内田百聞は見た!



 都電の電停に佇んで、次に来る都電を待っていた。

 周囲は暗く、街灯はない。


 内田百閒は須田町の電停から都電に乗車しようとしていた。


 須田町は都電の要衝地でもある。

 東京メトロ銀座線の神田駅が、JRの神田駅とは離れているのは、当時の要衝地だった須田町とのアクセスを重視した結果でだった。


 当時の主要交通期間はまだ国鉄ではなく路面電車だったことを物語っている。


 須田町の電停で電車を待っていた内田百閒は、暗闇から何かがやって来るのを感じた。

 咄嗟に気配のする方へと目を向けると、そこには狼が群れをなして、ひたひたとこちらへと向かっていたのだった。


 いくら昔の話とはいえ、すでに市街地になっていた須田町に狼が群れで出現するわけがない。

 これはあくまで内田百閒の創作だが、昔はそれほど夜に一人、電停で電車を待つというのは恐怖を感じるものだった。