日自己憐憫に満ちた親やクラスメイトへの悪口だらけ
・類は友を呼ぶので同じような人がフォロワー内に大勢いて傷のなめ合いしながら一緒に社会へのヘイトを溜めてる
・伸びない物書き同士内輪で駄サイクルしている、お互いに義務RTいいねしているが、互いに互いの作品の内容には興味がない。RT数いいね数が少ない日はあからさまにヘラる
・他人の創作キャラを勝手にカーディフと絡ませる。いつも通り男キャラはカーディフの踏み台、女キャラはカーディフとカップリングさせる 

 

 

俺――カーディフ・R・悠久はサトウについて再び考えてみることにした。拷問している間、俺自身がサトウと化していたのではないかと考えたからだ。深淵を覗く者は深淵に覗かれている。俺はそれを理解出来ない程落ちぶれている訳ではない。
 彼は、典型的な優等生――強者であった。クラスを一纏めにしていた彼は、それが当然の事となっていたのであろう。泥を啜り這い回ってきた俺とは違う、彼の天性の才覚。それが増長の原因となってしまったと見て良い筈だ。そうでなければ彼のはただつまらない人間として生き、そこそこ幸せに死ねた未来はあったかもしれない。
 そう考えれば彼も不幸と言えるのかもしれない、更生の可能性を生まれつき奪われていたのだから。一方、彼の罪を追求するのであればその取り巻きも無罪とは言い難いだろう。
 盲目的に一方的に何かを肯定する信者、それがどのような末路を辿って来たかは長い歴史が示している。その点において、思考を止めずサトウを否定したのが今生きている俺自身を作り出す事が出来た要因に違いない。

 

 

 

「お前らが貧乏で死ぬのは自業自得だ、諦めろ。だが努力せずAIなんかで人の成果を奪うようなら俺は絶対容赦はしねえ」

 AIの奴隷に成り下がったAIゴロたちをカーディフの拳が肉塊に変えていく。彼は最も努力の重要性を知っているからこそ、それを無視した奴らが醜悪に見えたのだ。
 「AIスレイヤー」それが彼の新たな呼び名だった。AIを使う者、作る者……関わる者全てを薙ぎ払う影。それは救世主か、それとも――。 
カーディフの作者がAIの話題に乗って的外れな知識でいっちょ噛みした結果肯定派からも否定派からもボロカスに言われた数日後にAIスレイヤー編が始まった

「カーディフの台詞「便利な道具に頼って努力を忘れた人間は堕落する」って以前カーディフが断罪した老害キャラの主張と同じですよね?何が違うんですか?」ってコメントが来て即ブロされる

 

 

 

BingのAIにアンチされました!!!読者の皆さん対処に協力お願いします!!!!

画像

 

 

sssssss — 2023/02/07 4:51
カーディフがパーティ追放されるSS
・追放の原因はカーディフのパーティ外の周囲への無礼やナチュラル犯罪行為。
・パーティリーダーや他のメンバーが代わりに責任背負って各所に謝罪して示談にして貰って回ってた。
・パーティリーダーはカーディフをちゃんと教育できなかった事を後悔してるし彼があんな悪い性格になった原因を推測して憐れんでいる。
・カーディフは自分が活躍できなかったから追放されたと思ってる(実際「実力を隠さないと大変な事に巻き込まれるからな」と、目立った活躍はしていない)
・カーディフをパーティから追放した後、実はパーティ全体の実力がカーディフの力で大幅にバフ(能力上昇)されてた事。そのバフと共に痛覚遮断も行われていて、実はバフによる治癒能力向上が無いと私生活すら危ういほどにパーティメンバーは身体が傷ついていた事が分かる。(カーディフは「彼らのプライドを傷つけちゃ悪いからな」と、敢えてそれを言わなかった)
・カーディフはニヤニヤ笑いながら「じゃあバフはもういいですね」とバフを解除し、その瞬間パーティメンバーは全身から血を吹き出し崩れ落ちる。

ここまで構想は考えた
粗とかツッコミどころとか大量に出るだろうし下手すりゃ「パーティメンバーの方が悪いやつじゃん」ってなる可能性あって本気で形にするのは難しい
じゃあ勇者パーティかね
陽キャはかませの勇者パーティ率いてカーディフに断罪されるイメージ
書籍化って事は本気で人気出るって事だしそんな事はあってはならない
(匿名) — 2023/02/07 4:57
カーディフは優しいから土下座して謝ればパーティーに再加入できるよ
(尚、強制出戻りメンバーは屈辱的な模様)
sssssss — 2023/02/07 4:58
こんな内容で人気が出るわけがない カーディフは見た人を苛立たせるだけの存在だ
(匿名) — 2023/02/07 4:58
アニメ化したら伊藤誠にワンちゃん勝てるで!!
sssssss — 2023/02/07 4:59
パーティメンバーの中で可愛い女の子だけ他のメンバーを見捨てて再加入するって展開考えちゃった自分が嫌になった
(匿名) — 2023/02/07 5:02
複数人帰ってきて嫌嫌媚びる中
カーディフは知っていて競い合わせてニチャついてるんだよね
ただ嫌々やってることには気が付かなくて心底惚れたって思ってるんだよ
sssssss — 2023/02/07 5:03
「カーディフの所に戻ってきた子は心が綺麗」とかいうのより「カーディフがニチャニチャゲス笑いしてる」って方が幾らか不快感が無いのはなぜだろう?
いや五十歩百歩か……?
(匿名) — 2023/02/07 5:04
我々の中でカーディフはそういったネタに堕ちてしまったからね仕方ないね
誰かが人柱展開で押し付け合いするパターンも胸熱
sssssss — 2023/02/07 5:06
後者はエロコンテンツにちょっとありそうな感じあるからそれが好きな人には需要ありそうだ
(匿名) — 2023/02/07 5:07
最初は心の清い女の子が私が犠牲になるよって進んでタンクになるんだけど
そのうち段々とどうして私だけって気持ちに変わっていくんだよね
そのうちカーディフを利用して他の子に差し向けるんだ
sssssss — 2023/02/07 5:11
カーディフに縋るしかない女の子たちを助けようとする陽キャ勇者のサトウ(仲良くなった子をカーディフに寝取られた上謎のマウント説教を受けて惨めな姿にされて捨てられる)
(匿名) — 2023/02/07 5:12
カーディフは女の子の忠誠心(笑)を試すために切り捨てさせるんだよね
sssssss — 2023/02/07 5:14
カーディフに身も心もズタボロにされて闇に落ちた結果「ほら見ろ、それがお前の本性なんだよ」って言われるサトウ
(匿名) — 2023/02/07 5:15
カーディフに「闇に手を出した結果何を手に入れたんだ?その無様な姿か?いや元々か」って煽られるんだよね
カーディフの力は【漆†黒】の力だからセーフ()
作者曰く「文章の深読みもできないの?」って煽りも入るよ
西成の朝は早い
sssssss — 2023/02/07 5:20
メモとして書いておいておくだけのつもりだったけど予想外に食いつかれてしまったのびっくりした
(匿名) — 2023/02/07 5:20
怪文書には不思議な魅力があるからね仕方ないね
sssssss — 2023/02/07 5:24
それだと最初は架空の二次創作オリ主のつもりだったけどなろう主に寄って行ったな……そっちのが今じゃ強いってのもあるけど
(匿名) — 2023/02/07 5:25
最強オリ主がどうしてこうなった…

名前 カーディフ・R・悠久
年齢 17歳
性別 男
髪 美しく輝く銀色のウルフカットの髪
右瞳 普段は見せない黄金の瞳
左瞳 眼帯で隠されている(ギアス、直死の魔眼、写輪眼を得たため)
魔導師ランク SSSSS(聖王の鎧発動時EX+++)
使用武装 戦闘デバイス「ラグナロク&アポカリプス」LBX「モナーク」モビルスーツ「カーディフガンダム」 専用IS「リベリオン」 エヴァ「虚号機」
転生特典(ギフト) 真実を見通す真眼(トゥルー・アイ) 全属性魔法適性(オール・オブ・ザ・ワールド) 異能奪取(スキルキャプチャー) 迂闊なる手(プレミアム・プレイミス)
属性 混沌・善
所属 国連軍魔法部隊副司令長官兼同遣魔界軍団軍団長兼鎮守府提督(階級は大将)及び麻帆良学園中等部
イメージCV 未定

本作の主人公。
転生先であった幻想郷で幼い頃時空管理局と「メアリー・スー(三流作者の自己投影)主人公」らに両親を殺され、復讐を胸に誓い、彼らに捕まりそうだったフェイトを助け共に暮らしている。
現代知識を活かして農業を活性化して領地を豊かにした。商才もあり現在は世界の九割を牛耳る兵器会社の社長。
めんどくさがりだがクールで熱い面もある。仲間を傷つける者はけして許さない。
トラウマから他人が全て敵に見えており、敵には一切の容赦の無い冷酷さを見せる。
神様のミスで一度死亡し、様々な能力を得て比類なき力を誇る。
大切なものを守る為なら手段も択ばず、殺人や拷問にも全く抵抗は無い。
それどころか時折、敵への拷問を楽しむ残虐な一面は「普段優しい人ほど怒らせると怖い」を体現している。
少女や幼女には優しいが、女性たちの気持ちと照れ隠しの暴力には鈍感。
「世界に憎まれた」被害者たる存在であったため地獄のような災難に襲われ続けてきたが、各世界で出会った少女たちが荒んだカーディフの心の傷を癒し、カーディフも彼女らを「妻」として受け入れた。
彼自身や、彼を救った妻である少女たちを疎んだ複数の世界を容赦なく壊滅させている。彼の深く純粋な愛が見て取れるようだ。

