祠:本物 4
~直観~
今日は、よく冷えるだの夜遅くまで大変だのという、
簡単な世間話をしてから、ひなこはきりだしました。
「何か、占ってもらいたいテーマはありますか?」
「そうですね、結婚とか」
照れたように頭をかく男性は、スポーツがりの頭に、
ふっくらとした顔立ち。少し太目の体型は、運動でもしているのか、
ずいぶんと引き締まっているようにみえました。
童顔な顔立ちでありますが、人懐こい笑みを浮かべるので、
結婚相手には困らないように思えます。
「失礼ですが、お付き合いされている方は?」
「いません」
どうも、その手のことには疎くて、いつも友達づきあいで
終ってしまうと困ったような顔をします。
「では、生年月日と氏名、年齢の記入をお願いします」
「はい」
相手の男性が書いている間に、もう一度気持ちを落ち着けて
相手の男性をそれとなく観察します。
話してみるとずいぶん気さくで、最初の直観は外れているように
思えました。どこにでもいる、普通のサラリーマンに思えたのです。
「書けました」
緊張した様子でひなこに、ペンと紙を返します。
ひなこは礼を言って、男性から受け取りました。
・大野 満
・33歳
・昭和54年4月3日生まれ
すっと意識を集中させます。
「本名ですね?」
「あ、はい」
「ごめんなさい。偽名を使う人も多いの」
全部でたらめなことを書いてくる人もいるからと、
弁解するように笑って、ひなこは手元から、
小さなノートを取り出します。
ぱらぱらとページをめくってうなづくと、
次に男性に手をだすようお願いしました。
右手と左手をじっくり見てからうなづき、
すっと目を細めました。
やっぱり、そうだ
最初の直観があたっていることを確認してから、
目の前の男性ににっこり笑いました。
「大野さん、『死』というものを幼少の頃から強く意識されてますね」
「え…?」
「今回占いをするにあたって、重要なことかとも思いますので、
少し大野さんご自身のことをお話してくれませんか?」
大野満はぽかんとした表情を浮かべて、それから、
嬉しそうに笑います。
「参ったなぁ。そんなことまでわかちゃうんですね」
朗らかに笑ってから、真剣な顔つきをしているひなこに、
にかっと笑いました。
「僕、お寺の息子なんですよ」
「そうでしたか」
満の言葉にひなこはほっとしたように笑います。
それから、二人はずいぶんと長い間話し込んでいたのでした。
つづく