祠:本物 10


  ~意識~


喫茶店に入った満と譲は、しきりのあるボックス席に案内されました。
話したいことがあった満は、カウンター席ではないことにほっとします。


「好きなものを頼んでいいよ」

「満さんは?」


「僕は、もう済ませたから」

そう言うと、譲は嬉しそうにステーキ定食を頼みます。
食後のデザートに季節限定のフルーツタルトまで頼んだので、
満は呆れたような顔をしました。

「お腹壊さない?」

「育ち盛りなもので」

にんまりと笑って、ステーキのグラム数を増やしてウェイトレスに
注文します。それから、満足そうな顔をして満に向き合いました。

「で、一体どうしたんです?」

にこにことする譲に苦笑して、自分に付き合っている女性がいることと、
先ほどの出来事をあるがままに話しました。
譲は最初は興味津々といった様子でしたが、次第に、深く考え込むような
真剣なまなざしになりました。
譲の調子の良さに、最初はためらいますが、人の話を聴く時の表情に、
思わず口を滑らせてしまいます。

「ひなこさんは、僕のこと、友達としかみられないのかなとか」

自分より年下の譲に、自分の色恋を話すのは、
少々気恥ずかしいものがありました。
譲は何も言わずに視線を落とし、じっと聞いています。
多くの考えを頭の中で巡らせてから、譲が口を開きました。

「満さん、もう、線引きしなくていいんじゃないですか?」

「え…線引き…?」

思いもつかなかった台詞に、満が目を白黒させます。

「ひなこさんって、女性の方をとても大切に想っていらっしゃるんでしょう?」

「そりゃあ、もちろん」

「ひなこさんは、檀家さんじゃないですよ」

あ、と思った瞬間に、満の中で府に落ちるものがありました。
それと同時にひなこと初めて会った時の占いの言葉を思い出します。


『大野さんの育った環境が、大野さんの行動に影響を与えているのかもしれません』


その時は、家がお寺だからお嫁さんが来ないのではないかという思い込みがあるせいだと思っていました。

「これは、僕自身の問題だね?」

「ひなこさんは、檀家さんが満さんに相談するように、なんでも言うわけじゃありませんよ」

そこで譲の注文したステーキ定食がきたので、いただきますと言ってから 、フォークとナイフをを手に取りました。
譲が定食を食べている間、満はコーヒーを頼み、今までの自分の行動や
考えを振り返ったのでした。



つづく