真眼は全ての善悪を見抜き、全属性魔法を規格外の出力で放つ才覚がある。更に相手の「スキル」を奪う力を有する。
弱冠12歳にしてスクウェアメイジとなり、四大精霊と契約を結び、オリジナル改良魔法を使う。
さらに魔物の術も操る事ができ、重力、幻、消滅、雷などを始めとしたシン級の呪文を操れる。
元一般人だが御神流と神鳴流の師範代であり、メイジ50人程度なら魔法なしで殲滅できる。
実は大魔王バーンの遺伝子を引いており、魔族化すると世界を滅ぼすほどの魔力を発揮すると言われている。
また幻想殺しを好きなタイミングで発動でき、更に境界を操る程度の力を使ってあらゆる世界を渡り歩ける。
ありとあらゆる英雄や反英雄(仮面ライダーなど異界のもの含む)をサーヴァントとして従えている。
さらにエミヤシロウの力も受け継ぎ、更に重力を操る異能を持っている。
「個性」は万物の原子の操作であり、また「ヒトヒトの実 モデル唯一神(Y・H・V・H) 」を口にして即座にその能力を覚醒させた。
全ての呼吸と血鬼術を操り、また両面宿儺の指を全て取り込んでいる。
そしてIQ400の天才でアンサー・トーカーを所持しておりモーメントとSAOの開発者でもある。
ホロライブ、にじさんじの女性ライバーたちの心の支えとなり、裏では天才的ハッカー能力を駆使してアンチの個人情報暴露などを行った。
後方で命令しか出来ない無能な提督・先生に代わり艦娘やキヴォトスの生徒たちを先陣で救い、彼女らを勝利に導いた。
モビルスーツ戦闘においては旧式のザク1機でネオジオンとロンド・ベル隊を丸ごと全滅に追い込んだ実力者でもあったりする。
最も多くのウマ娘たちを栄光へと昇らせたのもカーディフであった。

その結果、周りの評価は高いが自分ではあくまで弱いと思っている、謙虚すぎる……。

類稀なる精力とテクニックを持っており、各世界で出会い彼と結ばれた妻(各作品世界のヒロインの少女たち)たち全員を一度に相手にしても枯れず、全員を満足させる事が出来る。
だがそれが災いしてか、毎晩のように妻全員から求められてしまい「やれやれ」といった感じで受け入れている。(プレイ内容は主にロリ系妻によるドMご奉仕から、母性溢れるお姉さん系妻によるカーディフよしよし授乳赤ちゃんプレイまで幅広い)

そんなカーディフを危険視する時空管理局とそこに所属する「メアリー・スー主人公」たち。
そして彼らの走狗に成り下がってカーディフに攻撃を仕掛けてくるいじめっ子や優等生の元クラスメイトたち。そして過去の地球で自分を虐待していた毒親たちと甘やかされて育った弟……。
多くの敵と困難にあふれた運命の中で、彼は何を見、何を思い、何を成すのか?


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前世編
 カーディフの前世――現代の地球で██████(作者の本名と同じなので伏せる)という名前で某公立高校で学生生活を送っていた。

 学生生活は不真面目そのものだったが、彼には様々な才覚があったので何の問題もなかった。しかし一方で彼のクラスの連中はバカばかりだったのだ。クラスカースト上位の優等生陽キャ連中は、最初彼を遊びに誘ってきた。
 孤高を愛する彼を表に連れ出すなど、あからさまにいじめである。まともに喋る事も出来ずアウェイな時間を過ごす羽目になった██████は次の日、ささやかな仕返しに連中の靴をゴミ箱に捨ててやった。
 すると教師共が連中の味方をした。ああ、やはりこいつらは教師のお気に入りなのだ、自分のような弱者を虐げる醜い権力者でしか無いのだと彼は失望を重ねた。

 彼と趣味が合った所謂オタク仲間がいたが、そいつらは██████を常に遠ざけた。そいつらが好きな作品の話をしている中に、その作品のアンチスレの話をしに入ると黙って去って行った。折角話を合わせてやったのに、██████の献身は無駄になった。連中は所詮恩知らずの負け組弱男チー牛陰キャでしかないのだ。

 女子は██████と極力話さないように見えて、実は皆██████を慕っていた。遠くから彼を見てひそひそと話す内容は、██████への憧れに満ちている。██████にだけは、それが分かった。彼は凛とした佇まいで校内をぐるりと一周する。彼女らの声なき声に応える為に。

 一方で、家族は彼をいつも否定――否、虐待した。常にやれ学内の態度がどうだの、成績がどうだの、進路がどうだのと文句を付けてくる。
 無論、彼の成績に関しては本気を出していないに過ぎない。本当に価値のあるもの以外に本気を出さずとも良いのだ。
 彼には弟がおり、成績も██████より上の、所謂陽キャの一員だった。██████と自分を比較して██████を𠮟りつける毒親どもとグルになって██████のプライドを折ろうと要らぬ気遣いをしてくる。皆、つまらない人間たちだ。

 だからこそ、誰も██████が自分より下だと思い込み歪んだ視点で彼をあざ笑う。本当は次元そのものが違うという事にも気づかずに。

 彼は日本という閉塞的なムラ社会に生まれた為、不自由を強いられてきた。強者・陽キャを贔屓し、いじめからは一切守ってくれない大人たち、表面的な成績で物事を決めつける学内。環境さえ違えば彼は頭角を現していただろう。そもそも日本という上っ面だけの国、杓子定規でしか人の価値を判断出来ない無能ジャップ共の自称先進国で抑圧されてきた弱者の代表、それが彼なのだ。

 そんな鬱憤を晴らしてくれる██████の居場所は美少女ソシャゲ、女性VTuber、追放系作品の世界。そして世相にズバリと斬り込みスキャンダルを暴いて、政治家、陰謀論者、ポリコレ、環境保護、動物愛護、転売屋、撮り鉄、フェミ、自然派、ヴィーガン、難民、AI絵師、バチャ豚、炎上した漫画やアニメ、芸能人、陽キャ……など多岐に渡る悪を断罪する、暴露系/論破系/私人逮捕系YouTuberたちだった。
 彼らを応援する心は、やれ助け合いだの愛だのとのたまう偽善者とは違う、彼の真実の善の心を示していた。

 彼は美少女ソシャゲに学生として許す限りの課金を行う事で常人などよりしっかり経済を回した。アルバイト先でも先輩にネチネチとした説教、道徳的マウントを受け辞めざるを得なかったので、参考書代と偽って毒親から毟り取った金を使っていた。
 更にソシャゲ運営、女性VTuber、追放系作者、断罪系YouTuberには毎日何通ものコメント投稿・スパチャによる応援、更に熱意と時に怒りの籠もった指示指導といった推し活を惜しまない、日本が世界に誇るべきオタクとしての姿勢を見せ続けた。


 そもそも日本は素晴らしいサブカルチャーの国であり、他国に比べどの分野においてもサービスが充実している。多くの技術者を輩出し、隣国と違って世界中で好かれている国だ。海外の羨むそんな場所で生きてその文化を享受してきた██████もまた世界に誇れる素晴らしい「世界のニッポン人」である。彼は愛国心の無い一般人連中なんかと違ってそれを心から理解していた。

 そんな中で彼はカーディフとして異世界への転生を果たす事となる。幾多もの世界を巡る彼の目には、何が映るのだろうか――。
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オリジナル異世界編
 カーディフは冒険者パーティから追放された。彼らに貢献してきたのはカーディフだというのに。
 チートスキルを用いて店売りの商品をコピーし安値で売り捌く、ギルド長や貴族にも一切物怖じなくため口でフレンドリーに接して対等の立場で物事を要求する、時に諍いになれば相手を半殺しにして鎮圧する。槍とハンマーと鎌と剣と銃を兼ね備えたオリジナル武器を考案し作って配るなど、様々な事をしてきた。だがその結果がこれだ、カーディフは呆れ果てた。

 彼らを想って密かにパーティメンバーに掛けていた「バフ」を解除すると彼らは全身から血を流し崩れ落ちた。密かにカーディフが常時パーティメンバーに掛けていた強力過ぎるバフ状態を前提として活動し、肉体の許容量を超える傷を付けられ続けた身体は、気づかぬ内にカーディフのバフ無しではまともに動かなくなっていたというのに。

 だが、それが原因となってか、カーディフは指名手配された。あらかたパーティメンバーの逆恨みだろう。
 その後、常にカーディフに優しく対応してくれていた商店の娘――カーディフが商品を複製して安価で大量にばら撒いた事が原因で店が潰れたと言い張っている――に裏切られ、騙され、嵌められ、カーディフは地下の大空洞の最深部に落とされた。
 そもそもカーディフは店の商品の複製品を安売りする事で需要をも増やしたのだ。そして店側もカーディフと競合しない新たなサービス展開くらいすれば良いだろう、そんな店側の落ち度を無視した行為だった。
 そして何よりカーディフが怒りを覚えたのは、毎晩彼女を守るべく後ろをつけ回した自分を不審者呼ばわりした事だった。彼のどれほどの献身も、心無い人間には通じないのだ。

