「弟くん、本当に大丈夫?あいつら弟くんにずいぶん酷いことを……」
「ジョイナス……彼らは優しい心を取り戻せると思いますか?」
それぞれの仲間たちから疑問の声が上がるが、九郎太とジョイナスはしっかりと肯定で返す。
「あの人は、きっと優しい心を持ってる」
それは「自分の味方だから優しい」という、動物的単純思考。だが元より彼らにはそれが全てで、それで良かった。立ち上がり目の前の巨大な影に向けて戦闘態勢を取る九郎太のメガフェンサーに、その肩の上に乗るジョイナス。
「あれは……比野なのか?光に取り込まれてクロムスリになった人情太郎のように、セオベイドに……」
「いや、あれが俺の言っていた暗黒神――ゼードイル!かつて俺たちの世界ミズガルズで見た時は、人型をして理性を保っていた……恐らく人の欲やセオベイドたちの力を取り込み過ぎて、暴走しているんだ。あれは……セオドイル、とでも呼ぶべきか」
咆哮と共に、セオドイルがどろりとした黒い泥をこね回すように、その身体を組み換え形成していく。手足を生やして人型を取り、その胸に付いた比野の顔が大きく歪んだ苦悶の表情を浮かべながら、口を大きく開く。そして――その口から、光の奔流を撃ち出した。
「来るよ、クゥ兄ぃ!」
「ああ!」
薙ぎ払う光を躱し、メガフェンサーが飛翔する。と同時に全員が扇状に散開し、セオドイルへの十字砲火を狙う。
「GAAAAAAAA!!」
洗脳ヒロインたちが、エルメシオンの使徒たちが、それぞれセオベイドの力を巨体に向けて放つ。爆発した着弾地点からはその巨体を構成するモンスターや取り込まれた人間たちの死体がこぼれ落ちていくが、巨体そのものを崩すには至らない。
「凄い邪心――きっと奴は、とんでもない欲で大勢を不幸にしたんだろうな」
「うん、あいつは――僕らの『好き』を踏みにじった。ジョイナスも、好きな作家が『売れないから』ってその作品を打ち切られたら、嫌でしょ?あいつはそれを『やる側』の人間なんだ。後からようやく人気になった作品を突然打ち切ったり、過去の作品に泥を塗ったり、好き放題してきた。だから――僕たちオタクが『好き』を守るために裁くべき相手だ」
ジョイナスが九郎太に対し、頷く。
「……ああ、分からない話じゃない。世の中には本当に素晴らしい物を書ける、尊敬すべき作り手たちがいるんだ。そんな人たちが作った素晴らしい物を潰す――そんな欲深き資本主義の化身に俺たちは『否(ノン)』を突きつける!」
――実のところ、この会話の中だけでも九郎太とジョイナスは互いに引っ掛かる物を持ってはいた。好きな物の為と言って人に危害を加える事を肯定した九郎太、どさくさに紛れて資本主義批判に走ったジョイナス。だがその引っ掛かりも「自分たちのエゴの肯定」より優先すべき物ではないとお互い流す事にした。
「あのデカいの、鈍いけど――ボクらが幾ら攻撃してもこたえないし、すぐに回復されるよ。どうすれば……」
「闇雲に攻撃したって意味無ぇって事らしいな。さてどうしたもんか」
セオドイルの頑丈さに打開策を求めるルーシーとディック。確かにその通り、攻撃が通じているようには見えない。
「こういう時、クゥちゃんの見てたアニメなら……ああいうのにはコアがあるはず。そこを撃ち抜けないかしら?」
「コア……そうね。セオドイルの中に渦巻くエネルギーの流れさえ掴めれば、その根源であるコアの位置を探せるはず!」
セシリアがアニメ知識から出した案に、ラーンが学術士として推論を展開する。不思議な共闘が今ここに成立していた。
「で、あたし達は何すれば良いわけ!?」
「ああ……そうね。兎に角攻撃に攻撃を重ねて短時間だけでも内部を露出させて!」
「応!」
全員が寄せて返す波の如く、セオドイルに殺到する。エネルギーを撃ち込み、斬撃を放って次々とその外皮を破壊しては泥塊を掻き出す。傷ごとに修復される速度も順番も向きも僅かに違う。コアに近い部位の方がコアから受けるエネルギー供給が激しく、末端よりも優先的に修復されているのだ。
彼らを押し潰さんと迫る腕を躱し、モンスターの頭が吐き出す炎を受け止めては返しの一撃を加える。そこから、少しずつではあるがコアの位置を割り出していく地道な作業であった。しかし、その作業にこそ光明は確かにハッキリと見出せた。
「見えた――!」
そしてコアの大体の位置が特定されると、アメシストが光をマーカーとしてその位置を指し示す。狙うべき場所、ゼードイルに取り込まれた比野社長の体がある地点――巨大な比野の顔の額の丁度奥、脳があるべき場所だ。
「あの部分を消し飛ばせば!」
だがセオドイルは、それに反応して幾多もの端末――モンフレのモンスターたちを無数の尖兵として放ってきた。その上で両腕をクロスさせ防御態勢を取るセオドイル。己の危機を悟ったのだろうか、モンスター達は最も高い火力を持つ九郎太のメガフェンサーを集中的に狙ってくる。これでは手出しが出来ない――!
