祠:星の家 6


  ~労働~


手鏡をじっとにらんだまま立っている女子学生に、
店主の誠二が口を開きます。

「お嬢さん、うちの店にはあまり安価なものは置いてないよ」

やんわりと他の店に行ってはどうかと提案をしましたが、
女子学生は難しい顔をしています。
これは、諦めるのに時間がかかるかなと思いました。
女子学生は迷うようにため息をついてから、店主の顔を
見ました。

「あの、ここで雇ってもらえませんか?」

「ん?」

「今日は下見だけのつもりだったんですけど。」

恥ずかしそうに顔を赤くして、ずっと店の前に張ってある
アルバイト募集の張り紙が気になっていたと話します。

「今はこんな格好だし…」

髪も黒に戻してから申し込むつもりだったと、
うつむきました。

「だけど、どうしても今じゃなきゃ駄目な気がして」

店主は面白そうに顎をなでて、女子学生をじっとみつめます。
一見派手な出で立ちは、どこにでもいる普通の学生に見えました。
ですが、品物を見る真剣な表情と、品物を扱う時の女子学生の様子に
好感をもちました。

「お嬢さん、木彫りに興味があるのかい?」

「しゅ、趣味のサークルで、少し彫ってます」

祖母が皿の絵付けをやっていて、母が絹の刺繍で作品を
つくっていることで自分も工芸に興味をもったのだとぽつりぽつりと
話します。

「学校の友達には話してないんだけど、最近おもしろいなって思いだしたんです」

ぱちぱちと瞬きを繰り返して、顔をふせます。
緊張しきっている目の前の女子学生に、誠二はにこりと笑いました。

「いいよ、雇ってあげる」

「え?本当に?」

「そのかわり、親御さんにはちゃんと許可をもらってね」

「はい」

「他の従業員にも会わせたいから、時期を改めてまたおいで」

「わかりました」

ぱっと顔を輝かせて、女子学生は何度も頭を下げてでていきました。
女子学生が去ってしまってから、誠二は忍び笑いをもらします。

「妙な日もあるもんだ」

そう言って、再び流れた静かな時間を新聞を読んで過ごします。
度重なるお客さんの訪問に、心なしか店の中が浮き立っているのを感じて、
誠二は嬉しそうに目を細めました。



つづく