いきなり思い出したの。チャーハンのグリーンピースで喧嘩した男の話憶えてる?

あの男さ、私が会社に入った時はまだ30代前半だったと思うのだけど、すでに恰幅が良くて。
くまさんみたいな感じだったのね。

顔は野球の城島選手を丸くして崩して困り顔にさせたような感じの。ひどいかしら、ごめん。だけど多分この男は私が書いても怒らないと思うので、遠慮なく。もともと私が遠慮ないって知っていると思うので。何せグリーンピースで真剣に喧嘩したくらいなので。まあいいかと。

その男はとにかく食べるし、既に結婚してらして姉さん女房というの?年上の方と結婚してた。それで、健康に良いお弁当とか作ってくれていたと思う、最初は。
けど、その男は足りなくて。コンビニでカップ麺も食べちゃうの。飲み物はコーラみたいな。だからお腹もすごく出てた。単純に好きだから我慢しないみたいな、でかいお子ちゃまみたいな人で。彼の人生の苦労話も知ってるから、また一癖あるし、頼り甲斐もあるのだけど。しかし、食欲に負ける。それが彼の頭の良さとはギャップがあり、人間的魅力にもなるのだけど。

チョコバットって知ってる?私は食べたことなかったんだけど、彼はあれが好きだったらしいのよ。

仕事場で頭皮が痛いガンガンすると言い出したり、それって血管では?なんて周りも心配することが割とあったり、健康診断の結果が返ってくると顔真っ赤にして黙って首を振り、机の引き出しに仕舞うわけ。どうしたんですか?と聞くと、これはおかしい、持って帰ると専門知識ある奥さんに叱られるとか言って。
いや、どう見ても奥さんのお弁当以外をたくさん食べているの体から察されていると思うよ!って感じなんだけど。

それで、何故そんなに彼の体調が心配だったかというと、彼は過去に痛風の経験があったのを聞いたから。

私は若かったし無知で知らなかったのよ、痛風なんて。なんですかそれ?と聞いたもの。
そうしたら、風が吹いても我慢ならないくらい痛いのらしいね、痛風って。

まだ30代前半だよ?確かにお腹は臨月のようだったが、そんな病気があるんだ!って興味深く聞いていたら、彼が言うにはその原因はチョコバットだと。
え?何それ?と思って更に聞いていると、彼はどのチームか忘れたけど、野球が好きで、その野球の試合のバッターにあわせて自分はテレビを観ながらチョコバットを食べ続けていたらしいの。
もうこの時点でちょっとおかしい人っていうのがわかるでしょ。もう、馬鹿かと。アホすぎて。
想像してよ。1試合終わるまでに何本食べる気だよっていう。試合がない時も箱買いしたチョコバットをホームランが出るまで食べ続けていたとか。

どれだけチョコバットが好きだったんだ!というか、そりゃ、病気になるわ!と思って。

だから、自分の痛風はチョコバットが原因だと堂々と伝えてきた。誇らしげでもあった。私は笑うしかなかった。

あなたの痛風はめっちゃチョコバット愛でできてる。超幸せな痛風だ。過去であれ、それだけ愛されたらチョコバットも幸せだろう。
しかし、その後は痛風になったから、チョコバット禁止令が出て食べられなくなったと。そりゃチョコbadだよなあと。

かわいそうなんだか笑っていいんだか、あきれたいのだか、わけがわからなくなったのを憶えている。

年上だったけど、なんか憎めなかったんだよな。しょうがない人だなあと思えて、かわいいと思ってしまう。これが母性本能か?多分男性にも母性本能ってあるよね?ない?

病気になるまで食べ続けるのはどうかと思うけど、エピソードとしては最高だよね。とても敵わない、そんな面白いことあるかと。

痛風痛い、痛すぎる!、その背景の彼の野球とチョコバット、もうなんか清々しいんだか痛々しいんだかわからない謎の気持ちを、今思い出したの。

現在はおそらく運動して痩せていると思うのだけど。突然懐かしいなあと思った。

人間ってかわいいよねえ、かわいいところもあるよねえ、いくつになっても子供みたいな気持ちって大事にしたいなとつくづく思うわけ。

大人になると色々ある。大人にならないといけないこともたくさんある。だけど、自分の中にある楽しい!好き!という素直な気持ち、そういうのをなくしたらつまらない。
日々濁りやすい日常の中で、ほんの少しでもそういう気持ちに気がつけたら、それは宝物だと思う。大人だから余計に思う。憎めないかわいさって最強だよなあと、風を感じながら思った朝。