東京都をくまなく走っていた都電は、日本国内の市内交通の模範となるべき存在だった。


 明治から昭和にかけて首都・東京の大動脈を支える都電には、最新の技術が投入され、そして次々と新しい車両が登場した。


 都電の凋落が始まりかけた高度経済成長期でも、都電の車両は路面電車界のスターだったといえる。


 今でこそ広電や熊本市電などに、輝かしい路面電車の最新車両が投入されて、都電の車両に技術の粋がつぎこまれているとは言えなくなった。


 それでも、豊橋や長崎では、都電全盛期を担った車両が悠々と走り、そしてそれが当時の都電車両を知っているオールドファンに懐かしさを与えてくれる。



都電ひとつばなし-豊橋の都電

 

 例えば、同じ“とでん”の愛称を持つ土佐電鉄では、ポルトガルなどの諸外国から路面電車を受け入れ、異国情緒を演出している。


 広島電鉄は最新技術の路面電車を登場させながらも、古い電車も大切に走らせている。


 伊予鉄では坊っちゃん列車なる蒸気機関車に模した路面電車を登場させ、観光の呼び水にしている。


 同様に、古くなった都電の車両を引き取って現役車両として運行させることも、観光の起爆剤になるはずである。

 都電の旧式車両が走っているのは、豊橋と長崎。豊橋では都電でも現役として活躍している7000形が走っている。(ただし、バリアフリー改造前)


 長崎市は観光地が点在している都市だが、豊橋市は路面電車の沿線に観光地がほとんどなく、また路線が短いために利用されにくい面を持つ。


 であるがゆえに、都電が走っていることを売りにすることもできる。


 逆に仙台市電や西武大宮線などで走っていた路面電車が都電を走れば、就職列車で上京してきたかつての若者たちが都電沿いに住まうかもしれないし、利用してくれるようになるかもしれない。

 

 しかし、残念ながら各地に交換留学に出た都電がありながら、どこかで走っていた路面電車が都電の線路を走ることはない。


 懐かしい旧型車両を展示したり、昭和レトロ風に電停をリメイクすることはあっても、都電はあくまで純血を頑なに守り抜いている。

 もちろん、床の高さ、軌間など都電で走るにはクリアしなければならない問題もあるだろう。

 

 だが、都電に他都市の路面電車が走らない理由は、かつて大東京の交通機関を担ってきた最新鋭車両を擁する都電の矜持があるのでは、と思わざるを得ない。