なぜ大嶽はそこまで関東を攻めたがるのか…それは彼の悲しい過去が関係していた。

30年前のこと…天王寺組は同盟を結んだ関東極道による襲撃を受けた。シマ荒らしを粛清するため武闘派が出払っており、その隙を突かれたのだ。天王寺組は100人以上が殺された…その中には大嶽の尊敬する祖父も…戻ってきた天王寺組の武闘派はその惨劇を目にし、激怒した。そして大嶽を含む天王寺組は関東を攻め落とす…それが至上命題になったのだった…。

羽王戦争に戻る。支部が破壊されたことを知り、大嶽は自分の指揮下にある2つの武闘派派閥のうち1つである、城戸丈一郎率いる城戸派を関東へ侵攻させた。しかし天羽組は死者を出しながらも城戸派を撃退、城戸派の人間はほぼ全滅となった。優秀であった城戸派トップの城戸、No.2の浅倉が死んだことを憂い、彼らの葬式を開き、彼らを弔った。そして次にもう1つの武闘派、戸狩玄弥率いる戸狩派が侵攻するにあたって大嶽も共に東京へ向かい、現場で指揮を執ることになった。大嶽は自分のガラをかわしながら、的確な指示で天羽組の戦力を削る。
周到にガラをかわす大嶽を見つける奇策として関西の天王寺組本体に目を向けた小林たちの潜入調査により、とうとうヤサである『北大路本部』を天羽組に特定される。北大路組は、天王寺組に制圧された関東極道。そのヤサを、自分たちのものとして使っていたのだ。その後、本部に戻った小林の報告内容を元に、組長の天羽と最年長幹部の野田が、いよいよ大嶽を追い詰めるための作戦を練ることとなる。数日後、天羽組でとうとう大嶽包囲作戦が決定し、天羽組の野田一・須永陽咲也・和中蒼一郎・永瀬光一・小林幸真・速水泰輝の6名による、北大路本部の各出入り口3方向からの同時突撃作戦が決行されることになる。裏口から攻め込んだ小林幸真、速水泰輝は建物の最奥へとたどり着く。最奥の建物前で最終防衛ラインを形成する戸狩派No.2の渋谷大智たちをはじめとする構成員の様子から小林・速水のコンビが「その建物に大嶽がいる」と目星を付け、渋谷の一軍と交戦を開始する。部下を介して渋谷から「自分たちが小林をおさえている隙に逃げてほしい」と指示された大嶽は、それが最悪の事態を避けるためだと理解しつつも、敵である天羽勢力も戦闘不能者が出たため今は玄関で孤軍奮戦する須永と眼前に迫る小林のみ。なら「小林さえ討てばこの戦争は自軍の勝利」だと結論付け、自らもドスとチャカを握って前線へと姿を現した。この判断には渋谷たちも困惑したが、大嶽の先程打ち出した結論で鼓舞され、小林の変幻自在の戦法に翻弄され下がっていた士気を回復することに繋がった。大嶽の参戦で体勢を立て直した渋谷とその部下たち(峯田と高槻)であったが、小林もまた、大将首である大嶽が眼前に現れたことで更に集中力を高め、両者は互いに庭園の大岩と巨木を盾に銃撃戦を展開する。歴戦の猛者たる小林を前に大嶽も肩を撃たれてしまうが、頭数で勝る大嶽たちも銃による弾幕でその攻撃機会を遮り応戦。それにより小林も、先程敵に斬られた背中の傷の出血で徐々に消耗し始めた。

しかし、現場を離れていた野田が舞い戻り、またその場の全員がマークから外していた速水の狙撃により渋谷がとうとう倒れることになり、いよいよ窮地に立たされることになる。大嶽は、総大将である自身が囮となり、残った若手の高槻に、渋谷と峯田を連れて闇医者に向かうよう命令し、一人で敵勢指折りの武闘派である二人を相手取ることになる。大嶽はもう戦える年齢では無い…現役の武闘派を相手に、あっという間にボロボロ…地面へへたりこむ。いよいよとどめを刺そうとする野田であったが、その間に速水が滑り込み「親っさん(天羽)が今コチラに向かっているので待って欲しい」と願い出る。それは電話を受けた速水は当然、野田にとっても全く信じられない話で速水が嘘をついていると疑って詰め寄るが、そうした問答をしている内に本当に天羽が4人の前に現れる。


