12月に突入し、今年も一ヶ月を切った年の瀬。


 通勤列車もどこか慌しさを感じさせるようになったものの、都電の沿線には大きな街がないためか、いつもと変わらない空気が流れている。

 恐らく、それはガタンゴトンとゆっくり走る都電のイメージが一人歩きしているだけだろう。


 しかし、窓から手を伸ばせば、家々に手が届いてしまいそうな都電沿いは、師走のせわしさと無縁だ。

 夕刻、退勤ラッシュでにぎわう乗換駅を横目に、都電から下車してくる乗客が足早に向かうのは、商談先でもなく自宅なのだろう。


ほのぼの都電



 都電が走る上の空は、もうすぐ家ですよ、と伝えているような、そんな感じが漂う。


 その昔、夕刻に電停に佇んでいると家々から晩御飯のおかずのにおいがしたことから、「台所電車」とも呼ばれた都電。

 そうした都電の古きよき部分は、少なくなりつつも、まだ残っている。