「……九郎太、俺に考えがある」
ジョイナスが再びメガフェンサーの肩に降り立つ。真剣な目で、メガフェンサーの顔越しに九郎太を見つめていた。
「弟くんには……指一本触れさせない!」
「あなたに、優しささえあれば!」
乙葉とルティアがセオドイルの腕に着地すると、自身の得物をその上に突き立てながら走り抜ける。が、次の瞬間には弾き飛ばされてしまう。洗脳ヒロインたちも、エルメシオンの使徒たちも、セオドイルの出力を前に圧倒され始めた。
「GRRRRRRRRRR!!!」
そして、そのセオドイルの前には遂に纏わりついてくるモンスター達を前に膝をついてしまうメガフェンサー。ジョイナスが回復に努めるも、モンスターを跳ね除ける事はかなわないように見えた。そして――。
突如としてセオドイルはその両腕を解放し、大きく開いた比野の口を露わにした。その中には、先ほどの攻撃とは比にならないほどのエネルギーが渦巻いている。セオドイルはこの時を狙っていたのだ。
「――――!!!」
そして放たれる暴力的なエネルギー波。地を焼き天を焦がすその力は、モンスターたちを焼き払いながらメガフェンサーに到達する――はずであった。
「俺が手に入れたセオベイドの力――『大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)』」
ジョイナスが左手で掲げた掌を返すポーズを取り、そのまま掌を前に出す。と、目の前に迫る光の濁流は元から存在しなかったように消失していく。これはライトノベル「ある学園の目安箱(ガイドボックス)」――その裏主人公が持つ「無効化」の異能だ。これまでジョイナスが見せていなかった、切り札であった。
「今だ!光の先を撃て、九郎太!!欲望と資本主義に終止符を――!!」
「これが僕たちの、オタクの復讐だ――!!」
目の前には、がら空きになった弱点。隙を晒したセオドイルのコアに向かって、メガフェンサーが背部のドリルを手に構えて突撃する。――リーマーインフェルノ、そう九郎太がヒーロー面をしながら叫ぶと、巨大なドリルは肉を破り泥を掻き分け、辛うじて人の形を保っている比野に到達する。
「私は……っ、ただ、良いモノを、作りたく……て……」
「煩い!」
比野の断末魔を掻き消すように声を重ねる九郎太とジョイナス。比野の身体はミンチとなり、黒い泥に溶けて行った。すると――セオドイルの身体を構成する人体とモンスター達の身体が次々と破裂し、セオベイド由来の光の粒子とゼードイル由来の黒い霧に分かれて消えていく。
そして数度のスパークの後、セオドイルの身体は繰り返される破裂によって発生した内部圧力に耐えかね、大爆発を起こした。
「弟くん!」
「ジョイナス!」
――そして、その爆発を背に悠々と歩いてくる影。メガフェンサーであった。
そう「正義は勝利した」のだ。
強制排熱による冷却で陽炎を揺らめかせながら、メガフェンサーは帰還した。コックピットには九郎太、肩にはジョイナスを乗せて。それは、彼らにとっての悪の徹底排除――その成功体験を確かに強固な物とした。
「――終わったんだな。これで最悪の事態を迎える事だけは避けられた事になる。俺も信じてみよう……人間を」
「うん。でも僕たちの戦いは続く――、皆の『好き』を身勝手な正義で潰そうとする奴がいる限り、ね」