大嶽はこの天羽の出現で彼がわざわざ自身に直接とどめを刺しに来た」と踏んだが、天羽は大嶽を今すぐにでも殺そうと息巻く小林や野田を制し、改めて「何故今回の騒動(東京の侵略作戦)を起こしたのか」と、その経緯を追求する。大嶽は天羽の問いに、自身の被った悲劇と、これまで抱えてきた関東への憎悪を爆発させる。当然、それらは天羽組、ましてや現在抗争で闘う組員らは一切関与していない問題だと反論するも、大嶽は「関東極道は結局その性質に仕上がる」「ならばコチラ(関西極道)が恐怖で抑止して二度と悲劇を生まないようにしなくてはならない」と強弁を張る。その中で工藤や阿久津をはじめとする組員らの殺害を「一定の犠牲」と称したことに再度殺意を増幅させる小林たちだが、天羽は二人を再び制止した上で、続けて「何故当事者ではないお前の部下まで『怒り』に支配されているのか」と質問する。そこで大嶽は「自分たち上の世代が、東京の人間が如何に大阪を見下しているかを言い聞かせているからだ」と説明し、その返答に天羽は酷く悲しみに満ちた表情を浮かべた。

天羽はこの最終決戦に至るまで「大嶽を討ったとして、関西極道の抱く関東への憎悪は絶たれるのか」というどうしても払拭できない疑念を抱えていたが、大嶽の言葉から「たとえ彼を討ったとしてもその憎悪は消えず、寧ろ大嶽が討たれることでその意志を継承する若い世代が更に憎悪を拡散させる」という確証を得る。そして、今回の抗争で愛する部下たちを失った心痛は人一倍大きい立場である天羽だが、それ以上にこの永遠に続くであろう負の連鎖と未来の悲劇を今断ち切るべきだとし…

「俺はアンタ等(大嶽たち)を許す」

…と決断した。
そのまさかの言葉には野田や小林は当然ながら、大嶽も酷く驚き、言葉を失ってしまう。野田は最初は絶句の表情で動揺を見せつつも、天羽の語る先々の多大なリスクを理解してか、その場で立ち尽くしうなだれた。しかし、大恩ある阿久津たちを奪われている小林は、天羽のその決定を受け入れられず、悲嘆とも絶叫とも呼べるような声で反論。そして、大嶽に「俺はテメエが生きている事を許す気はねえんだわ」と改めて殺意を向け、静かに歩み寄っていった。

天羽の決定にそれぞれ抵抗を見せる野田と小林だが、それは大嶽も同じであった。得物を握り歩み寄る小林の始末を受け入れようと「やれや」と急かすも、それを再度、天羽が止めに入る。尚も納得しない小林に、天羽はその答えに至った理由は戦争第一陣の総大将・城戸の最期の言葉にあると語る。

「皆さんに恨みはありませんでした」と語り果てた城戸の姿に、今回の戦争には、従来の極道同士の抗争に必ずある「勝利の先の実利や名誉」といったものがなく、「怨恨」が要因して起こったもので、それを払拭するには「戦争に勝利した上で、勝者が“許す”決断をする以外にない」ということに気付いたのだという。そうした結論に至ることに遅れ、また同じ心痛を抱える皆々にそれらを事前に伝えることも出来なかったことも合わせ、己の落ち度として謝罪した。

一連の話を間近で聞いていた大嶽だが、「ここに天羽がいるということは天羽組本部へ向かったはずの戸狩が殺られた」「新たな怨恨の火種を自ら作った」として、天羽の意見を聖人ぶった綺麗事だと糾弾。しかし、天羽はここに来る直前に、本部にて戸狩から天羽を守った和中と合わせ戸狩の救命にも動いており、お抱えの闇医者・氷室に電話を繋いで戸狩が一命をとりとめた事実を伝える。大嶽は再度驚くとともに、戸狩が生きていることへの安堵、そして天羽が真剣にこの手打ちを望んでいることを悟る。続けて天羽は、自身の組織に多くの犠牲が出たことに怒りと哀しみを噛み締め涙しながら、それは数十年前の関西極道、そして大嶽自身の背負い苦しみ続けた苦渋と同じだとし、改めて「この争いは終結させよう」と呼びかけた。

天羽が胸中の全てを語り終えた後、大嶽は静かにポケットからトランシーバーを取り出し、本部に残る部下たちに戦争の終結を宣言。これにより、長きに渡る羽王戦争は両軍総大将の合意の上で幕が下ろされることになる。

そして敵味方ともに多くの人間が医者へ運ばれた。
大嶽は療養中、思案にふけっていた。「世の中の争いごとは大概が恨みの連鎖や。やけどどちらかが矛を納めんと戦争は永遠に続く。」 そして一人天羽組長の言葉をぼやいていた。大嶽はずっと考えていた…自分が正義と思い下した決断により、敵味方何人の命を奪ったか…。そしてその罪の重さと償い方を…。


