哀しいことがあると、時折、都電を眺めて心を取り戻すそんなことを、しばしばしてきた。  今日の一葉は、荒川車庫前-荒川遊園地前の間にある踏切。JRの尾久駅から真っ直ぐ歩くと、この踏切に突き当たる。  仕事が思うようにいかなかったり、付き合っている女の子とケンカしたり……。  嫌なことや哀しくなったときに、コーヒーを片手に、カメラを持って、ただ何も持たずにこの踏切にやって来ては、行き交う都電を眺めた。  この踏切からは、真っ直ぐ伸びる線路が、どこまでも見えた。だから、遠くからうっすら見える都電の黄色いフロントランプが、少しずつぼんやりと大きくなってくる。そして、うっすらと闇に浮かぶ都電が、ボクの前を通り過ぎ、赤いテールランプは、少しずつ遠くなっていく。その繰り返し。  時には5分、時には1時間は都電を眺めながら、ボクは心の中のもう一人の自分と話し合うのだった。  今日の一葉は昼間の踏切なのだけど、この踏切に都電を眺めに来るのは、必ずといっていいほど夜の帳が降り始めて星が光り輝き出す時分だった。 尾久駅からの踏切