太陽が滲み、西の空へと赤が沈む。

 

 一日が終わり、家路に着くとき、車窓に目をやり、ふと夕日を眺めるなんてことは、今のビジネスマンの心に、そんな余裕はあるだろうか?


 せわしなく、人が動く東京の駅々では、車窓に目をやる余裕もなく、ひたすら吊り輪につかまって、家路を急ぐか、ケータイ電話とにらめっこするか…。


 そこには、東京の鉄道には、眺めたくなるような車窓風景が乏しいことを示唆している。




夕暮れ面影橋


 しかし、よくよく目を凝らしてみれば、息を呑むような素晴らしい車窓風景がまだ都会にも残っている。


 例えば、江ノ電の海の風景は、観光客にも大人気だし、房総半島を走るいすみ鉄道の菜の花畑の黄色は、人の心を魅了する。京葉線沿線の電飾きらめく魔法の国や観覧車は、ビジネスマンの疲れを癒してくれるだろう。


 そして、都電の夕景も、どこか「ほっ」とする風景なのではないだろうか?


 決して、退勤ラッシュの喧騒とは無縁でありながら、それでいながら家路を急ぐようにせきたてる。

 静寂の中にある、忙といったイメージを連想させる。


 沿線には、それほど高いビルなどはなく、やわらかに降り注ぐ夕日の光線は見ていて楽しい。



 言葉は必要ないぐらい、素晴らしい赤色。 

 しかし、赤色に染まる空が眺められるのは一瞬しかない。


 赤は、まもなくブラックアウトする。