怪我も治った頃、大阪では関西極道の会合があった。そしてその中で、大嶽が天王寺組の関東侵攻による報告をした。「皆さんご存知の通り、天羽組侵攻は失敗に終わりました。」すると口々に野次が飛ぶ。失敗って、それじゃすまんやろ、と。 大嶽が口を開きます。「今回の非は全て自分の不徳によるものです。皆様の不安や私を責める気持ちは当然です…ただ1つ、皆様に考えて欲しいことがあるんです。それはこの戦争…いや、関東と関西の遺恨 その根底にあるものです。」その声に対し幹部たちは次々に怒鳴り声をあげる。「そんなもん奴らが関東攻めるからやろ!」「この戦争で奴らに関西の恐怖教えるんとちゃうんかい!」大嶽は返す。「その通りです。やられたらやり返す。それが極道であり戦争です。せやけど実際に関東もんから被害受けた人間、この中にどれだけいますか?」「いちばん直近で関東と戦争したのは数十年前。あの時直接被害を受けたのは俺と現組長の三國の親父くらいです。それでも我々が関東を目の敵にしてる理由…それは関東もんが攻めてくる…そう上の世代が若い世代に刷り込み続けたせいですわ。」その言葉に幹部たちは勢いを失う。「それはそうやが…事実やないかい。」大嶽は続ける「けどそれで戦争したらあかんのです。怨恨や憎悪を旗頭にしたら終わりが無くなる…殺し殺されで際限なく恨みは溜まっていくだけです。」「やられたらやり返す、それは血みどろの連鎖が永遠に繰り返され続けるだけなんですわ。」その言葉に皆が黙る中、三國が口を開く。「大嶽、そこまで言うんやったら解決策もあるんやろな?」大嶽は答える。「はい、それは…相手を許すことです。」「今回天羽さんは先に手を出した俺達に対する怒りを飲み込んでくれはった。向こうも多くの人間が死んでます。それでもあの人は全部こらえて天王寺組の人間を帰してくれた。俺はその心意気に答えて、我々も怒りと矛先を納めるべきやと考えます。」これには非難の声が上がる「ほんならなんでこんな侵攻かましたんや!金をドブに捨て、ようさん無駄死にやんけ!」「…その通りです。」大嶽は絞り出すように言葉を紡ぐ。「恨みに目がくらんで今回の悲劇の引き金を引いたのは…他でもない、俺です。」その言葉をこぼした時、彼の脳裏に浮かんだのは…「城戸…浅倉…高見沢…岸本…室屋…韮沢…苅込…」自分についてきて死んでいった舎弟達だった。「俺が戦争せんかったら誰も死なんでよかった…必要な犠牲やとか訳分からんこと言うて、相手にも取り返しのつかん傷をつけてもうた…」「ホンマに関東と揉めたないんやったら!武力に頼らん手はなんぼでもあった!けどハナから俺はそれを考えんかった!東京とは会話にならんと思い込んどったからや!!」大嶽が涙を流したがら放った訴えに幹部たちからの反対意見は消え去っていた。「戦争を起こした大罪人として、俺に出来るケジメを考えてきました。」そうして彼が懐から取り出したもの…それに会場は騒然となる。それはなんと…手榴弾だったのだ。「自分が起こした戦争で若い衆をようさん失いました!そのケジメは取らねばなりません!」「そして関東と関西の恨みの連鎖を断ち切る一助になりたいと思いますぅう!」「天羽桂司親分!あなたはこのアホに道を示してくださいました!」「三國の親父!こんなアホを拾ってくれたあなたには感謝しかございません!」「私は普通に死ぬだけでは許されません!怨恨ごと!木っ端微塵に吹き飛びます!」「三國の親父!列席の皆さん!この大嶽の命に免じてどうか!東京と対話の窓口をもってくださぁぁぁい!!」そして彼は手榴弾の安全ピンを一気に引き抜いた。「最期だけはカッコつけさせていただきます!これが天王寺組若頭!大嶽徳文の死に様じゃぁぁああ!!」大嶽の最後の雄叫びは…本人と共に爆煙の中に消えた…。「なんちゅうこっちゃ…」「ここまでする覚悟やったんか…大嶽はん…」凄惨な場面に会場が動揺する中、三國の声が響く。「ウチのカシラの命をかけた訴えです!どうか皆さん、汲んでやってください!」天下の天王寺組の組長が頭を下げた…この申し出を断れる者は一人もいなかった…

以上が、羽王戦争のざっくりしたストーリー。