 しかしその大空洞の中で、人類に虐げられ封印された魔族の少女と出会う。彼女だけはカーディフを全肯定し、あなたは人類に復讐すべきだと言った。彼女だけがカーディフの味方だ。カーディフはニヤリと笑い彼女の想いに応える事を約束した。

 そんな中この世界でカーディフが再会したのは、かつて前世で彼をいじめていた相手「サトウ」
 奴はカーディフの前世██████を遊びに誘い、友人面をしながら自覚なく彼を苛立たせた。授業態度を何度も叱りつけた事もある。
 その度に取り巻き共は「サトウ君にも悪いしもう少しちゃんとしたら?」などと要らぬ事をほざいてくる。怒りに任せた██████がサトウの財布を盗んで便器に流してやったのも仕方ない事だろう。

 兎も角サトウはその世界に「勇者」として飛ばされてきていた。仲間を連れて魔族を虐げる暴力装置だ。しかもその癖して長年人類との争いが絶えなかった魔族にも正当性を認めるだの、和平・相互理解の可能性の模索などとほざいていた。甘っちょろいお花畑の考え方にカーディフは吐き気を催しついでに手傷を負わせてやったものの、絶命させるには至らなかった。愚かな人類に邪魔をされたのだ。

 その後もサトウは、無意味に虐げられ、殺し合いの見世物にされている被差別人種奴隷の解放だのと綺麗事を言っていたが、カーディフに「奴隷の働き口を奪うな」「そもそも歴史的に奴隷というのは労働契約と同じだ」と一蹴され、赤っ恥をかかされる事となる。
 あわや解放されかけていた奴隷のうち少女は全てカーディフが買い取り、奴隷狩り・奴隷売買市場はカーディフによって守られた。
 また、お気に入りの1人はカーディフが自ら従順に仕立て上げ、パートナーとした。彼の優しさがにじみ出る行為だった。

 しかしサトウの陰湿さはカーディフの思考を凌駕していた。カーディフに頭を下げ、同級生のよしみとしてどうかこれ以上の狼藉をやめてほしい、国の上層に顔を効かせて恩赦を願い出、極刑だけは避けて貰うと言ったのだ。当然あまりにも上から目線の提案に怒りが爆発した。

 そもそも頭を下げるというのは、自分の頭には下げる価値があると傲慢な思い込みをしていなければ出てこない行動だ。だからこそカーディフは苛立ちを隠せなくなった。

 周りから全肯定しかされない生き方をしてきたから、自分の間違いに気付けないのだろう。そんな同情をしてやるカーディフの懐の深さは素晴らしいとしか言い表せない。

 そんなサトウの仲間を処刑して、綺麗な勇者面が歪む光景をあざ笑うカーディフ。善人を気取った奴の本性を暴くにはこれが一番だった。更に、この世界でサトウを愛した少女をスキルで洗脳したカーディフ。彼女と愛を語り合いながら、サトウを無惨に処刑する。内に秘めた醜い殺意を剥き出しにしながら溶けていくサトウ、カーディフの戦いはこれからも続くのだった。
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現代日本――AIスレイヤー編
「お前らが貧乏で死ぬのは自業自得だ、諦めろ。だが努力せずAIなんかで人の成果を奪うようなら俺は絶対容赦はしねえ」

 AIの奴隷に成り下がったAIゴロ……「絵柄割れ厨」とも呼ばれ、人の絵を学習させたAIに生成させた絵を自分の作品として扱う、更にそれで金を稼ぐ、この世で最も愚劣な生物たち。
 それらをカーディフの拳が肉塊に変えていく。彼は最も努力の重要性を知っているからこそ、それを無視した奴らが醜悪に見えたのだ。彼は世に蔓延るチート主人公なんかとは違うのだ。

 「便利な道具が存在すると、人は努力という物を忘れて堕落する」それを、カーディフだけは理解できていた。これまで文明は発展してきたが、人はどうだろう。それにかまけて落ちぶれていくだけだ。文明に頼らず、己一人一人の力で立ってきた先人たちに申し訳が立たなくないか?と憤るカーディフ。

 「AIスレイヤー」それが彼の新たな呼び名だった。AIを使う者、作る者……関わる者全てを薙ぎ払う影。それは救世主か、それとも――。

 カーディフはゲーム社長に銃を向ける。海外に誇るべき先進的サブカルチャー国家である日本――カーディフの生まれ育った国――のクリエイターがAIゴロに落ちぶれた事が何よりも許せなかったのだ。
 しかもこいつはガンダムブランドを地に落とし、推しのぺこらを自己満の駄作のPRに利用した男でもある。
 それ以外にも駄作を次々生み出し炎上、ヒット作のシリーズも浅いテーマと偏った思想の産物……殺さない理由が無かった。 

 そして突如として行われる、カーディフを巻き込んだAI推進派による地下鉄爆破テロ。カーディフはAIに関わった実行犯の臓物を引きずり出して抹殺すると、テロに巻き込まれた修学旅行中の女子校の一団を救出する。AI推進派による攻撃で多くの死傷者が出た事件だったが、カーディフが守った少女たちに一切の怪我は無かった。

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ヒロアカ編
「所詮はガキのお遊びだな、作画ガチャだけで覇権アニメ面しやがって」
 カーディフが出久の首を絞めながら死柄木を踏み付ける。力を手に入れるまで碌に努力もしなかった癖に人を助けるだのと騒ぐ偽善者と、自分だけが不幸だと喚き散らして社会を壊そうとする無能な弱者男性だ。
 確固たる信念を持ち、自らの妻たちを守る為手を汚す事も厭わないカーディフの足元にも及ばない。お茶子とトガヒミコがカーディフを選んだのも当然といえるだろう。

 カーディフの個性「原子操作」は敵の肉体の破壊、物質の生成だけでなく、核融合や反物質生成も可能な他。己の全身のDNA、個性因子を改変する事で無限に個性を発現させられる。しかしその力を扱うのに凄まじい努力が必要だった。彼はこの世界のどのヒーロー、ヴィランよりも努力を行った。
 カーディフは所詮最初から恵まれていたヒーロー連中、個性を譲り受けたチート野郎の出久なんかとは一線を画す存在なのだ。

 カーディフが歪んだヒーロー社会の原因であるオールマイトへの断罪、公開処刑で精神をズタズタにしてやると爆豪はヴィランとなりカーディフに殺された。元々ヒーローの器ではなかったのだ。ヴィランを輩出した責任で学園も潰れる事になった。いじめっ子の爆豪を置咎めなく入学させた雄英と教師陣もカーディフは徹底的に破壊し尽くした。

 精神性がヒーローではない連中がヒーローを名乗る事、それに頼っている民衆、全てがカーディフを苛立たせた。だが彼はステインなんかと違って積極的に手を出さず目の前に出てきた目障りな奴を潰すにとどめたのだ。なんという高潔な精神だろうか。しかしそれでも世界の悪意はカーディフを飲み込もうとした。

 彼を指名手配したヒーロー連中、彼の力を狙うヴィラン連中……全てを拷問の末殺害しながら「やれやれまた巻き込まれたか」と言いながら自分を慕う少女たちを守るために戦うカーディフ、彼に安寧は訪れるのだろうか……。
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ペルソナ5編
「人間の価値を決める権利が自分にあると思ってる時点で傲慢なんだよ」カーディフは自身の最強のペルソナ「Y・H・V・H」を出現させ、ニヤリと嘲笑う。

 ジョーカー一味は、ある意味では鴨志田より邪悪だ。己の正義になんの疑問もない、その癖して人を殺す覚悟すら無く改心という名の洗脳を行うと来た。カーディフも悪党の断罪を行っているがそれはあくまで気に入らない奴を消しているだけで、それを正しい行いだとは思っていないのでジョーカーとは違う。

「やれやれ、ジョーカーに怪盗団……要は自分の正義感が正しいと思ってるだけの厄介な正義マンって訳だ。本当に気色が悪い」

 また、この世界がジョーカーにとって都合が良すぎるのも歪な点だ。彼らのエゴの都合の良いように世界が動いている。「メアリー・スー」――それがカーディフがジョーカーに対して出した結論だ。鴨志田らもジョーカーの踏み台となるべく悪人の役を押し付けられ、酷い目に遭う事でプレイヤーを喜ばせる悲しい存在と言った所だろう。

 この作品は正義について語っているらしいが、あまりにもお粗末だ。断罪される為に用意されたサンドバッグ、そいつをスカっとぶちのめす主人公様、そしてその主人公様は中途半端な優しさで「改心」を許してやる……いやいや、何が改心だ。都合よく人の心を弄んで、人を「殺していない」ジョーカー様の手は綺麗なまま。ふざけている。

「第一、何が改心だ。悪人の更生?そんな物にどれほどの価値があるんだよ」

 世の中には改心・更生した悪人を褒める偽善者もいるが……所詮、一度悪事に手を染めた連中は社会の害そのものだ。

「あんな奴ら、改心したからと言って何だってんだ。一生強制労働でもさせるのか?悪人なんて更生せずとも、いっそ死んじまった方が良かったって『こち亀』の両さんも言ってたぜ?」

