祠:本物 6
~本物~
満に連れられて、和風のカフェに入りました。
掘りごたつや、仕切りをつけた畳の座敷があるので、
疲れたら横になるのにちょうどいいと思ったからです。
カフェに入っておしぼりをもらい、お茶を飲んでいるうちに、
ひなこはすっかり落ち着きました。
「大丈夫ですか?」
「ええ、すっかり気分がよくなったみたい」
頬が紅く、ずいぶんと顔色も良くなったようです。
満はほっとしながらも、表情を固くしました。
「ひなこさん、疲れてるんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
ひなこは、夜の都会の町で占い師をやっています。
どこかのビルの店舗をかりているわけではないので、
冬は寒く、夏は暑い。
会社帰りのOLや、サラリーマンを相手にしていると、
自然に夜も遅くなります。
ひなこと付き合うようになって、いつか体を壊すのではないかと
満は心配していたのです。
ひなこがそれ以上何も言わないので、満も黙って、
メニューを開きました。
ひなこもメニューを見ながら、どれを頼もうかと考えます。
考えているうちに、先ほどの夢のことを思い出しました。
とてもあたたかい、南の海の中でとても気持ちよく眠っていました。
おひさまの光が波に揺らめいてきらきらしています。
本当に気持ちよかった。まるで、満さんと一緒にいる時みたい。
そう思った瞬間、ひなこの中で何かがはじけました。
はっとして顔をあげると、満がメニューをひなこに見せてきます。
「僕は、ぜんざいを頼みます。」
ひなこさんは、どうしますか?と屈託なく聞かれて、ひなこは、
まじまじと満の顔をみつめました。
「ひなこさん?」
「あ…そうね。私も同じのをお願いする」
満は嬉しそうにうなづいて店員を呼ぶと、ぜんざいを
二つ頼みます。
その間、ひなこは顔をふせて、今気づいたばかりの想いが
胸の中で渦巻くのを押さえようと必死になったのでした。
どうしよう、私、このひとと一緒になりたい
それと同時に、夜の占い師業は、ただ自分の寂しさを
紛らわせたかっただけだということに気づき、
気持ちが暗く沈みこむのでした。
つづく