ジョイナスはエルメシオンの使徒たちとハイタッチし、九郎太は洗脳ヒロインたちに抱き着かれる。そうこうしている間にも瓦礫の中で命が消えて行くのだが、それはそうと戦いは終わり場は祝賀ムードに変わっていった。
ジョイナスは「相手が自分の思い通り改心し、欲望の権化を断罪してくれた」九郎太は「自分の他力本願な生き方を肯定し、オタクの敵を共に討ってくれた」事――双方とも都合の良い解釈ではあるのだが――に酔いしれ、全能感に浸りながら喧噪の中で暫しの時を過ごした。
そんな中での事であった。
「――こちら、脳特対の紅凪です。モッツアレラ小隊及びそこのセオベイド・セオベイターは全員……手を挙げ、速やかに投降願います」
次々と自衛隊員たちが現れ、彼らを翼包囲陣形で行動を封じる。その奥では救助部隊が瓦礫の撤去と人命救助を行っており……包囲部隊の方は九郎太とジョイナスたちに銃口を向けていた。
「……は?」
九郎太は茫然自失する。世界を、街を守った自分に向けられた銃口。過去に同じような事は確かにあった。最初にメガフェンサーで戦った時の事だった、だが今回は違う――九郎太は彼ら自衛隊の、紅凪の要請で出動したのだ。それなのに、ただオタクたちの復讐と私刑を肯定しただけでこの仕打ち――裏切られた、九郎太は眉間を震わせる。
ジョイナスは歯噛みする。かつて優しい心をと働きかけ、そうでない者に鉄槌を下した時。権力者たちはそれを許さずジョイナスらを追い詰めた。強欲な王子を独断で私刑した際も、義務教育を子供に強要した教育省を断罪した際も、競争主義に毒された社会はそれを許さなかった――同じ構図だ、ジョイナスは拳を握り締める。
「今すぐに破壊行為をやめ、投降してください――九郎太くんまで加担するとはね。あなたを脳特対に入れた責任は私にある、だから」
「――ッこの、上級国民!クー兄ぃは……クー兄ぃは街を、世界を守ったんだ!それなのにアンタたちは!やっぱり皆殺しにしてやる……!」
「……その銃を降ろしてください。それは人を傷付けるもの、人と人の会話に……いえ、そもそも武器は人の世に必要ないものです」
ミーニャが吠え、ルティアが強い語気で威圧する。
「待って下さい!銃を降ろして、その人たちは悪くありません!」
その時、自衛隊員たちの前に空から降りてきた一人の女性が立ち塞がった。
「あっ、あんたは……!結婚という枠組み自体の性差別性を見抜いて、そいつを改める法案を一貫して出し続けてるヤブウチ議員!ろくでもねえ政治家が多い中でしっかりしてて思いやりある発言するあなただけは応援してたぜ!大丈夫か?というかなんで此処に……」
ディックが感嘆の声を上げた。彼女は元々ジョイナスたちの世界――ミズガルズのジャッパー国議員だった筈だが、今は日本の議員バッジを付けている。
「ええ、日本もジャッパーと同じ問題を抱えた国だと感じたので、この国を変えるべく先にこの世界に潜入していました。そして日本国民になりすまして国会議員に――残念ながらこの国の政府に洗脳された国民からの支持は得られなかったので、エルメシオンの加護で投票結果に細工をし、国会議員の座を得たわけです。この国を、世界を言葉と優しさで変える為に」
「は、はあ?」