 カーディフはニヤリと嗤い、「更生」に拘る独善家のジョーカーを見下す。

 カーディフ自身、鴨志田や同類の悪人連中も死んで良い、幾ら殺しても構わない「こいつは死んでいい奴だから」と思っているし、それを誰かが強制的に心を弄って改心させた所で特にこだわりは無い。

 だが、少なくとも偽善者のジョーカーにはそれをやる資格はない。殺す覚悟もなく、その割に他人を自分の都合のいい存在に作り変えるのに何の抵抗も無い。自分の手を汚す覚悟もない時点で完全に悪人連中以下だ。

 なら、殺しても構わない命だ。――唯一、高巻杏だけはカーディフの言う事を受け入れた。
 彼女はカーディフに出会ったことで初めて「覚悟」が生まれ、ジョーカーを追い詰めるのに一役買ってくれたのだ。
 お陰で、目の前には傷だらけのジョーカーが倒れ伏せている。

 カーディフは高巻を抱き寄せると、ジョーカーの顔に風穴を空けた。

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ガンダム編
「ガキが、イキりやがって」カーディフはキラ・ヤマトの手を踏み付ける。

 丁度数刻前、カーディフはスレッタとミオリネの百合の間に挟まったグエル、エラン、シャディクら醜い男共を拷問の末皆殺しにした。

 百合とは尊いものであり、女の子同士のやり取り全てから生まれる物である。それに近付くへテロ野郎共(弱者男性の自己投影先)は害虫でしかない。会話でもして可能性を作った時点でアウト。死して然るべき存在なのだとカーディフは知っている。それがカーディフと欲にまみれた他の男共との決定的な差である。

 ――ただその結果、カーディフがスレッタとミオリネに取り合いされる事となったのは別の話だが――という事があった所だというのに、今度はコズミックイラの世界でキラ一行がコンパスなる組織を立ち上げ、世界を管理・支配しようとしているらしい。

 テロリストの癖に自ら支配者となって当然の如く振る舞う酷い傲慢さ、そしてそれが可能なほどの圧倒的能力――メアリー・スーの力――いつもながらの上級国民様にカーディフは舌打ちをすると、次の瞬間にはフリーダムを撃墜した。
 あの手の軟派な機体……派手な羽で飾り立てた、皆の憧れるイケメン王子様の愛馬でしか無い物。ロボットのロマンの欠片も無い虚飾の塊にカーディフが負けるはずがない。ロボを語るならナイツマのエル君を見習え。

 他人を世界の歪みとして扱い排除したがる刹那やソレスタルビーイング、駄作の癖に一丁前に分かり合えるなどのたまって他人の復讐にケチを付けて止めようとしてくるキオらアスノ家も大概だったが、キラは格が違う、最悪の人種だ。サトウと同じ匂いを感じる。じっくり甚振って潰さなければ……とカーディフは口元を歪ませた。

 カーディフはキラと違って他人の命などどうでも良ければ人殺しに何の躊躇もない。戦っている相手と分かり合う可能性も、その必要性すら一切感じていない。躊躇した者から死ぬのが戦場なのだ、だからそのような綺麗事は通じないのが当然だとカーディフは知っている。その点でカーディフは鉄華団に共感し、上級国民を断罪する弱者として同じスタンスを共有した。

 だがこれはカーディフが戦場での死ごときに怯えている臆病者という事ではない。彼は返り血を浴びながらスレッタやミオリネ、妻たちとのデートのプランを立てる事など造作も無いのだ。

「見せてやるよ、人の可能性の力を」

 カーディフは自らのガンダム「カーディフガンダム・ラグナロク」の力を解放する。全身のサイコフレームが鮮血のような輝きを放ち、背中からナノマシンの光の翼が広がると、その光は周囲の兵器を全て暴走させ、大規模な破壊を始める。

「そもそも平和への道ってのは、敵対する全ての人間を殺す事だ。それ以外には無い。だから平和主義ってのはつまり、自分の為にどんな相手でも殺せる奴の事を言うんだ。対話ってのも見かけこそ綺麗だが、自分の言う通りに他人を動かして言う事を聞かせる事でしかない。逆らった奴を平和の敵として墓の下に押し込めて、分かり合いたかったとのたまう。そういうもんだ」

 カーディフガンダム・ラグナロクの1万kmのビームサーベル――その出力はコロニーレーザー300発分を誇る――がコロニーと地球を一刀両断する。皮肉にも平和の敵である平和主義者の最期である。


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オリジナル異世界編(VSサトウ)

「カーディフ、いや……██████。もうやめて欲しい、罪を償ってくれ」

 俺の目の前にいるのはサトウ、俺を前世の高校でいじめていたクラスメイトだ。尤も本人にはその自覚が無い、最悪の人種といっていいだろう。
 いじめの内容としては、孤独を愛する俺にわざわざ話しかけてくる、あまつさえ最近のファッションだとかドラマだとかそん俺とは縁の無い話題を振ってくる、等だった。俺がそんな事に興味無いって、口に出さなきゃ分からないのか?

「あーあ、また来たんだ。ご主人様を愚弄する粗大ゴミくん、気持ち悪っ!」

 そう言ってにししと笑う獣人奴隷ちゃん。笑うたびに耳がぴこぴこと動くのは見ていてとても可愛らしい。魔法で従属させる前の荒々しさが嘘のようだ。

「これは君の為でもあるんだ、どうか分かってくれないか?僕の名前で恩赦を願い出て極刑だけは避けて貰う。これは約束だ、信じてくれ」

 それに比べて目の前の偽善者は見ていて反吐が出そうだ。スポーツ万能、成績も上の下を維持していたクラスのリーダー様。クラス全員仲良くやろうだのとのたまって、何度も俺に声を掛けてきた現実の見えていないガキ。奴は陽キャゴミ連中の他に、俺をハブったクソ陰キャオタク層――連中が好きなある作品の話をしてる間にその作品のアンチスレの話題を出して割って入ったら途端にムッとして話を切り上げやがった――とも仲がいいようで心底腹が立つ。

 居眠りして怒られれば「気にするな」と笑い飛ばし「貸してやる」だのと言って綺麗に書かれた授業ノートを見せつけてくる。かと思えば知らないクラスメイトと一緒にカラオケに誘ってきたりと余計なお世話ばかりだった。思えば俺は相当な被害者だったんだな。

「……ようやく分かったよ。お前さ、自分が絶対正義だと思ってるだろ?」

 俺は奴を嘲笑って返す。

「まあ無理もねえよな、あんだけシンパを囲ってチヤホヤされて、さぞかし気持ち良かっただろう」

 周りから全肯定しかされないから、自分の過ちに気づけない。哀れなもんだと思った自分にちょっと感心した。
 俺も成長したもんだ。こんなクズでも許してやれている。この世界で味わった追放、敵との戦い、ヒロインズとの出会い……これらが、ただのお人好しだった俺を成長させてくれたんだ。

 それに比べてなんだこいつは。「勇者」とかいう肩書きを得て、ますます増長している。

「何を言ってるんだ……?ただ、友達がこれ以上誰かを傷つけるのは我慢できなくて」

「は?誰が友達っつった?お前は外野から……高みから俺を見下ろしてきたカスだろ」

 思わずドン引きした。こいつ俺の事を友達だとか思ってたらしい、下駄箱に大量の画鋲を突っ込んでやったのに、財布を盗んでトイレに流してやったのに、俺の仕業だと気づかなかったのか?頭お花畑すぎるだろ。

「カーディフ、こいつに話は通用しないよ。君を助ける自分に酔ってるんだろうさ、君を真に信じてあげられる仲間は我々しかいないのに。こいつはさっさと殺してしまおう」

 俺を救ってくれた魔族の少女が魔杖で攻撃態勢に入る。人類への復讐を誓う彼女は何故か俺の言う事全てを肯定して世界への憎悪を共有してくれる。きっと俺の事を誰よりも理解してくれているんだろう。

「……僕は、確かに君には自己満足で過干渉してしまったかもしれない。無神経だったのかもしれない、僕は君に理想を押し付けたんだろう。だからこそ本当にすまないと思っているし、今でも君を救いたい。でもそんな僕の甘さが原因で、他の大勢を傷つける結果になってしまった」

 魔杖を向けられたサトウも聖剣を抜き放つ。聖なる光とやらでピカピカ光って眩しいったらありゃしない。清らかさってやつが取り柄な迷惑者のサトウにはピッタリの剣だ。

「本当は、君には討伐命令が出ているんだ。君は多くの罪なき人の命を奪った。もっと多くの人を洗脳して意思を捻じ曲げた。なるべく穏便に済ませたかったが……」

 やっぱりだ。どれだけ綺麗事を宣っても、俺を救いたいだのと言っても、無抵抗主義を貫かず対話を放棄、結局は暴力に頼る。それがこいつの汚らしい本性だ。

 その汚らわしい勇者様を、社会は褒め称える。社会正義様がそいつの味方になって俺みたいな弱者、社会の被害者を黙らせる訳だ。それを誰も不思議に思わない、これがいわゆる「主人公補正」「メアリー・スー」ってやつか、三流作家のよくやる奴、リアルにもあったんだな。

