増刊新選組DX5月号



 明治5年に鉄道が開業して以降、鉄道は常に権力と隣り合わせだった。

 

 天皇が乗車する列車が、臣民と同じ車両であるはずもなく、そうした天皇専用の特別車両は脈々と現代にまで受け継がれることになる。


 そうした中で、300キロメートル以上の路線を保有しながらも、都電は天皇専用の特別車両を保有しなかった。


 なぜなら、電車(当時、電車と言えば路面電車を指した。対して旧国鉄路線は汽車と呼ばれた)は市内交通に限定されたからであり、天皇がわざわざ乗車するほどの交通機関ではなかった。

 しかし、長距離の路線を持つ旧国鉄では天皇が乗車する機会はたびたびあるために、特別車両を製造する必要性があった。


 そこで、政府は天皇専用列車「御召列車」(戦後はお召列車)を運行することになる。


 「御召列車」は旧国鉄路線を走ることはできたが、軌間が1067ミリに限定されていたために都電をはじめとする路面電車には走らせることができなかった。もちろん、1435ミリの私鉄にも走らせることができない。


 最近、スウェーデン国王が来日した際、天皇と一緒に川越まで電車移動することになった。

 お召列車で原宿宮廷駅から川越駅を目指すのが本来のルートになるはずだが、今回はなぜか西武鉄道を利用した。しかし、特別車両ではなく、ニューレッドアロー号を貸切運転することでお召列車運行することになった。


 残念ながら、西武鉄道は大宮線という路面電車を運行していた過去はあるものの、天皇が乗車した区間が路面電車だったことはない。


 しかし、皇居をぐるりと取り囲むように都電は走っていた。そのため戦前までは都電が皇居端の馬場先門電停に差し掛かると「ただいま、宮城前を御通過中です」と車掌がアナウンスして、乗客に遥拝を促したという。


 都電(当時は東京市電)にも天皇の影響力が少なからずあったわけだが、天皇が都電に乗車することはなく、戦後になるとそうした天皇と都電の相対性も失われていく。


 今後、天皇が路面電車に乗車する機会はあるだろうか?


 「天皇と鉄道」というタイトルで御召列車のマンガ原作を書いた『増刊 新選組DX』(竹書房)は今日発売!(※シール2点留め雑誌のため立ち読みできません)