唐突なヤブウチ議員の登場と目の前で繰り広げられる会話に、紅凪はあっけらかんとしていた。
「な、何……何なんです、あなたは……」
凪が凄い形相でヤブウチ議員を見る。今の会話の内容――咀嚼するには時間が掛かるがとんでもない事を口走っていた事実だけは理解した。が、それと同時に九郎太がヤブウチ議員とそれを称賛したディックを睨み付ける。その心の奥には冷え切った感情が生まれていた。
「ああ……彼女は俺たちの世界の人間で、俺たちと志を同じくする者だ。そもそも結婚というのは――、いや競争社会そのもの、資本主義も含んでだが……『男性という性が生まれつき持つ暴力』を肯定している。それと戦うのが彼女なんだ」
ジョイナスが誇らしげに九郎太に話し始める。ジョイナスから見れば九郎太は既に自分とある程度の相互理解――「同調」してくれた人間だ。当然、自分の言う事を肯定するに決まっている。そう確信していた。
「ジョイナス……?」
「そもそも、女性には人を育み未来に繋げていく力がある。だが男性には――それが無い。戦争を起こし、全てを壊してしまう。俺の父親もそういったタイプの人間だ。家父長制と暴力の化身。お前の父もそうだったんだろう?九郎太……!」
九郎太の目が眩む。彼の味わってきた否定の言葉――それは「男らしくないから情けない」という物には留まらなかった。その一方で「男だから汚らしい」「男だから汚い欲求を持っている」という偏見と差別、それに押し潰されていた。否、もはや――そう押し潰された被害者である為、その罵倒を自ら幻覚・幻聴として聞き続けてきた。
だからこそ、ジョイナスのように「男性性を批判する」方向に思想が傾く事はなかったが、その反面「男性性を批判する人間」にも敏感になっていたのだ。だからこそ「聖母の会」の案件で女性活動家たちが踏み潰された時だって心の奥底でほくそ笑んでいた。
「……クソフェミ野郎が……女がそんなに偉いってのかよ……」
「は?」
九郎太の瞳に暗い炎が灯る。ジョイナスは戸惑い、九郎太の肩に手を振れようとする。が、その瞬間。
「弟くん!」
沸々と煮えたぎる九郎太の憎悪に反応し、その傀儡である乙葉はジョイナスに斬りかかった。
「九郎太、お前!」
ジョイナスはすんでの所で後ろに飛んで躱し、代わりにルティアが斬撃を受け止めた。
「やめなさい!何を……!」
凪が制止に入ろうとするが、次の瞬間セシリアが艦装具から砲弾を、ミーニャが自動操縦のオファニムから電磁ライフルの弾丸を放つ。爆炎が立ち上り、包囲していた自衛隊員も、人命救助をしていた自衛隊員も、凪もヤブウチ議員も血の霧と化して粉々に吹き飛んでしまった。だが、エルメシオンの使徒たちだけは素早く反応し戦闘態勢に入る。
「やっぱり、あなた方に――優しい心は無い!」
ルティアが怒りの声を上げる。一帯は再び、戦場と化したのだった――。
(守る価値の無い人たちばかりだった。僕からSEOを奪い、男らしくないと貶め、なろう小説をバカにし、男性は汚らわしいと蔑み……、期待しては裏切られ続けた。僕の事を分かってくれると思った自衛隊の人たちも、ジョイナスたちも、そんな夢さえ見せてくれなかった。僕を騙したんだ。僕はどうしてこんな国を、こんな世の中を守ろうとしていたんだろう。何が「ヒロイン達と共に平和のために戦います」だ。違う、僕は――!)
