「殺したい」というボヤキが、20年の懲役に変わった。

――翻った供述、消された証人。言葉のあやで葬られた「ある父親」の叫び

皆さんは、日々繰り返される過酷な日常の中で、親しい友人に「あいつ、ほんま殺したいわ(=いい加減にしてほしい)」とこぼしたことはありませんか?

特に兵庫県などの関西圏では、こうした表現が日常的な嫌悪の意思表示や「ネタ(冗談)」としてカジュアルに使われることがあります。しかし、一人の真面目な父親が、この「言葉のあや」を文字通りに受け取られ、懲役20年というあまりに重い判決を下されました。

藤本宏輝さん。3人の子供を一人で育てる彼は、現場にいたわけでも、直接手を下したわけでもありません。なぜ、彼は「殺人犯」にされたのか。そこには、司法の死角で見逃された「家庭の闇」と、致命的な手続きの欠陥がありました。

 

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■ 確定判決が認定した事実と、拭えない矛盾

裁判所は、藤本さんが前件の示談金債務の支払いを免れるため、知人(実行犯)に一家の殺害と金品の強奪を指示したという実行犯の供述の信用性を認めて、藤本さんを強盗殺人未遂罪の共謀共同正犯として有罪であると判断しました。

その最大の根拠は、以下の2点です。

  1. 3ヶ月前のメッセージ: 被害者からの督促に対し、藤本さんが送った「うざいうざいうざい 殺したい」という一行。

  2. 犯行当夜のメモ: 実行犯のスマホに残された具体的な襲撃手順(「親を殺してから携帯を取る」「金を鍵付きの箱に入れる」など)。

判決では、藤本さんの「ネタ(冗談)であって本心ではない」という訴えを、こう切り捨てました。

「到底理解できない弁解である。」(第1審判決より引用)

しかし、果たしてそうでしょうか? 藤本さんは示談金について、当初の300万円を支払い、その後も月々5万円の返済を続けていました。本当に殺害を計画している人間が、3ヶ月も前から証拠の残るSNSで、これほど感情的で稚拙なメッセージを送るでしょうか。

■ 翻った供述:誰が「真の主犯」を隠したのか

この事件には、極めて不自然な点があります。実行犯は当初、警察の調べに対し「自分一人でやった」と供述していました。

それがなぜ、突然「藤本さんに指示された」と語り始めたのでしょうか。

  • 藤本さん宅に入りびたる無職の実行犯: 実行犯は自宅にWi-Fiがないという理由で、藤本さんが仕事で不在の日中、毎日藤本さん宅に入り、入り浸っていました。

  • 藤本さんが不在の交流: 藤本さんが外で汗を流している間、実行犯は情緒不安定な藤本さんの妻や、3人の子供たちと日常を共にしていました。

  • 外部からの暴力的な影: さらに、妻の父親(義父)が、実行犯に「指を詰めろ」と迫り、保険金のパンフレットを渡すなど、激しい圧力をかけていた事実があります。

藤本さんが不在の自宅という「密室」で、本当に指示を出したのは誰だったのか。実行犯が「単独犯」から「藤本さんの関与」へと供述を変えたのは、日中ずっと共に過ごしていた「妻側」の報復を恐れ、身代わりを立てた結果ではないのか。 その疑念を、裁判所は一顧だにしませんでした。

■ 反対尋問さえ許されなかった「不完全な裁判」

藤本さんの無実を証明するため、最も重要だった「実行犯への証人尋問」。しかし、実行犯は証言台に立つ直前、脳梗塞で倒れてしまったのです。弁護側は、供述が二転三転した実行犯の矛盾を突く「反対尋問」という権利を一度も行使できないまま、判決が確定してしまいました。

今年1月、弁護人が刑務所へ面会に向かいましたが、実行犯は脳梗塞の後遺症で、藤本さんの名前すら覚えていませんでした。 自分がなぜ刑務所にいるのかも理解できず、真実を語るべき唯一の証人は、永遠に沈黙してしまったのです。

■ 事件の時系列:浮かび上がる空白と矛盾

時期 出来事 判決の認定と疑問点
令和3年12月 藤本さん、示談金の返済猶予を求める 実行犯に「殺したい」と送信。裁判所はこれを「殺意」と認定。
令和4年1月〜3月 実行犯、藤本さん宅に居座る 藤本さんが仕事中、妻や義父と密接に接する。実行犯は当初「単独犯」と自供。
令和4年3月27日 実行犯、スマホにメモ作成 藤本さん宅で作成。後に「藤本さんの指示だ」と供述を変える。
令和4年3月28日 事件発生 藤本さんは現場におらず、自宅で過ごしていた。

■ 皆さまへのお願い

行政の支援を受けながら、必死に3人の子供を守ろうとしていた一人の父親。そんな彼が、軽い気持ちで吐いた「うざい」というボヤキを殺人計画にすり替えられたとしたら……。

「子どもたちに会いたい。そして、また、子どもたちと一緒に暮らしたい。」

今も藤本さんを待つ子供たちのために。そして、司法の「決めつけ」によって一人の人間が葬られることを許さないために。

どうか、真実を明らかにするために引き続きご協力をお願いします。

 

弁護士 戸舘圭之

 

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