そこから間もなくして、「彼女」との二人三脚が始まる。

 第1弾は、5日間かけて東海道本線の全駅を下車するという、意味不明かつ無謀な挑戦だった。


 実は、この東海道本線全駅下車でカメラマンとして同行を打診されたのは、決行3日前。

 

 前日は仕事の都合で一睡もせず、また5日間の道中は原稿締め切りが3本あるために、カメラ機材だけではなく、パソコンや資料のノートまで持ち歩くという重装備の珍道中だった。


 

 二人三脚が始まって以降は、よく鉄道に乗りに行くのも付き合わされた。


 彼女が鉄道を見るとき、目の輝きは一変する。このキラキラしていた。

 本当に「鉄道」が好きなんだな、と軽々しく言葉にしてしまうのは、むしろ薄っぺらくなってしまうような、それほど輝かしいまなざしだった。

 

  それでも不思議なことに、一緒に都電には乗車することは一度もなかった。



都電のヘッドランプの輪




 ボクが「彼女」の持つ能力で、一番評価していたのは「人を楽しませる」才能だった。

 彼女は意図的に楽しませるのではなく、接しているだけで笑みがこぼれてしまうような才能を持っていた。


 こうした才能はある程度は磨けばそこそこ身につけることができるが、彼女のそれは抜群に別格で、天性の才能だった。


 一挙手一投足すべてが、面白く、見ていて飽きない。

 「彼女」が動くだけで、周囲は笑顔になってしまう、それほど彼女の持つ才能は秀でていたと断言できる。

 だからこそ、苦難が予測される道でも、二人三脚を厭わなかった……。


 一年の歳月は色褪せていくには、十分に長い。

  


 久しぶりに青臭い過去を思い返してみたのだが、本当に青臭いこと、このうえない。

 


 もとより、JR東海と都電荒川線では軌間が違うのだから、乗り入れはできない。



 それでも都電は走りやまず。

 JR東海は走り続ける。


(つづく)