王子駅がJRや地下鉄、バスの乗換ターミナル駅だから、王子駅前は都電の乗降客が一番多い。都電のよさは、運転士と乗客の距離感の近さにある。  例えば、持ち合わせが一万円しかなかったとき、運転士さんに両替してもらおうと声をかけると、運転士さんも持ち合わせがないときがある。そういうとき「今度乗ったときに、2乗車分の運賃を払っていただけますか?」と言われる。日頃から乗っている人だったら、じゃあ、明日となるんだろうけど、用事でたまたま都電に乗車したときなど、その次に乗車するのがいつになるのかわからない。  しかし、そういったやりとりができるのが、都電のいい部分である。  ところが、そういった人と人との温かみのあるやりとりは、時に諸刃の剣となって返ってくることもある。  運転士と乗客の距離が近い分、発車間際に駆け込んできて発車を遅らせてしまうのだ。多少のことだったら運転士さんも大目に見てくれるのだろうけれど、ラッシュ時の王子駅前などは次から次に乗客が走ってくるので、そういうことをしていたらキリがなくていつまで経っても発車できないのだ。  そこでスムーズな運行をするために考えられたのが、臨時改札という方法である。  どこまで乗っても一乗車160円という特性を活かして、王子駅前では臨時に改札員を配備して、乗車時に支払う運賃を改札員に支払うというシステム。これによって、乗車時の運賃のやり取りがなくなったので電停での停車時間を極力減らして、定時運行性を高めることに成功した。  定時運行がなされないと乗客は減るし、乗客が減れば便数が減る。便数が減れば乗客が減るという負のスパイラルに突入する。そのために、路面電車に限らず、公共交通というのは非常に定時運行が求められ、必要とされる。  都電では、今のところイベントなどがない限りは王子駅前でしか臨時改札は行われていない。しかし乗客に高齢者が多い都電において、臨時改札が定時運行性以上に乗客に対してサービスになっていることは言うまでもない。   臨時改札