 そんな上辺だけの暴走した正義の主人公様、ヒーロー連中より、寧ろ悪役の方がマシだし人間らしくてカッコイイ、とは常々思っていた事だ。前世で暴露系や炎上系、彼らによる私刑にハマっていたのもそこから来ている。
 社会の華やかな表舞台で活躍する勝ち組様のスキャンダルを暴いて裁きを下す、笑いものにして俺たちに笑顔をくれる憧れの人たちだ。正義の味方様と違って暴走もしない。

「言いたいことはそれだけか?じゃあさ、逆に俺がお前の事を殺しても良いよな?」

 俺も彼らのように、正義のヒーロー様を断罪しよう。さあお仕置きタイムだ。

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「よろしく、██████。僕の事は気軽にサトウって呼んでくれ」
「あっ、え……あ、うん。はい……」

 ――何しに来たんだ、優等生が俺への憐れみか?
 俺にはそいつの”上から目線”が透けて見えていた。

「お前さ、このアニメ好きって言ってたよな。そう聞いて俺も見てみたけど結構――」
「あ……うん、そ、そうなんだ……そうだね」

 ――そうやって俺に歩み寄ってきたつもりか?
 原作も読まずに、軽い気持ちで語り始めたサトウを、俺は内心激しく軽蔑していた。

 そんなサトウばかりがクラスで評価され、俺は居場所はその陰になった。それに業を煮やした俺はある日の休み時間、大声で感情を爆発させ、サトウの是非を問うた。
 ……その結果、クラスの連中は俺を嫌悪し、腫れ物に触るような扱いをし始めた。遅かった。クラスの連中は既にサトウのシンパだったのだろう。

 クラスの誰かが俺の噂を広めたのか、学校中で俺は陰口を叩かれるようになった。奇異の目で見て来るやつもいた。
 そんな中サトウは余計にわざとらしく俺と会話をするようになり、自分が何か悪い事をしたのかと謝ろうとしてきた事もあったが、それは俺をより苛立たせるだけだった。

 それが”善意”と”正義”の暴走の果てなのか、それとも俺への嫌がらせ行為なのか……どちらにしろ同じ事だ。いじめ現場で本当に大切なのは「被害者感情」なのだから。どちらにしろ、俺の精神的苦痛は変わりはしないのだから。

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「――いいザマだな、勇者サトウくん♪」

 俺は地に伏したサトウの手のひらを踏み付ける。奴の骨が砕け、悲鳴が上がる。笑みが止まらない。奴のご立派な鎧は大きくひしゃげ、聖剣は無惨にも真っ二つに折れている。もうこいつに抵抗する力は無いだろう。

「これで満足か……満足したら、他の人をこれ以上傷つけるのは、どうか……もうやめてくれ、頼む」

 気づけば、その言葉を理解する前に俺は奴の顔を踏み付けていた。
 この状況で他人の心配をする神経も異常だと思ったが、それ以前に俺をこんな風にしたのが自分だという自覚すら無かったとは。自分が加害者である意識も無いのだろう。

「こいつ、キモいです!不潔!」
「偽善者もここまで来ると、もはや病気だな。英雄症候群とでも言うべきか」

 奴隷獣人と魔族の少女が左右から腕を絡めてくる。両側から押し付けられる双丘が柔らかくて気持ちいい。

「サトウ。お前さ、正義のヒーローにでもなったつもりか?」
「違う、だけど俺は……」

 何が違うんだ、勇者だのと祀り上げられておきながら。散々シンパを囲っておきながら。

「『ヒーロー』ってのはさ、正義の御旗のもとに暴力を振るう存在なんだぜ?」

 地球で子供たちがよく真似してる特撮ヒーロー。ああいう物も結局やってる事はそれなのだ。正義を免罪符として、集団で悪い奴を断罪してスカっとする、どう足掻いてもそれがお話の主軸でしかない。
 サトウもそのヒーロー――勇者という立場を貰って、舞い上がってしまったのだ。

「正義の暴走、ってやつだよ」

 こういう例は幾らでも覚えがある。マイノリティの権利を守れだの、貧しい地域に募金をだの、己の正しさに酔って「勧善懲悪」の為に行動しているのだろう。そうして自己正当化していれば、自分の気に入らない相手を悪に仕立て上げられるのだから。

「自分の行動がどれほど醜いか、客観視できないんだ。それが正義の味方ってやつなんだよ」
「へえー、流石カーディフ様!いろんなことを知ってるんですね!」
「君はこいつと違って、正しく善悪を見定める目があるんだな」

 当然だろう、サトウの奴はそのままこの世界に転移してきた17歳だが、俺は14年前のこの世界に転生して14年……合計31歳の人生を過ごしてきたのだ。年季が違う。
 俺はつま先でサトウの首を小突くと、サトウの口から空気と一緒に血が噴き出した。

「僕は、それでも……勇者として、君を止めないと」

 咳き込みながらまだ口を開くサトウ。ダラダラと出て来る血が俺の靴にかかって気持ち悪い。

「知ってるか?英雄ってのはさ」

 俺はサトウの髪を右手で乱暴に掴むと、そのまま持ち上げる。

「なろうとした瞬間に失格なんだよ」

 そして、そのまま左の拳を奴の腹にぶち込む。

内臓が潰れ、骨が砕けたようだ。
 力なく項垂れるサトウ。気を失ったのか?つまらない。

「やれやれ……もうお終いか?」

 いや、もう少しお灸をすえてやれないだろうか、と考えた所でふと一つの考えが閃いた。
 ――もう少し、楽しめそうだ。

 俺の顔がニヤリと愉悦に歪む。パーティはまだまだ終わらない。

「おはよう、気分はどうだ?」

 冷水を頭から被ったサトウが目覚める。勇者らしく何やら神の加護を受けているようで、その身に受けた傷が早くも塞がり始めている。恐らく大ダメージを受けたであろう骨や内蔵も同様だろう。

「██████……君は……まだこんな事を続けるのか」

 意識を取り戻すや否や俺を睨み付けるサトウ、その目には悔しさが見て取れる。

「サトウ君にクイズです、これなーんだ!」

 サトウの眼前に折れた短剣と杖を落とす。あの後、サトウを助けに援軍を引き連れて襲い掛かって来た勇者パーティの持ち物……いや、遺品だ。

「……!!お前……何を!」

「あーあ、勇者様がしていい表情じゃねえなあ。聖人面が崩れてるぞ?俺の為だの助けたいだの言ってた奴の顔か?これが」

 サトウが表情を歪ませる。こいつは何をされても平気な正義マンだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。こいつもただの人間だ、少し安心。
 俺の為にとか、友達とか、所詮そんな事は最初から一ミリも思っていなかったわけだ。俺を助けたいとか本当に思うなら、こんな表情を向ける訳がない。

「化けの皮が剝がれちまったなあ、勇者くん。最初から自己満足のために近づいて、いざ自分がこうなったら『善意を無碍にされた!』とか言って憎しみを向けるわけだ」
「カーディフの言う通りだ。君の論はいつでも筋が通っていて素晴らしい」
「すごい!カーディフ様、物知りですね!うう……私もカーディフ様みたくなりたいです」

 魔族と獣人の娘の頭を撫でながら笑う俺に、怒り狂ったサトウが掴み掛ろうとする。だがその瞬間、サトウの身体に黒い魔力の奔流がほとばしった。

「おっと、下手な事しない方がいいぜ?お前の身体に幾つか呪いを打ち込んでおいたからな」

「貴様……何のために、何故こんな事を!」

 は?いやいや、お前が突っかかってきたからだろ……。流石にこいつは頭おかしい、おかしくない?まさか自分が被害者だとでも思ってるのか?

「何人も好き勝手に殺しやがって!遺族の気持ちとか考えた事あるのか!」

 いやーきついっす。

「いやだからお前も、お前の仲間も、全員俺に突っかかってきたんだって、商品のコピーがどうこう貨幣製造どうこう、傷害事件がどうこう……。だから殺してやっただけだし」

 次の瞬間、俺はサトウの首を右手で締めにかかっていた。

「そもそもさ、俺はお前みたいに殺す覚悟も無いようなガキじゃないの。必要だったらサクっと殺れるし、逆にお前は誰も殺した事ないの?戦場に出ておきながらさあ」

「僕は……お前とは違う、出来る限り多くの人を助ける……勇者としての役目……」

 うわでた、偽善者の常套句。つまり奴は所詮俺と同じ人殺しの癖して、誤魔化してる訳だ。自分は悪くない、と。
 それでもって敵を殺せる時に殺さず、その甘さで余計に被害を増やしてるんだろう。その辺りは、最初から全力で俺を殺しに来なかった結果俺に大勢の仲間を殺された事からもよく分かる。

「気持ち悪」

 サトウに蹴りを入れる。血を吐いて倒れるサトウ、だがその眼は未だに死んではいない。流石に面倒だな。これが主人公補正の俺TUEEEEか。

「じゃあカーディフ様!あれやりましょうよあれ!」

 獣人の娘がニコニコ笑って提案する。もっと焦らしてからのメインディッシュにしようと思っていたがまあ悪くない。

「それもそうか……それじゃ、入ってきていいよー」

 刹那、部屋に一人の大人しそうな少女が入ってくる。と同時にサトウが目を見開いた。

「な、なんで君がここに……!」

「もう、カーディフ様。待ってたんですよ♪呼んでくれるの」

 少女が俺に抱き着く。彼女が顔を近づけると、その香りが鼻腔をくすぐる。

「紹介するよ、俺の新しい仲間だ。お前の元カノなんだっけ?」
「カーディフ様のいじわる。こんな小物、もうどうだっていいですよ」

 サトウの顔が青ざめる。赤くなったり青くなったり七面鳥かお前は。

「ま、そういう事だからよろしく。君、魅力ないってさ」
「私、カーディフ様の魅力に心奪われたんです。だからごめんなさいね」
「よしよし、こんな奴相手にもちゃんと謝って偉いぞー、サトウとは大違いだ」

