都電沿いを歩いていると、町内会などの掲示板があったりする。


 その掲示板に、『散歩の達人』の都電荒川線のムックのポスターが貼ってあった。


 都電をはじめ、路面電車は地域の住民が利用するのがほとんど。

 路面電車が好きな人は、乗車しながら「こういうのが、うちの街にもあったらいいのに」と思いを馳せながら乗車する。


 『日本全国路面電車の旅』を上梓したときに、いろいろな出版関係者に会って話をした。


 その中で、特に印象深い話をしてくれたのが、私と同い年の某新聞社の女性記者だった。


 彼女は都電の要衝地・王子で生まれ育ち、大学に入学して一人暮しを始めてからも面影橋に住み、常に都電のある暮らしをしてきた。彼女にとって、公共交通機関と言えば、まず都電荒川線だったのだ。


 まだ小学校にもあがっていない彼女が、親とではなく、一人でお出かけするときは、いつも都電を利用していた。

 恐る恐る都電に乗車すると、運転士がやさしく「どこまで行くの?」と声をかけてきてくれ、降りる電停を教えてくれたという。


 そうして少女は少しずつお姉ちゃんへとステップアップしていく。美人記者として活躍する彼女の成長は、都電なくしてはあり得なかった。だから今でも「公共交通と言えば都電」と思っている。


 結局のところ、こうした原体験が路面電車を好きになるには必要なのかもしれない。


 都電荒川線の本を宣伝する掲示板が、都電沿いにあるのはそうしたことを物語っていると言えるだろう。






   散歩の達人