解説者の流儀 ⑧ | 戸田和幸オフィシャルブログ「KAZUYUKI TODA」Powered by Ameba

解説者の流儀 ⑧



●従来のやり方ではサッカーの魅力、本質は伝わりきらない


 日本でサッカー解説者という職業は、どのくらい認知されているのか? そんなふうに考えることがある。 現役を引退した選手が「解説者」として働くケースがほとんどだが、その理由を考えてみると、指導者として働く場を得られない、もしくはそれだけでは食べていけないという事情で、解 説の仕事を行なっている人もいるだろう。

自分のキャリアの浅さや年齢が関係しているのかも しれないが、解説者として今日まで生きてきたが、その扱いの軽さ、ステータスの低さをたび たび感じてきた。


日本のスポーツ中継の歴史は、プロ野球や大相撲が築いてきた。そこに元現役選手が解説者 として起用される。Jリーグ、サッカー中継でもその流れを汲んでいると実感する。 「注目選手を挙げてください」と試合前に質問されるのも、1対1の戦いによって勝負が決ま ることの多い野球や相撲の影響だと思う。


しかし、サッカーというスポーツはチームあってのもので、ひとりの選手に注目するだけでは、本当の魅力は伝えきれない。だから、僕はその質 問には答えられないと今日まで一貫して伝えてきた。まずはチームの話をしたうえで、選手の 名前を挙げることはできるが、チームと切り離した状態でひとりの選手の名前を挙げても、残 念ながらサッカーを伝えることはできない。


確かにピッチに立つ 人の選手をすべて見ることは、難しい。簡単にわかりやすくするため、 ひとりの選手を視聴ポイントにしたいという意図は、納得はしないが理解できる。だが、それ はサッカーを伝えるという意味で、視聴者を間違った方向へ導いている。いまだメディアがそ のことに気づいていないのだとしたら、まだまだ自分の努力が足らないのだと思う。


たとえば代表選手、チームの最多得点者など、制作スタッフが考える「注目選手」を軸に 中継が作られる。ただし、問題はその選手だけをずっとカメラが追うことはできないというこ とだ。


注目選手が目立つ活躍を見せていないとする。すると、注目選手を中心に話を進めるという 「縛り」があるため、「今日はどうしたんでしょうか?」ということになる。しかし、サッカー はそういうスポーツではない。解説者としては、「なぜシュートが打てないか」という理由をひも解く必要がある。


相手の守備がいい場合もあるだろうし、味方からのパスの質に問題がある ケースもある。ゲーム全体を見て、バランスよく語らなければ、サッカーの本質は伝わらない。

そうした細やかな作業によって、サッカーの魅力を視聴者に理解してもらえるのだと考えている。