 わなわなと肩を震わせるサトウ、もはや聖人、優等生、勇者……そう謡われた少年の顔はそこにはなかった。

「もう!カーディフ様、昨日も私を抱いてくれなかったのにまた新しい娘とイチャイチャして!」
「カーディフ様はモテるからな、ちゃんと皆平等に抱いて貰うには仕方のない事だ」

 獣人の少女を魔族の少女が窘める。君たちはまた今度なと目で合図を送ってやった。

「殺し……殺してやる██████……いや、カーディフ!もうお前だけは……!」

 サトウの目から大粒の涙が零れる。


「うーわ、人を救いたいって建前すらもう無いじゃん」
「本当、こんな男を一時は好きになってしまった私が恥ずかしいです」
「良いんだよ、ちゃんと俺の色に染め直してやるからさ」

 俺が彼女とイチャつくたびに、サトウの身体に呪いの激痛が走る。思い付きで付けてみた仕掛けだが、こうしてみるとちょっと楽しい。

「そうだ、君がこいつと縁を切るならさ……君自身の手でこいつを処分するかい?」
「え?はい……いいですけど」

 俺は彼女に手斧を渡す。魔法がかかっており、不慣れな者でも武器として使える代物だ。

「じゃあ……さよなら、サトウくん。私、カーディフ様と幸せになります♪」

 次の瞬間、肉を切り裂く音とともに、サトウの左肩から腹部右にかけてが大きく裂け、大量の血が噴き出した。

 おっと、この娘判断が早い。即座にサトウを斬り付けたぞ。
 これは……魅了≪チャーム≫をちょっと掛けすぎたかもしれない。若干ヤンデレっぽさも入っちゃったか?

 床の上に倒れるサトウ。大きな傷口からとめどなく血が流れる。だが、まだ死んではいないようで痙攣を起こしている。

「へえ……凄いな。これが加護の力か、まだ息がある」
「うええ……気持ち悪いです」

 少女が俺に抱き着く。これは流石にショッキングな光景だったか。

「どうする、カーディフ。何なら私がこいつにトドメを……」

 魔族の少女が杖を構えるが、俺はそれを制止する。こいつの末路はもっと良い物がある。

「いや、これを使ってやろう。≪汚泥スライム≫だ」

 俺が取り出した瓶の中からヘドロ状の粘体が出てくる。俺が戯れに作った特別なスライムだ。そいつは少しずつ膨れ上がり、サトウの身体を飲み込んでいく。

「こいつは酷い臭いで相手を拷問しながら、強い酸性で獲物を溶かしていくのさ。まあ聖なる加護を受けた勇者がこの程度で死ねるかは分からないが……」

 否が応でも口角が上がる。

「うぇ……こっちまでひどい臭いが」

 少女たちが嫌な顔をする、まあ実際遠くからでもキツい臭いだ。

「まあこいつは俺が命令すれば邪魔にならない所でサトウを溶かし続ける。これ以上問題はないだろう」

 俺が指示すると、スライムはサトウを捕らえたまま、俺から離れるように消えていく。こいつの通り道になった町や村はちょっと大変だろうが、まあ連中も俺を追放した国の奴らだ。問題ないだろう。

「さてと、これでサトウの件は終わりか。みんなお疲れさん」

 俺の敵であるサトウとの戦いに皆を巻き込んでしまった。ねぎらいに、今夜は皆を一緒に抱いてやるか。

「しかし……優しいな、カーディフ。君は元の世界であれだけサトウに苦しめられてきたのに、お前はその私怨ではなく、自身の信念による”裁き”で奴を処刑した」

 魔族の少女が俺に微笑みかける。優しい……か、お前が言うならそうなんだろう。

「……まあな、俺自身の事だから別に憎んだりしてた訳じゃないさ。だが、お前らが何らかの危害を受けた時は必ず一族郎党完膚なきまでに復讐してやる。世界全部だって、俺が滅ぼしてやるさ」

 俺たちの戦いはまだまだ続く。だが彼女らがいれば俺はサトウのようにはならないだろう。そう思うと、彼女らがより愛しく思えて自然と笑みが零れるのだった。
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オリジナル異世界編(過去編)

「カーディフ。君には、当パーティから脱退して頂く」

 夜の酒場の席で、僕は小太りの中年女――パーティリーダーに宣告を受ける。内心相当に怒っているのだろう。彼女のただでさえ多い小じわが余計に増えそうで心配だ……と思ったが、そんな余計な事を考えている場合じゃない。

「僕が……パーティを追放?」

 僕らは冒険者パーティだ。僕は魔獣と戦うために彼女のパーティに入って一緒に行動していた。パーティは僕を除けば3人。このおばさ……リーダー、手で髪を弄りすぎてくしゃくしゃな男。そしてもう一人は女性。
 普段はローブの中に隠されているがくびれる所とふくらむ所がはっきりした魅惑的な体つきに、透きとおるような顔立ちの女性だった。

 ついでに付け加えておくと、僕は地球からの「転生者」だ。地球で学生として生きてきた僕はトラックに跳ね飛ばされて死んだらしい。だがそれは神のミスだったようで、神は僕に土下座した後、色々な「スキル」と現代の記憶を持って別の世界に生まれ変わらせてくれた。
 これらについては秘密にしていたものの、お陰で僕の実力は実はパーティでもそこそこだと思っていた。だから余計にこの追放は不可解に感じられた。

「てめェの行動、俺たちじゃもう擁護できねえってんだよ」

 男の方が顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。お前は正直言ってうるさい、とは何度か話してきたがその悪癖は治ってないらしい。
 けどこんなに怒ってるなら仕方がない。ちゃんと謝って許してもらうしかないようだ。

「そうでしたか、僕……あなたたちの役に立てなかったんですね。ごめんなさい、僕が悪かったんだ……」

 考えてみればずっと僕は貴重な時間を使ってこの人たちのために頑張ってきたんだ。それをこんなよくわからない状況で謝って許してもらうしか無いなんて、僕は無力だ。あまりの情けなさに、涙が出てきた。

「なんだその顔は。てめぇ自分を悲劇の主人公だとでも思って……」

 男が遂にキレて手を出してくる。胸倉を掴まれた。こんな所で暴力沙汰?流石にまずいでしょ。

「やめなよ」

 そんな中、救いの手が差し伸べられた。鍛え上げられてはいるものの柔らかな女性の手が、男の手を止める。ローブが捲れて彼女の香りがふわりと僕の鼻腔をくすぐる。
 よかった、この人だけは僕を理解してくれる。彼女だけは僕の味方なんだ。僕は嬉しかった。僕も彼女の為なら全てを捨てられるだろうと思った。

「こいつ、相手にするだけ無駄だよ」

 だが、そんな考えは一瞬のうちに打ち砕かれた。彼女は、僕を見ていなかったんだ。あれだけ一緒に冒険した僕を”こいつ”と呼んだ。僕は失望した。
 あれこれ思わせぶりな態度を取って僕みたいな子供を勘違いさせ、徹底的に使い潰す事が目的だったに違いない。僕はここまで尽くしてきたのに。

「二人とも、そこまで」

 おばさんが静止に入る。

「カーディフ、君も……けどさ……」

 おばさんが何か色々言ってる。けど失望を味わわされた僕にはもう何も聞こえない。多分、僕を精一杯罵倒しているんだろう。前世で僕をいじめてた陽キャグループの優等生サトウみたく、正論を振りかざして、僕という弱者を追い詰めて潰す。
 それが連中のやり口だ。そして世間は、そんな連中をありがたがって褒めたたえる。その醜悪さに気づくこともなく。
 思えば僕はパーティの皆にずっと尽くしてきた。パーティに絡んでくる奴は半殺しにしてあげたし、金が必要となったら僕の固有魔法がバレるリスクを背負ってでも沢山稼いでもあげた。
 それが簡単に無下にされる。それがこの世の中だ。けどそんなのは間違ってると思う。

 僕は、もっと世界から自由でいい。

 皆の為の献身よりも、自分の事を。

 それに気づいたとき、僕は決めるより先に口が動いていた。

「そうですか、じゃあ……追放は甘んじて受け入れます。皆さんの為に沢山働いたのに残念です、それじゃ!」

 僕はこのパーティから去ろう。彼女らにとってもそれがいいんだ。彼女らの意思に沿ったものでもあるんだし。しかし、その前に。

「ちなみに、皆さん気づいてました? 僕は皆さんに≪バフ≫を掛けてたんです」

 忘れ物を回収しないと。

「本当なら酷い傷でもちゃんと動けるし、数日で治るようになる人体強化魔法です」

 3人はきょとんとした目をする。けどもう遅い。

「これのお陰で皆さんでも上位のクエストもクリアできてるんですよ。皆さんのプライドを傷つけない為に黙ってたんですが……」

 こんな事になるとは僕も思ってなかったし。

「今後、皆さんがちゃんと私生活を送れたらいいですね!……≪バフ解除≫」

 3人の全身の傷が開く。血を流して倒れる3人。内心ちょっと心配ではあるんだけど、これは皆の自己責任なわけだから、いいよね。

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オリジナル異世界編(過去編・三人称視点)

