勅使川原真衣
「能力」の生きづらさをほぐす
教育心理学を学ばれた勅使河原氏が、多くの人になんの疑問もなく認められている「能力」というものに
脚光をあてて、「能力」というものの考え方について問題提起をしています。
現代社会、組織が「能力」を拠り所にして成り立っているように見えるが実際にそうなのか?
社会、組織、果ては個人の成功も、それぞれの能力のせいにしてしまっていないか?
英語力、計画立案力、行動力、コミュニケーション能力、生きる力、
本来は多様化しているたくさんの行動様式の中で、それぞれをカテゴライズして能力をあてはめる。
そして、例えば、コスパ、タイパといったパラメーターを用いて、
それらを能力別によるランキングがなされている。
それは、その行動様式によって分類されたグループ内において、ごく少数の上位層にランクされている人々以外の大多数にとっては、生きづらさを生み出しているのではないか?
そして、その中で能力の高さが成功、幸せにつながるという考えは本当に正しいのか?
これらの疑問を投げかけて、現代社会、組織のあり方に一石を投じようとし、奮闘されているのがよくわかりました。
能力主義というものを取り上げて、ものを考えたことは私にはありませんでした。しかし、これまでに、自分でも
何でも能力順に成功パターンをあてはめているような考え方に何だかモヤモヤするようなものを感じたことが
あったと思い起こされました。
この本を読むことによって、そのもやもやを言語化できました。
現代社会の多くの場面で、個々人のもつ行動規範は多様であって、能力というレッテルで測るものではない。
何らかの権威の下に、行動規範をカテゴライズして、そのカテゴリーの中で階層化して評価しているのではないか?
その方法論に疑問を持っていたのかもしれないと思いました。
生物学的観点を入れるともっと優れた論になりそうな気がして、応援したくなります。
この勅使河原氏が東大の大学院で教育学者の苅谷剛彦の元で学ばれたことが記されていました。
苅谷剛彦氏は、その研究手法を知って教育学にも科学的エビデンスの存在を知って影響されたことのある先生です。
そして、刈谷先生と同じ分野の本田由紀氏のことにも言及されていたのが印象に残りました。
久しぶりに本田由紀氏の書籍を手に取りました。
ということで、もう一冊は
本田由紀 「日本」ってどんな国? ――国際比較データで社会が見えてくる
です。この本は、きちんとしたエビデンスでもって、例えば「日本人は他社に対して助け合う性質が強い。」のような日本に古くから伝わる神話(ここに私が挙げた例は適切ではないです。)が必ずしも真ではないことを明らかにしてくれます。
この本の中で衝撃を受けたのは、日本の企業における新卒一括採用、このような制度があるのは世界のなかで日本だけであるということです。アメリカに留学していたのにこのことに気づかなかった自分自身を情けなく思います。
そして、この新卒一括採用というのは、かなり日本社会において負のアンカーになっていることがたちどころに理解できます。
企業採用時の年齢制限撤廃こそ、日本が立ち直るためのいくつかの手段があると思いますが、最も簡単なものの一つでしょう。