――目を醒ますと、カーテン越しに暖かな陽射しが全身を包む。う~ん、爽やか
な朝だと感じながら大きく伸びをして、STEREOLAB を流した。透き通るレティシア
の声がその爽やかさをより馴染ませる。
晴れた空。歯磨きをしながらベランダに出てそんな空を視上げると、何だかいつ
もよりきらきらしていて、陽を乱反射させる雲たちが静かにゆっくり、流れていて、
その下を青い風船が一つ浮かんで漂っていた。何だか解らないけれどその風景が今
の自分の心を表している様に感じて本棚の上に置いてある一眼レフカメラで写真を
撮った。
そうしたら、何だか、嬉しくなって、微笑んでいた。そしてそれから暫くその空
を視上げていると、携帯電話から着信音が鳴り響いた。
「あっ、森合さんかな?」
ディスプレイを見ると先日訪れた会社名が表示されていた。
「はい、七海です」
「お早う御座居ます、森合です」
「おはようございます」
「良かった、繋がって」
「えっ!? どういう事ですか?」
「一昨日メールを頂いた件で昨日ずっと電話やメールをしていたんですが、全く連
絡が取れなかったので」
「一昨日? あれ、昨日じゃありませんでした?」
「いえ、一昨日ですよ」
「あの~……今日は何日です?」
「二十日ですよ。昨日はどうされたんですか?」
「二十日……あぁ~、すいません。昨日は、どうやら丸一日、寝ていた様です」
「ははっ。随分頑張ったようですね」
「ま、まぁ……」
そう捉えてくれるとありがたい。
「それで連絡したのは、メールを頂いた件での事なんですが、昨日連絡が取れなかっ
たので随分迷ったんですが、この時間に連絡が取れて良かった。まあそれで打合せ
の日程が決まったんですがそれが今日の十五時なんです。それ以降だと作者の予定
が詰まってしまっているんですよ。何とかお願いしたいのですが……」
「あっ、いえ、こちらこそすいません。本日の十五時ですね。大丈夫です、必ず伺
います。それで打合せの場所はどちらになるんでしょうか?」
「場所は、先日と同じです」
「判りました」
「ありがとうございます。では、本日の十五時に宜しくお願い致します」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
電話を切り七海は時間を確認した。十一時二十八分。これから準備すれば十分間
に合う。この初めての打ち合わせで何か手応えがあればいいけれど、もし何の反応
も無かったらクライアントの時間がある限り話し合わなければならない。実はこれ
が苦手。何故かと云うとコミュニケーション・ツールである言葉は、常に曖昧で一
言でも間違ってしまうと方向性が随分異なってしまうからだ。勿論、言葉は曖昧な
のだから間違わなくても同じ、または相手が望むべき作品が出来上がるのかとそう
ではないのだけれど……。
稀に、そんな事云うなら自分で描けよ! と云いたくなる時があるんだけど、そ
んな事云ったら当然ながら破滅な訳です。まあ私の場合、今までにそんな事は一度
だけ思った事があっただけで殆どはクライアントの要望通りの物を作製出来ていた
からいいのだけれど、今回のは曾て無い程に難しいのだが……兎に角、視てもらお
う。
七海は昨晩……いや、一昨日の晩にデータを保存したCD–ROMを鞄に入れて、一
応化粧をして仕事用の服を着る。が、何だかしっくりと来ない。
う~ん、何だろうか。この嘘っぽい気持ちは?――いいや、もう普段着で行っちゃ
え! そうしてまた着替えて、もう一つ思い付く。いつもはデータでの確認のみだ
けれど、今日はそれだけじゃなくて実際に描いた物も視てもらおう。でもさすがに
十一枚って数のキャンバスは持って行けないからその中から数点選び、もしクライ
アントが他のも視たいと云うのであれば後日改めてと云う事にすればいいだろう。
そうして七海は打合せに出発した。
な朝だと感じながら大きく伸びをして、STEREOLAB を流した。透き通るレティシア
の声がその爽やかさをより馴染ませる。
晴れた空。歯磨きをしながらベランダに出てそんな空を視上げると、何だかいつ
もよりきらきらしていて、陽を乱反射させる雲たちが静かにゆっくり、流れていて、
その下を青い風船が一つ浮かんで漂っていた。何だか解らないけれどその風景が今
の自分の心を表している様に感じて本棚の上に置いてある一眼レフカメラで写真を
撮った。
そうしたら、何だか、嬉しくなって、微笑んでいた。そしてそれから暫くその空
を視上げていると、携帯電話から着信音が鳴り響いた。
「あっ、森合さんかな?」
ディスプレイを見ると先日訪れた会社名が表示されていた。
「はい、七海です」
「お早う御座居ます、森合です」
「おはようございます」
「良かった、繋がって」
「えっ!? どういう事ですか?」
「一昨日メールを頂いた件で昨日ずっと電話やメールをしていたんですが、全く連
絡が取れなかったので」
「一昨日? あれ、昨日じゃありませんでした?」
「いえ、一昨日ですよ」
「あの~……今日は何日です?」
「二十日ですよ。昨日はどうされたんですか?」
「二十日……あぁ~、すいません。昨日は、どうやら丸一日、寝ていた様です」
「ははっ。随分頑張ったようですね」
「ま、まぁ……」
そう捉えてくれるとありがたい。
「それで連絡したのは、メールを頂いた件での事なんですが、昨日連絡が取れなかっ
たので随分迷ったんですが、この時間に連絡が取れて良かった。まあそれで打合せ
の日程が決まったんですがそれが今日の十五時なんです。それ以降だと作者の予定
が詰まってしまっているんですよ。何とかお願いしたいのですが……」
「あっ、いえ、こちらこそすいません。本日の十五時ですね。大丈夫です、必ず伺
います。それで打合せの場所はどちらになるんでしょうか?」
「場所は、先日と同じです」
「判りました」
「ありがとうございます。では、本日の十五時に宜しくお願い致します」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
電話を切り七海は時間を確認した。十一時二十八分。これから準備すれば十分間
に合う。この初めての打ち合わせで何か手応えがあればいいけれど、もし何の反応
も無かったらクライアントの時間がある限り話し合わなければならない。実はこれ
が苦手。何故かと云うとコミュニケーション・ツールである言葉は、常に曖昧で一
言でも間違ってしまうと方向性が随分異なってしまうからだ。勿論、言葉は曖昧な
のだから間違わなくても同じ、または相手が望むべき作品が出来上がるのかとそう
ではないのだけれど……。
稀に、そんな事云うなら自分で描けよ! と云いたくなる時があるんだけど、そ
んな事云ったら当然ながら破滅な訳です。まあ私の場合、今までにそんな事は一度
だけ思った事があっただけで殆どはクライアントの要望通りの物を作製出来ていた
からいいのだけれど、今回のは曾て無い程に難しいのだが……兎に角、視てもらお
う。
七海は昨晩……いや、一昨日の晩にデータを保存したCD–ROMを鞄に入れて、一
応化粧をして仕事用の服を着る。が、何だかしっくりと来ない。
う~ん、何だろうか。この嘘っぽい気持ちは?――いいや、もう普段着で行っちゃ
え! そうしてまた着替えて、もう一つ思い付く。いつもはデータでの確認のみだ
けれど、今日はそれだけじゃなくて実際に描いた物も視てもらおう。でもさすがに
十一枚って数のキャンバスは持って行けないからその中から数点選び、もしクライ
アントが他のも視たいと云うのであれば後日改めてと云う事にすればいいだろう。
そうして七海は打合せに出発した。