「――僕(オタク)の為の世界じゃなければ、何もかも要らない!」
九郎太の駆るメガフェンサーが、ビルの残骸を投げ付ける。その蹴りと衝撃波で瓦礫を巻き上げ、飛散した瓦礫は遠く離れた人々に降り注いだ。その姿は――まさに「ロボット怪獣メガフェンサー」九郎太が呼び出した、その原典――「ネビュラマンに描かれた、人間が科学の過信で作った負の遺産であり、基本的に否定される存在(https://ncode.syosetu.com/n9539ik/7 )」そっくりであった。たった1人のエゴイズムが、偶然にも巨大過ぎる力を得てしまった――その成れの果てを前に、力なき弱者は声を上げる事すら叶わない。
https://grok.com/imagine/post/feb2ef49-ea40-45ab-874f-40830c8047a5?source=post-page&platform=web
Movie:Grok
「……大丈夫だよ、弟くん。私たちはずっと一緒にいてあげる。地獄の底まで付いていくから……安心して」
「結局クー兄ぃの気持ち、一番尊重してあげられるのは私たちだけだったね。クー兄ぃに助けられたくせに自分勝手、クー兄ぃの事なんか何も考えてない」
「そう、ママたちだけがクゥちゃんの居場所なんですよ。嫌いなものは……ぜーんぶないないしちゃいましょうね」
3人の洗脳ヒロインたちが、メガフェンサーの操縦席に乗り込む。九郎太はただ「ありがとう」と涙を流した。
しかし――その直後、空が"割れた"。
響く雷鳴と共に、空間が裂ける。在るべき法則を捻じ曲げて、その存在は降臨したのだ。
「やはり……人の欲を止める事は出来ませんでしたか。幾ら試しても、結局人は自らを滅ぼしてしまう。科学の過信が人を傷つけ、資本主義が人の優しさを殺す――」
上位存在、創造神エルメシオン。まさに人のイメージする「神」の姿を取って現れたそれは、自らの視点で善悪を騙り、己の言説を垂れ流す。そして。
「ジョイナス、優しい心を持ち続けているあなたに――この世界の命運を任せます。ミズガルズであなたが人間の可能性を信じて行った"選別"は――決して『競争』しない少数の優しい人だけを救い、世界中の富をその正しい人たちのみに分け与えました。それがこの世界でも通用するか分かりませんが……私はあなたという人間の出す答えを信じます」
「……分かった。俺たちは――優しい、争う心の無い人間を救うため、世界から邪悪な物を、進歩も科学も資本主義も――全てを断罪する!」
エルメシオンがジョイナスたちに向かって光を放つと、ジョイナスたちが自分たちに従わないセオベイターやセオベイドたちを否応なしに脅し、時に殺して奪ってきた力が増幅される。
邪魔な相手は全て墓の下に押し込め、競争社会で培われた全ての豊かさと力を、ジョイナスの選んだ人間たちだけで分け合う――そんな理想の世界を作る為に心を合わせたジョイナスを中心に巨大な光の柱が形成され、そして――それは、メガフェンサーと同サイズの巨人の姿。セオベイター・ネビュラマンへと変貌したのだ。
illust:CopilotAI(AviUtl編集)
https://grok.com/imagine/post/29f8418f-f6ef-4b90-a775-464e39609fbc?source=post-page&platform=web
Movie:Grok
「お前が!僕を裏切るから!!」
「欲望の根源を滅ぼす!」
メガフェンサーとネビュラマンは、その拳をぶつけ合う。巨大なエネルギーが爆ぜ、爆心地には2体の巨人以外何も残らない。2体は高速飛翔し、その軌道で大空というキャンバスに曲がりくねった邪悪な蛇の怪物の如き歪な痕跡を刻み付けながら、空中で幾度も幾度もぶつかり続ける。巨体がぶつかり合う度に発生した衝撃波は、いとも簡単に街を消し飛ばしていく。
「SEOは終了しました」「俺が到着してるのに掃除終わってないとか本当お前はよなあ!!」「ブルーカラー職は街から出ていけ!」「お前らは異常者の集まりだ」「おい、ヤクチー」「何もない上に汚い、情けない。お前みたいなヤツはこの程度って事だ!」「産んでくれた親だろう?恩返ししない理由がどこにあるんだ?」――九郎太の脳裏に焼き付いた罵声の数々。老若男女問わず自分を責め立てる、自分の不幸の象徴。
九郎太は、怒り、妬み、苦しみ、憎悪し――本当は心のどこかで喜んでいた。自分が被害者であるという立場を得られた事に、その原因が自分ではない事に、喜びがあったのだ。だから無駄な努力なんかしなくても良い、自分を変えなくても良い。――末期には、自ら進んで「自分への罵倒」を見聞きしに行っていた。そうする度に感じられる――自分は優しい被害者だ!自分を肯定しない者は被害者いじめをする悪党だ!!自分こそが!正義だ!!だから只――自分に同調しない相手を否定し続ければいい!!!
九郎太のメガフェンサーが光り輝くと、急速に全身にエネルギーがチャージされていく。
ジョイナスは己の道筋を思い返す。男らしさを押し付ける父に反抗し、そうでない世界――楽園を目指し世界を見続けた。そこで出会ったのはメディウス。貧しく、いじめを受け、妬まれて何度も殺されそうになる小さな子供。そこにあったのは、人が人に暴力を振るい、性欲の捌け口にし、笑い物にし、不幸な人間を「自己責任」とうち捨てる世界。ジョイナスは絶望した、どうして人は人に優しくできないのだろう?
