保釈請求却下裁判の「拘束力」に関する一考察

 

 保釈に関して、保釈が認められないと何度も保釈請求をすることになるんですが、裁判所的な考えによりますと、保釈請求却下裁判には内容的確定力が生じるために以後の保釈請求にあたっては事情の変更がない限りは裁判所(官)は前の却下裁判に拘束され事情の変更が認められない場合は当然に却下されるということらしく裁判官執筆にかかる令状関係の書籍にも同様の記載が多数あるんですが、私は、おかしいのではないかと考えています。

 

 裁判一般について内容的確定力があるといわれていますが、裁判といっても判決、決定、命令といった種類があり、さらにはその手続上の場面も一様ではなく、確定有罪判決の内容的確定力と保釈請求却下裁判の効力を同様に考えることは理論的にも間違っているのではないかと考えています(もっといえば確定有罪判決の内容的確定力なるものも再審を念頭におけば明らかなようにあくまで政策的な一応の暫定的な効力にすぎないとわたしじしん考えております。)。

 

 この点、田宮先生や白取先生あたりがなんといっているのか確認したほうがいいとは思っているのですが、うまくすっきり理論的な整理はできていませんが現実の実務において保釈を担当する裁判官が一様に「前の保釈請求却下の裁判の内容的確定力がありますから事情変更がないと厳しいです」的なことをいわれて、しかも裁判官が参照しているであろう令状実務的な書籍にも同様の記載がさも当然の法理かのように書かれているので、なんとか理論的な反論をかましておけないかと悩んでいる次第です。

 

 もちろん、現状の弁護実務的には、なんとか事情の変更をひねくりだして構成して主張していくしかないわけなんですが、そもそも論として、保釈請求却下の裁判に内容的確定力なんて認める必要あるか?という疑問がぬぐえないのです。

 

 この問題、同じ裁判官に対して何発も保釈請求をする場合を想定すれば、その裁判官の内心において一度却下の結論を出している以上、事情の変更がない限りは何度保釈請求しても却下の結論を出し続けるということは結果的にありうるとは思うんです。でもそれは事実上のお話であって、さらにいえば同じ裁判官だって心変わりはするかもしれないし事情変更がなくても弁護人の説得の仕方がかわれば結論を変える可能性は当然ありうるわけです。

 

 問題なのは、それぞれ異なる裁判官が複数回なされる保釈請求を担当する場合において、一度、保釈請求却下の裁判が出されてしまえば、後の保釈請求を担当する裁判官は、前の裁判官の判断内容に拘束されることは理論的に正当化されうるのかという問題なわけです。実際、東京地裁14部(令状部)は10人以上裁判官がいて第1回公判前の保釈の審査はほとんどの場合、毎回、別な裁判官が担当しています。

 

 裁判官は独立なわけですし、それぞれ毎回毎回、権利保釈除外事由が存在するか、裁量保釈を認めるべき事由が存在するか個別に検討すればいいわけで、その際に法的な効力としての前の裁判の「内容的確定力」なる概念をわざわざ持ち出す意味はないんじゃないかと思うわけです。

 

 現行刑訴法の規定に目を向けてみると、裁判の内容的確定力を破る手続きとしては確定有罪判決の内容的確定力を破るための再審の規定があるわけですが、保釈請求却下の裁判については、再審のような内容的確定力を破るための手続きが刑訴法上用意されていないということから、保釈請求却下の裁判が確定した場合(上訴によって争えない状態になった場合)でも確定有罪判決のような内容的確定力は生じないと刑訴法は考えているのではないでしょうか。

 

 そう考えると、裁判の種類を問うことなく、裁判一般の効力として内容的確定力があるとする理論的前提じたい間違っているのではないかという気がしないでもないのです。

 

 これは保釈請求却下裁判に限らず、たとえば勾留取り消し請求却下の裁判にも同じく妥当する議論です。

 

●「内容的確定力」論の出所は何処か?

 この問題について論じている初期の文献としては「増補 令状基本問題 下巻」の金谷暁論文(「問題110保釈請求却下後、何らの事情の変更もないのに、再び保釈請求があった場合には、その請求を不適法としてよいか」97頁以下)が挙げられる。

 

 この論文において、学説の紹介としては「保釈請求が却下された後、再度保釈請求ができるかについて、学説は、『事情の変更を待って、再度の保釈請求をしてもよい』(松尾上二六一頁)とか、『却下された者も事情の変更を理由に再請求することを妨げない。』(ポケット刑訴上二一六頁)などとしている。」と紹介されている。ここでは特に理論的根拠は示されていない。

 さらに金谷論文は、この問題について大阪高決昭和47年11月30日(高刑集25・6・914)を引用している。

「」

 

 

 國井恒志「183保釈請求却下後、再度なされた保釈請求に対する処理」田中康郎監修「令状実務詳解」立花書房1030頁は、

 

「保釈に関する裁判も、裁判一般の例に従い、それが形式的に確定することによって内容的確定力が生じ、同一事項については、その後に生じた事情を理由とする場合のほかは、先になされた裁判と異なる判断内容の裁判をすることができないと解されている。」

 

と述べた上で脚注において「(注1)横田=高橋・諸問題250頁。なお、保釈取消請求却下の裁判に対する準抗告について、大阪高決昭和47年11月30日高刑集25巻6号914頁」を挙げている。

 

 しかし、そのような裁判一般の一般論を保釈請求却下裁判に妥当させることは理論的にも実践的にも困難ではないのか。

 

 準抗告がなされていない場合は、「確定」を前提とする確定力をうんぬんすること自体不適切である。準抗告に期間制限がない現行法の下においては、保釈請求却下裁判がなされた場合、被告人側で準抗告をしない限り裁判は確定しない。

 

 上記横田=高橋・諸問題においても「なお、右の〔171〕〔172〕の事案では、原裁判の確定が前提となっているわけではないから、裁判の内容的確定力というよりも、原裁判後特段の事情変更がなければ原裁判の判断を尊重するという事実上の拘束力というべきものである。」(252頁)と指摘されている。