祠:星の家 3


  ~母娘~


店主の誠二と織が、茶器を間に挟んで話しこんでいると、
表から賑やかな声が聞こえてきました。

「お客さんかな?」

織と誠二が顔をあげて見ていると、暖簾をくぐって二人の女性と
一人の男性が入ってきました。

「あれ?来てたの」

「織さんだわ」

「こんにちは」

入ってきた男性がにやりと笑い、そばにいた着物姿の女性が袂を口に当てて
楚々と笑います。最後に突然かしこまったように洋装の女性が
頭を下げました。

「こんにちは、今日は奥さんと娘さんと一緒なんですね」

店主がにこりと笑うと、声をかけられた男性が相好を崩しました。

「娘の着物に合う簪をちょっとな」

「あなた、私たちはお店の中をみてるわね」

店主と織に頭を下げて、着物姿の女性が娘と一緒に簪の置いてある
棚に向かいました。

「相変わらずだね」

苦笑する織ににんまりと笑って、店主と一緒に話の輪に加わります。
来店してきた三人の客は、この店のなじみの客の一人、中島聖といいます。
少し前までは、この島の町長として仕事をしてきましたが、
今では次男が跡を継ぎ、相談役として気楽に暮らしていました。
着物姿の女性は妻の中島千鶴。洋装姿の娘は、中島千歳といいます。
面立ちも立ち居振舞いも母娘そっくりでしたので、父親の聖は、
母親の千鶴ともども、可愛くて仕方ありませんでした。

「娘さん、綺麗になりましたね」

「いやいや、まだまだ子どもですよ」

鼻の下をのばして笑う聖に、店主が楽しそうに笑いました。

「結婚のご予定は?」

「今度な、向こうのご両親と食事をすることにになった」

ふと目を細めた聖に、織と店主が微笑みます。

「それはそれは、おめでとうございます」

聖は大きく息を吐いて、簪を選ぶ母娘を眺めます。
二人で楽しそうにはしゃいでいる姿をどんな想いで見ているのか、
織も店主も黙ったまま聖の様子を見守っていました。



つづく

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中島 聖(なかしま ひじり)

中島 千鶴(なかしま ちづる)

中島 千歳(中島 千歳)