――だから、間違った者からは容赦なく奪った。肯定してくれる人たちも増えて、凄く正しい事をしている気分になった。俺たちに相対する者が全員、他人を不幸にする事に躊躇が無く、そして宿敵たるゼードイルのお陰で死んでいくのはとても気分が良かった。目の前の無惨な死体が、犯され心を壊された少女が、自分たちの正義を強固にしてくれて内心とても嬉しかった。そうだ。そんな事をする奴も、そんな連中の世界に甘んじて生きる奴らも切り捨てて何が悪い?そんな奴から全てを巻き上げ、俺が正しいと思った人たちに分け合う。それが正義――。
ネビュラマンが腕をクロスし、空間が震えるほどのエネルギーを蓄える。
「優しい人間を否定するお前は――優しくなんかない!!」
九郎太とジョイナスが叫び、海上でメガフェンサーとネビュラマンが、互いに向けて同時に光線を放つ。ぶつかり合う光は数秒間拮抗し、そしてそのエネルギーの衝突によって起こった津波は、大都市をも呑み込んでいく。セオベイドも、人間も、ただただ己の無力を嚙み締めながら最期の時を迎えた。
版権図鑑 番外編③
【魔物少女タワークエスト】
塔を攻略しながら少女モンスターを集めるソーシャルゲーム。ナンセンスギャグと下ネタだらけのストーリーは人を選ぶが、ゲーム性自体はライト層にも取っ付きやすい。R18版も存在する。
アレコレ言う割にこの手のソシャゲは九郎太……もといロボやはプレイしていないらしい。
【ファイナルクエスト】
日本の剣と魔法のRPG、その祖とも言われる作品シリーズ。海外ファンタジーを元に取っ付きやすい形にした剣と魔法の世界で、ベースは勇者が魔王を討伐する英雄譚であるがストーリーには様々なバリエーションが存在する。
九郎太の愛してやまないネット小説群はこれをベースにしたもので、本来なら苦難を乗り越え成長する王道の「勇者」を悪辣な特権階級的に描き、それを主人公が断罪し「ざまぁ」と嘲笑するような物が目立つ。
【ある学園の目安箱(ガイドボックス)】
中高生向け学園バトル系ライトノベル。異能を持った学生たちが青春を過ごしながら学園中に潜む陰謀と戦うストーリーで、何度もアニメ化されたシリーズ作品。異能を無効化する異能――「大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」持ちの裏主人公キャラは人気が凄まじく、その仕草を真似する中高生が後を絶たない。
【次回予告】
なんでこうなっちまったんだろうね。
銀行で正義振りかざしてたのが悪かったのかねえ。
主人公様の正しさを示す為に踏み台用の愚かな敵を出して無様な有様にする手法……主人公を肯定しない奴はこれと同じだぞってやつ。
あれをやってる作品同士、最後まで気が合う未来もあったんじゃないかと思うんだけどね……。
次回 最終回「敢えて言うけど、現実見ろよ」
このイベント、どう攻略する?