「カーディフ。君には、当パーティから脱退して頂く」

 喧噪鳴りやまぬ夜の酒場の片隅のテーブル席で、肉つきの良い中年女性が少年に対して言い放つ。女性の表情には、冷徹さの中に申し訳なさが同居しているようだった。
 そこにはその女性の他に、青年の男女2人が冷ややかな目で少年を見ていた。
 「パーティ」とは、ひとつの目的のために集まった集団――特にこの場においては、金銭で依頼を受け、魔物をはじめとする様々な脅威に対処する民間の雇われ戦士団の最小単位「冒険者≪クエスター≫パーティ」を指す。
 少年は、この3人のパーティにメンバーとして加入していたのだ。それは少年きっての願いであり、3人もそれを快く了承し、最初の頃は信頼をおいていた時もあった。

 少年の名は、カーディフ・R・悠久。銀髪に金と黒のオッドアイを持つ、中性的な整った幼さの残る顔の少年であった。
 彼は幼少期から魔力の扱いに長け、地元では神童としてもてはやされてきた。それだけではなく、どの国でも誰も見たことも無いような絡繰りを発明しては、それを広く世間へと知らしめてきた。
 そんなカーディフにはひとつの秘密があった、それは「前世」の記憶があるという事。人は通常、生を終えればその魂は地神の裁きを受け、海神の浄化を受けた後、天神の楽園へと辿り着くと信じられている。
 だが、彼は違った。彼の魂は異界から神の啓示を受けてもたらされた物だという。前世で「日本」という地で全く別の人間として過ごしていた彼は、運悪く事故で命を失った末に神の導きを受けてこの地に生まれ落ちたというのだ。

「僕が……パーティを追放?」

「てめェの行動、俺たちじゃもう擁護できねえってんだよ」

 驚いて中年女性に聞き返すカーディフに、苛立った面持ちの青年男性が鬱憤の溜まった時の手癖で自身の髪を弄びながら威圧的な声色で言う。

「そうでしたか、僕……あなたたちの役に立てなかったんですね。ごめんなさい、僕が悪かったんだ……」

 カーディフはうつむきがちに申し訳なさそうな顔をする。その目からは涙が零れ落ちそうだった。だが、そんな姿を見て男性はより苛立ちを見せ、手を伸ばしてカーディフの胸倉を掴む。

「なんだその顔は。てめぇ自分を悲劇の主人公だとでも思って……」

「やめなよ。こいつ、相手にするだけ無駄だよ」

 その時、男性の手を抑えたのは隣の青年女性だった。その目は冷ややかで、カーディフを見下げ果てたような……それを超えて呆れ果てたような表情だ。

「二人とも、そこまで」

 リーダーが静止に入ると、男女はそれぞれ彼女に従い押し黙る。

「カーディフ、君も根は悪い奴じゃないんだろう。けどさ、君の世間知らずさ……それに、人から間違いを指摘されたり、怒られた時に逆上する癖。それで散々人様に迷惑を掛けたし、その度に注意したよね? 沢山庇ってあげたけど、私も君の母親じゃないからさ、もうこれ以上君の面倒は……」

 リーダーは苦々しくカーディフに語り掛ける。彼女に関しては、2人とは違って少なからずカーディフに情を抱いていた様子だ。次第に言葉に熱が入っていく。しかし。

(ああ、やっぱりだ。皆、僕を必要としない。僕はどこでも邪魔者扱いされるんだ)

 カーディフは、何一つ聞いてはいなかった。心を閉ざし、己の世界に没頭する。己の都合のいい設定を作って己の世界に逃げる、彼の前世からの癖だった。
 彼が前世の10歳頃から17歳まで、現世に生まれてから14歳に至るまで。計31歳のうち21年間、これを突き通して生きてきたのだ。

「君には大人になってほしい、ちゃんと苦労を背負って、世間を知ってほしいんだ。それが本当の意味で出来たなら、また……」

(でも僕を排斥する世界って、間違ってるんじゃないか? 僕は正しい事しかしてないし、僕は皆の為にこの力を振るってきたのに。その結果がこれなら、もっと好き勝手していいのかも……)

 カーディフは一人納得した後、思い立った様子で笑顔で口を開く。

「そうですか、じゃあ……追放は甘んじて受け入れます。皆さんの為に沢山働いたのに残念です、それじゃ!」

 リーダーの話を遮って席を立つカーディフ。突如話を遮られた彼女は、呆然とした様子を見せる。そして。

「ちなみに、皆さん気づいてました? 僕は皆さんに≪バフ≫を掛けてたんです。本当なら酷い傷でもちゃんと動けるし、数日で治るようになる人体強化魔法です。これのお陰で皆さんでも上位のクエストもクリアできてるんですよ。皆さんのプライドを傷つけない為に黙ってたんですが……」

 彼はにこやかに笑って言う。

「今後、皆さんがちゃんと私生活を送れたらいいですね!……≪バフ解除≫」

 刹那、パーティの3人の全身の傷が開き、彼女らは膝から崩れ落ちた。 

 ――彼らは、市街に迷い込んできた魔獣の討伐、または魔獣の生息地域≪ダンジョン≫調査やその処理依頼をメインに行う中堅パーティであった。

 実際、街の郊外を中心として魔獣が多く出現し、年間多くの被害者が出ている。彼女らの仕事も決して暇にはならない。
 その理由は、街に張り巡らされた魔力インフラ、そして人の使う魔道具である。人々は生活の為に、魔力の流れ「龍脈」の簡易版を人工的に作り出して街を発展させ、人体の持つ少量の魔力だけで大きな魔法を使用する為の道具を開発し、広く普及させた。
 だがその結果、人の住む地では行き過ぎた魔力が行使され、土壌や水脈は魔力汚染され始めた。そして本来ならそこには根付かない筈の魔力で生きる外来動植物「魔獣」が蔓延り始めたのだ。これは「魔界化」と呼ばれ、社会の課題となっている環境破壊問題である。

 そんな魔界化によって現れた有害な種による被害を未然に防ぐため、彼女らパーティは戦っていた。それはリーダーの強い意志によるものでもあった。
 リーダーの婚約者は、迷い込んできた魔獣によって殺されている。彼女もまた暴れる魔獣相手に重傷を負い、回復はしたものの完全な身体を取り戻す事は出来ず、結果的に子を産めない体となった。
 突発的な事故、魔獣への対処の手を回すには足りなさすぎる予算、よくある話だった。

 だが、だからこそ彼女は立ち上がった。自身と同じ苦しみを味わう人を少しでも減らしたい。その想いがあって魔獣から人々を守るべく危険なクエストも率先して受けてきたのだ。そして自身を慕い、己の志に同調する若者も仲間として加わった。彼女らの歩みは、順調だった。……カーディフが現れるまでは。

 真摯な顔でパーティ入りを頼み込んできた、才能に恵まれた神童カーディフは一見すれば類稀なる人材だった。
 しかしカーディフとにかく問題を起こした。目上のギルド長を呼び捨てにし、自然に小ばかにした態度を取った。その癖自分が非礼を受けるとその相手を半殺しにした。店の商品を買わず固有魔法とやらで大量に「コピー」して安値で売りさばいて店を潰した。何かの弾みで機嫌が悪くなると不貞腐れて単独行動でダンジョンを荒らし回り、周囲のパーティを巻き込んで迷惑を掛けた。彼は、周囲の者にとって間違いなく疫病神だった。

 彼の所業に対する責任はパーティリーダーが背負った。謝罪も他のメンバーが行った。パーティ内で何度もカーディフを教育しようと努力した。だがカーディフは軒並みあらゆる事を自分の都合の良いように解釈し、結果的に何の反省もしなかった。

 カーディフの引き起こす事態の収集だけで既にパーティはいっぱいいっぱいだった。カーディフを最後まで気に掛けて心血を注いでいたリーダーだったが、パーティとしての許容限界、メンバーの悲痛な訴えを前に遂にカーディフの追放を決意したのだ。

 そして、その結果がこれであった。パーティの3人は、全身から大量の血を流して床に倒れ伏す。カーディフの「バフ」の強化によって維持されていた肉体が元に戻る事で、蓄積されていたダメージに耐えきれなくなったのだ。

 それを見た周囲の冒険者の一人が、甲高い叫び声を上げる。喧噪の中でもそれは多くの冒険者に聞こえ、その瞬間騒ぎは大きくなる。

「どうした!何があったんだよ!喧嘩か!?」
「血、血が!人が倒れたんだ今!」
「治癒≪ヒーリング≫系が使える奴は早く来てくれ!ポーションもあるだけ欲しい!!」

 騒ぎが広がるとともにその場に居合わせた冒険者が集まってくる。

「待て、こいつらって、例のカーディフのパーティじゃ……」
「カーディフ……そうだ、怖くて近づけなかったが奴がここから歩いていくのは見たぞ!」
「そういや、彼女らはカーディフの追放を考えてるって噂で……間違いない、トラブったんだ!あいつ、遂に仲間までズタズタに引き裂きやがったんだ!」

