祠:本物 9


  ~プロ~


ひなこは満と別れた後、騒ぐ胸を落ち着かせようと急いで歩きます。
今までのような穏やかな感情ではなく、もっと激しい想いでした。
最初はお客さんとして知り合い、彼が自分の好きなプラネタリウムの解説員
だと知りました。
それだけだと思っていました。

「私、占い師として失格かもしれない」

一人のお客さんにいれこむなんて、なんてことだろうと、
思わずため息をつきました。

「しかも結婚だなんて」

重いと言われるか、何か勘違いしているのだと思われるのではないかと、
思わずため息をつきました。

「ひなこさん」

立ち止まったままうつむいていると、肩を叩かれました。
驚いて振り向くと、一人の女性がにっこり笑っています。

「あ…渚さん?」

長くゆるいウェーブの黒髪を束ねた女性が、にっこりと笑います。
買い物の帰りなのでしょう。両手にたくさんの荷物を抱えていました。
知った顔にほっとして、ひなこは笑います。
軽く世間話をしてから別れようとすると、渚がそばの喫茶店を指差しました。

「せっかくだから、お茶でも飲んでいかない?」

「でも…」

「そんな顔をしていたら、駅のホームから落ちてしまうわ」

明るく笑う渚に微笑んで、彼女の好意に甘えることにしました。
渚とは、大学の友人を介して知り合いました。
お互い妙に気が合ったので、たまにメールや電話をして、
親しくしていたのです。

「渚さん、結婚してましたよね?」

「ええ、娘がいるわ」

嬉しそうに笑う渚を見て、ひなこは少し話を聞いてもらおうと
思ったのでした。


つづく

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鈴鹿 渚(すずか なぎさ):旧姓 橘 渚(たちばな なぎさ)