――そこは町はずれの田舎道だった。そこでフラフラとした足取りで歩いていたのは、一組の老夫婦。夫の方は息は上がり、膝は震え……遂にはその場に座り込んでしまった。
「婆さんや……儂はもう駄目じゃ。だが……お前だけでも頼む。こんな時代だが最後まで子や孫たちと生きてくれ……こんな所で人生を終えるのは儂だけで十分……」
がっくりと項垂れる夫、舗装こそされているとはいえ、老人にはきつい山道。長年の山仕事で足を悪くしていた夫は、己の限界を感じていたのだ。このままセオベイド災害で自分は死ぬ。だが愛する妻だけは、助けたい――既に独立した子供たち孫たちの所で、人生を全うしてほしいと。
「何言ってるんですかお爺さん!まったくあなたは本当に大袈裟なんですから……若い頃、あれだけお前は俺が一生守るとか威勢の良い事言っておいて……分かりました。ここで休憩にしましょうね」
「婆さん……儂という荷物をこれ以上支えんで大丈夫と言っとるんじゃ。お前を束縛する権利は儂には無い……」
「弱気になるとこうなのは若い頃から変わりませんね、まったく……。来月の、結婚50周年の記念日は特に期待してくれって言葉、忘れてませんからね。――せっかくだし、最期まで一緒に生きましょうよ」
妻の方も、一緒に座り込む。柔らかく笑いかけ、夫も少し遅れて笑い返す。2人の中に巡る、沢山の思い出。偶然出会って気が合って、一緒にいる時間が長くなっていった。意見が合わず何度も喧嘩した事だってあった、それでもそれ含めて相手を受け入れれば、それが相手の1つの魅力であると感じられるようになった。そして――気づけば家族になっていた。
それからも、長かった。お互い苦しい時に相手を責めてしまった事もある。お互いの理解が浅くて、傷つけあってしまった事も多い。でも――その度にお互い成長して進んできた。今はそれら全てを、自分たちの歴史として胸を張って肯定できる。だから。
「もう少し……最後まで頑張ってみよう」
若い頃のように、2人は手を叩き合わせる。気合を入れて困難に立ち向かう合図だ。そのまま2人は手を握り締めて立ち上がり――。
「世界がこうなったのは――全部!」
その瞬間に響く轟音。そして空中からの、九郎太とジョイナスの2人の声――。
「女が悪いんだ!!!」
「男が悪いんだ!!!」
発生した衝撃波。――老夫婦はその望み通り、最期の時まで一緒だった。
「くたばれゴミカス!!」
「大丈夫だよ弟くん。君は間違ってない――!」
メガフェンサーとネビュラマンの戦い。最初は拮抗していたものの、その巨体を操る術を熟知していたのは九郎太の方。徐々にネビュラマンは圧されていく。
このままでは勝てない。隙を伺うジョイナスだが、間髪入れずに九郎太は光の剣を振るって距離を詰めてくる。
「俺達は負けてしまうのか……?こんな所で……」
しかし、その時であった。
「ジョイナス……あなたの手助けをします。これは、人の可能性を開く手伝いです」
エルメシオンの声がジョイナスたちの脳内に響く。
「トドメだ!リーマーインフェルノォォ!!」
目の前に迫るメガフェンサーを前に、ネビュラマンが黄金に染まり始めた。そして光の粒子を全身から拡散すると、後方にメガフェンサーを吹き飛ばし、空間そのものが「変化」を始める。
ジョイナスは知る由もないが、とあるネビュラマンシリーズ作品の最終回で起こった、全人類が光を得る自身の可能性の発露であり――そして。
「これは!?」
「まさか……」
セオベイド、それはSEOより生まれた電子生命体。それが現実世界に現れた原理は解明されてはいなかった……。
だが、そこには人類の把握していない未知の物理法則が存在しているのは確かだ。
その物理法則を元に、世界そのものの法則を改変するエルメシオンの力が加わった時。
――SEOは現実の物となった。
世界を染め上げる電子空間。キャラクターだけではない。マップ地形も、オブジェクトも。全てが現実に現れたのだ。
「か……帰ってきた……僕の……ここは僕のSEOだ!皆……ただいま……!!」
そして、それはモノだけではなかった。人にも次々とその変化は現れる。――SEOは、同じ電子空間上に人と人を繋ぐツールでもあったのだ。
物理的な距離を無視して、世界に生ける人々の意思が集ってくる。この時2人の歩みは、ステータスとして拡散され全ての人間がそれを知る事が出来た。
「ジョイナス……優しい人々の意思を、力に変えて集めるのです。そして、あなたの求める世界を!」
ネビュラマンが腕を掲げると、そこに光が集まってゆく。
「――大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」