 ざわざわと憶測が広がる。既に青ざめた顔の3人に意識はない、突然の全身の激痛で気を失っていたのだ。周囲に集まった治癒士≪ヒーラー≫たちが倒れた3人に対しそれぞれに2人、または3人ずつ付いて呪文を唱えると魔力壁で傷を塞いで血液の流出を防ぎ、魔力を肉体に送り込んで自然治癒力を活性化する。血管の穴を塞ぎ筋繊維を繋ぎ直す本格的な治療には大掛かりな術式が必要だが、それを行うだけの準備は医術(癒術)を司っている聖堂にしか無い。

「彼女らには恩もある、何としても保たせて聖堂まで連れていくんだ!他の連中はカーディフを探せ!騎士団にも今起こった事を伝えて奴を指名手配にしろ!」

 別の冒険者パーティのリーダーである髭面の男が叫ぶ。その瞬間カーディフに恨み辛みを抱いていたその場の全員が沸き立った。

 

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「どうして……どうして僕が!」

 パーティから追放されたカーディフ。メンバーに黙って掛けていたバフを解除した瞬間、パーティメンバーは血溜まりの中に倒れてしまった。
 知らず知らずの内にカーディフのバフに頼り切りだった愚か者たちの悲惨な末路であったが、人々はそうは思わなかった。

 カーディフの仕業だ、何の証拠も無しにそう決めつけたのだった。
 そして、人々はカーディフに剣を向け始める。彼がどれほどの貢献をして来たかも知らずに。

「『壊し屋』カーディフだ!戦えない市民は巻き添え食わないように隠れてろ!」
「何をするか分からん、まずは街の外に追い出すんだ!」

 剣や杖を持って襲い来る集団を後ろに、カーディフは自身の身体にバフを掛け、猛スピードで曲がりくねった裏路地に逃げ込む。すると彼の前に、見知った顔の少女が現れた。

「こっちよ、カーディフ君」

 彼女はカーディフの手を取ると、建物の中に案内する。すると通り過ぎていく追手の足音と怒号が木霊した。当面の危機は脱したと言って良いだろう。

「君は……薬屋の娘さんじゃないか、僕の事を庇ってくれるんだね!」

 カーディフを助けたのは、カーディフが恋焦がれていた薬屋の娘だった。パーティで活動していた頃、薬を買いに来た時に彼女はカーディフに声を掛けてくれたのだ。

「どのような薬をお求めですか?」と。

 彼女は見ず知らずのカーディフに声を掛けてきた。カーディフに気があるのは明確だろう。カーディフもまた恋に落ちるのは当然だった。
 それからというものカーディフは毎日その薬屋に通い続け毎日彼女に語り掛けた。彼女のスケジュールを把握し、休みの日に外出する彼女を尾行し人知れず護衛するのもカーディフの日常だった。

 そんな彼女が、カーディフを信じないわけが無かったのだ。

 彼女だけが助けてくれる。僕の味方は彼女だけだとカーディフは感涙にむせぶ。

「騎士団の皆さん、こちらです。指名手配のカーディフを連れてきました」

「は?」

 しかし、カーディフの目の前には鎧で武装した屈強な集団が立っていた。

「……あなたのせいで、あなたが薬屋の商品を妙な魔法で複製してタダ同然で売り捌いたせいで店は潰れ、私を一人で育ててくれた父は路頭に迷った。盗賊に落ちぶれ、その果てにあなたの新しいデバフ魔法の実験台とやらにされて骨も残らなかった」

「そんな……僕は裏切られたんだ……」

 当然、カーディフのオリジナル複製魔法は法で禁止されている訳でもない。彼女の言い分はあまりにも自分勝手な言い掛かりであった。店側がサービスを改善して差別化すればどうにかなる問題だっただろう。

 女というのはいつもこうだ。カーディフの元の世界でもそうであった。人の信頼を裏切るのが得意な生き物なのだ。男性を蔑んでいる癖に子宮で物を考え、チー牛チー牛と喚き立て自由を規制しようとする。男が産めるのは糞だけとのたまう生き物なのだ。その癖気持ち悪いドラマを流し、腐ったテレビ局と共謀して誇らしい文化を持つ日本という国家を腐敗した近隣諸国の傀儡へと変えた連中。

 更に元世界のカーディフを始めとしたクリエイターである男たちが生成AIやそれを使う腐った性根を持つ連中への制裁・攻撃による抵抗運動に明け暮れている間も、彼女らは知らんぷりを続けた。日本人を差別しながらこれを史実だと銘打った差別者による差別者の為のポリコレゲームにも彼女らは知らんぷりを続けた。彼女らは日本も、日本が誇る我々クリエーターを守る気もないのだ。


「それとあんた、私に散々付き纏ってきてさ。何か機嫌を損ねたらずっと何されるか分からない寒気の中で怯え続けた私の苦痛、分かる?」

 カーディフの中に渦巻いていた絶望、困惑……そして、怒り。

 要は彼女はカーディフの好意を利用していたのだ。全て裏切る前提で、彼を弄んでいたのだった。

「く、くふふ……はっはっは……」

 カーディフの口から壊れた笑いが漏れる。全てを失った彼に残っていたのは。

《スキルを限定解除します!》

「僕のバフ・デバフ魔法って、元々持ってた訳じゃないんだ。僕が僕を改造して後から与えた力。僕の本当の魔法……いや、『ハズレスキル』それは……」

《ワールドエディット》 
世界がぐにゃりと歪む。この力は最初、自身の身体のみを自由に作り変える能力。この世界の人間が持つ通常の魔法の類ではない、転生時に得た『異能』だが要はハズレスキルだった。
 しかし、カーディフはその能力で自身の身体の一部である能力そのものを作り変え、全世界を自らの思い通りに改変する力へと変貌させたのだ。

 少女も、騎士団も、周囲を探していた追手の冒険者たちも、街ごと空間の歪みの中に消えていく。

「こいつっ、やめさせろ!いや市民の避難を……」

「い、嫌ぁ!助け……父……さん……!」



「も う 遅 い」



 世界に、人に尽くしてきた末路がこれだ。全てを理不尽に奪われたカーディフ。

 虚無だけが広がる黒い空間にポツンと立つ彼の周りに、膨大な魔力の渦が広がる。

 その奔流が彼を包むと、漆黒の鎧へと姿を変えて彼の身体を覆ってゆく。

「僕だって自由になって良いんじゃないかな?そうだ、全人類に『ざまぁ』しながら『スローライフ』だ。それが良い」

 カーディフの口元がいびつに歪み、邪悪な笑みを浮かべる。

 全てに裏切られた哀しき少年はもういない。

 今まさに、魔王が誕生したのだ。

 

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デュエルマスターズ/デュエプレ編

 

「チェンジバスターからのブリキンアースでシンガイギンガ3枚回収、ダイリュウガンでトドメ。3ターンで片付いたな」
 カーディフは涼しい顔でモルトを圧倒する。吹き飛ばされたモルトは壁に叩きつけられ、そのまま壁にめり込んでしまった。
「凄い!流石カーディフ!私の自慢の彼氏ね♡」
「ずるいのだわ!カーディフったらアイラばっかり構って!」
「私もぎゅってして欲しい……」
 カーディフに抱き着くアイラ、カノン、ヴィヴィ。アイラの豊満でえっろいむっちんぶりんな胸に潰されやれやれとカーディフは呟く。

「クソッ!舐めやがって!てめえみたいに何の努力もしてない運だけ野郎が!第一なんだ、30連続で3ターンキル、ノートリ貫通ばかりって不正したんじゃないか!?」
 モルトが吠える。これが彼の本性なのだ。気に入らない事があれば全て運のせい。実力で全てを手に入れハーレムを築いたカーディフの足元にも及ばない。
 これまで倒してきた勝舞に勝太、白凰にルシファー、ディーに鬼丸……彼らと同じ。皆、何も背負わずカーディフへの嫉妬だけで暴力を振るってきたチンピラばかりだ。

「あなたは負けたんですから、潔く認めるべきですよ。ほら『対戦ありがとうございました』は?」

 カーディフの口元がニヤリと歪む。

「てめえ!」

 モルトの手にはガイハート、立派な凶器だ。デュエルという場で勝てなかった彼は遂に凶刃を向けてきたのだ。
 そして彼はクリーチャー、今は力を自ら封じた状態の人間であるカーディフを一撃で屠る力を持つ。
 これを「弱いものいじめ」と言わずして何と言うだろうか?
 ただし誤解なきように言っておくと、カーディフは本来ならパワーにして20億は下らない存在である為、弱者などでは決してないのだ。ただモルトとのデュエルに際して、モルトの誠意を信じて余計な力は持ち込まないようにしただけなのだ。

「叩っ切ってやる!」

 モルトの凶刃がカーディフの首に迫ろうとしたその時、ガイハートは真っ二つに叩き折られた。

「カーディフへの攻撃は許しません」

 ウェディングの制裁の光がモルトを撃ち抜き、溢れる鮮血が床を汚す。

「カーディフはカノンの恋人、なら私もカーディフの恋人なのです」
「はっはっはー!今日は気が合いますね!私もカーディフの恋人として役に立ちに来ましたよ!」

 ウェディングに続き一拍遅れて颯爽とドヤ顔で現れるQED。

 こうして皆に囲まれ愛されるカーディフと、孤立して無様に倒れ伏すモルト。美しい対比がそこに成立していた。