ついに、大阪大会三回戦、優勝候補の浪速戦が始まった。


浪速の先発投手は、エース宮村。

最速145キロの速球を投げる、プロ注目の投手である。

剛速球の宮村VSスローボールの瀧上さん。

勝利の女神はどちらに微笑むか!?





ここで余談だが、浪速には、中学の二個上の偉大な先輩、永井君がいた。


永井君は何度も述べている通り、中学時代はスーパースターで、誰もが尊敬するプレーヤーだった。



強豪の浪速に進学しても、レギュラーになると思われていた。

しかし、結局浪速ではレギュラーになれなかった。

しかも、春季大会ではファーストの控えで背番号13を貰っていたらしいが、最後の夏は怪我もあってベンチ入りすら叶わなかった。

この三回戦では、スタンドの最上部で応援団として仁王立ちし、旗持ちをしていた。


「あんな上手い永井君でも、メンバーに入られへんのか。。。浪速はなんちゅう強豪なんや。。。」



メンバーに入れず、しかし懸命に三塁側スタンドで仲間を応援する永井君の姿を、僕は反対側の一塁側スタンドから呆然と眺めていたのであった。







そして、いよいよプレーボール!

初回、マウンドに上がった瀧上さんは、期待通りのピッチングを見せる。

ランナーを出し、得点圏まで進められるも、強力クリーンアップを抑え、無失点で切り抜けた!

やはり浪速打線、瀧上さんのスローボールにタイミングが合わない様子。

一方、浪速の先発、宮村も素晴らしい立ち上がり。

重く、速いストレートがズバっとミットに収まる。


「速え~!!!」


スタンドからは溜息が漏れる。

期待の木崎さん、伴内さん、岩崎さんのクリーンアップも歯がたたない。

うちが勝つには、最少失点に抑えるしかなさそうだ。

しかしこれが、瀧上さんに余計なプレッシャーとなってしまう。

序盤はなんとか抑えたものの、打順が一回りすると、相手打線に捕らえられ出した。

浪速は先制点を簡単に奪うと、攻撃の手を緩めない。

先発の瀧上さんがKOされると、リリーフにあがった岩崎さん、木崎さんも浪速の強力打線を止められない。

そして、極めつけはプロ注目の4番・新里。



ガツーン!!!!!!



鋭いスイングから、ハンマーで叩き割ったような衝撃音と共に、白球がグングン遠くへ飛んで行く。

あっという間に、左中間スタンドのはるか彼方、場外へと消えて行った…。


「す、すげぇ…あんなホームラン、見たことない。」

「なんちゅう打線や…。」

「高校生の打球ちゃうやろ、こんなん抑えられへんわ…。」


スタンドは完全に意気消沈。

現役部員だけでなく、一般生徒、父兄、OB、たくさんの人達が必死に応援するも、もはや実力差は歴然。

勝てる気がしない。

うちは難波さんの二塁打などで何度か得点圏まで進めるが、宮村の唸りを上げる剛速球に押され、得点できず。

結局、0-11で七回コールド負けを喫した…。



浪速の校歌を聞きながら、一塁ベンチ前で整列した三年生が、号泣する。

あんなに偉大な存在であった三年生が、人目も憚らず号泣する姿…

僕たちはただ、茫然と見ているしかなかった。



そして、試合後のミーティング。

他の三年生が号泣する中、ただ一人、涙を流さないキャプテン伴内さんが淡々と語る。


「こういう結果になってしまって残念やけど…精一杯やった結果や。胸張って帰ろう!」


キャプテンらしい、威風堂々とした落ち着いた佇まいを見て、僕は改めてその人柄を尊敬し、存在の偉大さに気付かされた。





その二日後、伝統行事である新チームへの「引き継ぎ式」が学校で行われた。

「欅会館」という建物に全部員が集められる。

そして、三年生全員から、後輩へ向けて思い思いのメッセージを伝えていく。

そして後輩からも、一人ずつ感謝の言葉を伝える。

僕は緊張して何を喋ったがよく覚えていないが、三年生はとにかく大きな存在だったという旨を伝えたと思う。

負けた直後は、号泣していた三年生だが、引き継ぎ式では吹っ切れた様子だった。

そして最後に、キャプテン伴内さんから、新キャプテンが発表される。

新キャプテンは…



半藤さんになった。



これからは、新キャプテンの半藤さんの下、創部約100年の伝統を背負い、聖地甲子園を目指す事となった。

半藤さんは、同じ紅中学出身でもあるし、野球にはストイックで、後輩には優しく、とても頼りになる方だ。


三年生の無念を晴らすべく、新チームで頑張るぞ!

そう、誓い合った。

三年生のみなさん、本当にお疲れ様でした。

そして、ありがとうございました!







次回へ続く。