”変化は、つねに人々の目に見えないところではじまっている。そして、その変化に人々が気づいた時、すでに次の変化が音もなく足もとに忍び寄っている。そっと、だれにも気づかれないうちに……。”
杉山隆男『メディアの興亡』
まだ、たった一年前の話だ。
たかだか一年前の話だ。
きっかけは「彼女」にメールを出したことから始まる。それが6月27日。
いきなり取材のメールを出し、返信があったのは翌日。
「連絡ありがとうございます。鉄道オタクの○○です」
から始まる文面は、とても礼儀正しかった。
それでいて、ライターが書く文章とは異なりユーモアにも溢れていた。
だが、そこにオタク特有の嫌味はなかった。
取材依頼をし、相手も快諾してくれたものの、実はスケジュールの都合から、申し込んだ日からかなり遠くになってしまった。
その日では、締め切りに間に合わない。
編集部と掛け合い、次号の枠を空けてもらい、そこに記事を突っ込むことなった。
しかし、そこにはもうひとつ超えなければならないハードルがあった。
取材者は自分ひとり。
取材とはいえ、女の子の部屋を訪問するのに、男一人で行くのは少しばかり危険だ。
いや、危険なのは自分であるのだが、誤解を生まないためにも、女性のカメラマンを同行させるべきだったのだが、「カメラマンの費用が出せない」という貧乏雑誌の泣きどころもあった。
そこで一計を案じるハメになる。
私が取材する月刊誌とは別の週刊誌の取材と企画を相乗りさせることにして、週刊誌側から女性カメラマンを派遣してもらう。そうすれば女性カメラマン同伴で月刊誌取材をすることができる。そう試みたのだった。
ところが、取材日当日まで、相乗りしてくれる週刊誌が現れなかった。結局、一人で訪問することになった。
取材でこの部屋を男一人で訪問した厚顔無恥な人間は、後にも先にも私だけだったと、後日知ることとなるわけだが、それはまた別の話。
そんなこんなで一年が経つ――
(つづく)