――そうだ、優しい人たちなら理解できるはずだ。俺達の守るべき世界が何なのか。
ジョイナスが掲げたそれは、かつてセオドイルに向けた虚構を否定し消し去る力。自分が生き残る資格ありと選定した優しい人々の意思を、そこに込めてゆく。
「ここは……そうだ!僕の居場所だ!僕と同じ……現実に居場所がない弱者の為の場所なんだ!!」
九郎太が「全体チャット」で呼び掛ける。あれを倒して、オタクたちの世界を作ろうと。邪魔する全てを消して、フィクションに耽溺出来る世界を作ろうと。
メガフェンサーのドリルが紫電を纏う。オタクたち、弱者たちの意思をそこに集めて力に変える。
「これで……終わりだ!!」
メガフェンサーが、ネビュラマンが、飛翔する。そして――激突。
九郎太とジョイナス。お互いに集めた力が――人々の意思が、一つに集う。
そしてその瞬間、世界は光に包まれた。
「――もう、いい加減にしてください」
人々の意思は、確かに通じた。それは、ジョイナスの「大嘘潰し(フィクションデストロイヤー)」を介し、世界を塗り替えていく。
「こんなのはもう沢山だ」
「害悪なのは両方です」
「これ以上私たちを苦しめないで」
だが、その結果は九郎太もジョイナスも全く意図しない物であった。自分と同じと判断したタイプの人間を集めた筈なのに、2人に共感し、その両方に協力しようという声は全くと言っていいほど上がらなかった。
「お前たちさえいなければ」
「私達の代表面するのはやめてくれ」
「家族を返して」
「なぜ、俺達を否定するんだ!」
「可哀想な僕を悪く言うな!」
九郎太とジョイナスはパニックに陥る、そして無情にも、大嘘潰しの光は広がって――。
「SEOも、エルメシオンも」
「九郎太も、ジョイナスも」
「私達には――要らない!!」
人々の意思がひとつとなり、光を大きく育てていく。
セオベイドやセオベイター、エルメシオンの使徒たちが起こした悲劇ごと、世界を塗り替え再構築する為に。
九郎太とジョイナスを肯定している仲間たちが消え去る。SEOもエルメシオンも、光の中で崩れ去っていく。
そして、九郎太とジョイナスの顔面が剥がれていく。そこにいたのは――。
――メガフェンサーとネビュラマンが翔けた空は、静寂に包まれていた。フィクションが現実と切り離され改変された世界は、正常さを取り戻していたのだ。
瓦礫の山だった街は喧騒を取り戻し、人々のささやかな暮らしと、彼らによって回る人間社会がそこには広がっていた。
決して良いニュースばかりではない。あぶれ者はどうしても暮らし辛い。幾ら科学が進歩して、人1人が使えるエネルギーが何百倍になろうとも、人そのものが抱く不幸せはついて回る。思想の多様化が進むにつれ、自由よりも窮屈さを感じる人間は増えていく。
……だがそんな中で、人々は歩み続けていた。
そんな世界の中に、彼らはいた。
倉庫バイトの先輩にどやされていた中年男性が、休憩時間にSNSを見る。今日も憂さ晴らしをしようと、自ら嫌いな界隈や悪いネットニュースを見て叩きに行く正義的行為に明け暮れようとした、その瞬間――自分の悪行が大勢に露見し否定されるイメージを見た。
その瞬間、男の脳裏に疑問が湧き出した。どうして俺はこんな不毛な事を?……と。
元来、自分は好きな物を好きと言いたかった筈だ。なのに、好きな物を否定される事の方が、そして否定者に正義を振りかざす事の方が好きになっていた。
……いつからだ?「好き」を攻撃の手段にし始めたのは……。男は、頭を抱えた。変わるなら……今しかない。
男は、スマホからSNSをアンインストールし、遠い空を見上げた。
また、とある初老の男は積み上げた本を片付ける事にした。それは競争社会、資本主義、科学技術を批判する沢山の本。苦境に立たされた就職難の時代に読み漁り、その時は単純化された勧善懲悪の悪の部分を自分の不幸に、そして自分の不幸の原因を現代社会に当て嵌めていた。
……だが、物事はそう単純ではないと、その社会に身を置き続ける事で分かったのだ。過去に作って記念に取っておいたゲームのデータもゴミ箱に移す。
優しい自分が報われないのはこの世界のせいだ、という思いで作ったゲームだった。だが本当に自分はその時、優しさの意味を理解できていたのだろうか……思えば恥ずかしい物を作ってしまったのかもしれない。何故かそう思ったこの日だった。
一方、江洲 英須(えす えす)は裏でヘイト系二次創作を垂れ流してる事がバレて炎上した。
彼らは歩み始めた、このどうしようもない現実を。ゆっくりと一歩一歩――。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。









