サンデースポーツ | 戸田和幸オフィシャルブログ「KAZUYUKI TODA」Powered by Ameba

サンデースポーツ

  先週日曜日に久々NHK「サンデースポーツ」に出演する機会をいただきブラジル・ベルギーと闘ったヨーロッパ遠征の振り返りを自分が「斬る」という形のもの(実際には斬るほどの内容ではありませんが)を放送しました。

「サンデースポーツ」といえばスポーツ全般を扱う大衆向けの番組でありNHK総合というチャンネルを考えても基本的にはよりサッカーに馴染みの「ない」層の人達が見るチャンネルであり番組でもありますが、今回の放送ではサッカーの本質の部分、戦術的な部分について話をするという今までの放送とは少し違う内容のものになりました。

サッカーというスポーツは「難しいスポーツ」です。

11人対11人が105✖️68メートルのピッチの上にてチームとして集団として動きながらたった一つのボールを奪い合い相手ゴールを目指すという非常に複雑なスポーツです。

オフサイドという難しいルールも存在する中で様々な陣形や配置を用いてチームとしての基盤を作り選手個々の特徴を生かせるサッカーを作る。


難しいスポーツです。


その難しいスポーツだという事は変えられない事実であり野球や相撲のように1対1で勝負するスポーツ、見るべき場面・局面がはっきり分かる、まさに「分かりやすいスポーツ」とは一線を画す見る方に「前のめりな姿勢」を求められる難しいスポーツです。

その難しくも美しいスポーツを如何にして一般の方達に分かりやすく伝えるかという事で今まで(今でも)のサッカー中継では例えば両チームから注目選手を一人ずつピックアップしたり戦術と戦略については言及しない作り方をしてきました。

日本に於いてのサッカーの歴史がまだ浅いという事や、やはり野球と相撲が国民的な人気を二分するスポーツだった事もあり同じような「見やすさ」を追求する中で上に記したようなサッカーの伝えられ方が浸透してきたのではないかと推測しますが=それはサッカーの持つ本来の本当の魅力や面白さを伝えきれないという事も課題としては挙げられると考えてきました。


そんな土壌の中で少しずつサッカーの本質、監督の重要性やピッチに立つ選手達が実際どれくらい目と頭と口を駆使しながら最終的に足を使ってサッカーをしているのかを出来る限り「正しく」伝えていく事に挑戦してきましたがスカパーやJSPORTSなど日夜サッカーに深く携わる方達や一緒に中継を作る直接のパートナーである勉強熱心で心の広いアナウンサーさん達の理解と協力のおかげで少しずつではありますが自分のスタイルを確立し戦術的に難しく複雑な事象についても言及する仕事をさせてもらってきました。


日々サッカーを学びピッチの上で起こる現象を出来る限り正確に把握しそれが起こるメカニズムや起こさない為の方策を学び考えてきましたが、もちろん間違う事はあれど失敗を恐れずに前のめりにサッカーに向き合ってきました。


そんな仕事を見てくれた誰かがいてくれて今回のサンデースポーツに出演させていただく事になったと認識していますが、とはいえ番組は地上波でしかも総合的にスポーツを扱う大衆向けの番組です。

基本的に制作側が構成を作り台本を書き上げこちらは出演者として求められた振る舞いをする、というのが当たり前にある仕事の形です。

そんな「前提条件」があるフィールドに於いて今回いただいた機会にサッカーにまだ馴染みの薄い人も含め何を提供する事が出来るのかを考えました。


番組で使う場面もブラジル・ベルギー戦を何度か見直しながら「本当の事」を出来るだけ。

出来るだけ分かるように伝えてみたいと時間を使い場面選びをしてスタッフさんに投げました。


ワールドカップ本戦にて結果を残す為に必要な事は何か。

代表チームが持つプレイスタイルとチームコンセプトを外さずに、でもそのコンセプトをより成立させる為に自分が必要だと考えている事を実際の映像を使いながら提案してみようと思いました。


制作スタッフの中には自分が選んだ場合に対して「どこが問題なのか分からない」という方がいたそうなのですが、局に入り台本読みをした時に自分が選んだ映像を見せながら説明させてもらいました。

当初はフリップに2戦合わせての平均の評価を100点満点で付けそれを見せた上で試合について評価をしていくという構成となっていましたが、自分が選んだ映像を見せながらプレゼンをしたところ「その話をしっかりしてもらった方が良い」と考えを変えてくださり放送に至りました。










仕事をした場所や番組を考えても確かに視聴者に対し分かり易い見せ方というのは点数を付けたりまずは「イメージ」で良かったか悪かったかを伝えるという手法を取る事が一般的なものですが今回はそのやり方を捨てて実は難しいスポーツだという前提で選んだ場面について分かるように話をさせて欲しいという自分の考えを採用してくれました。


自分の拘りといえばそれまでですが、一人のサッカー人としてこの国に於いてもっとサッカーをメジャーなものにしたいという気持ちを常に持ちながら生きています。

だからこそその場の分かりやすさではなく、サッカーの持つ本来の姿をきちんと見せながら少しずつ理解を促し関心を持ってもらえるような仕事をしたいと考えて今日までやってきています。

出演者である以上、その番組に於けるいかなる事に対しての決定権は当然ながら自分にはありません。

決定権を持つ人達に対し何をどう伝えると今までより一歩前に進む形が採れるのかと映像選びの段階から試行錯誤してきましたが、懐の広いスタッフさん達のおかげできちんとした言葉を添えないと理解はしてもらえないような場面を使い代表チームについて紹介をする事が出来ました。

限られた時間の中なので省かなくてはならない事は多く両チームの陣形・配置・闘い方の特徴といった本来はそれらも一緒に添えた形で話をしなくてはならないものはかなり捨てなくてはならない形にはなりましが、とはいえ自分として伝えるべきだと考えた事については尺の中にきちんと収める形である程度は成立させられたかなとは思っています。

現代表の闘い方、特に守備はそれぞれの選手にマークすべき選手を強く認識・意識させるマンツーマンディフェンスに近い考え方で作られているのは間違いありません。

だからこそ番組で紹介させてもらった中盤のラインを通過される縦パスがを簡単に通されたり、ポジションを大きく外れても自分のマーカーに対してデュエルを仕掛けにいったり、またはアンカーポジションの選手が持ち場を離れてサイドまで決められた選手をマークしに動くという現象が起こっていると考えています。


おそらくはハリルホジッチ監督はゾーンを管理するところから人に移行する守備ではなく、あくまでも「対人」の強さを前面に押し出して多少中央を使われようがSHとSBが入れ替わろうがそれぞれが自分に課せられた相手を捕まえ強く守備を行えばボールは奪えるという考え方で守備を構築していると思います。

サッカーは基本何でもありなスポーツなので何人で守ろうが攻撃しようが自由ですし、ゾーンの概念を必要とせず徹底して人にフォーカスした守備もそれがきちんと成立し効果を発揮する事が出来れば問題ありません。

何でもいいんです。



そして今回闘ったブラジルとベルギーという世界ランキング2位と5位の相手には何をどうやったとしても勝てないかもしれませんし、勝てなくても何も問題はありません。

それくらい世界トップの選手達のレベルは高いからです。


ただしサッカーはあくまでもチームスポーツであり闘い方一つで劇的に変わる可能性のあるスポーツでもあるのでこれまで代表チームが闘い方の柱に置いてきた「人に対する強さ」だけではワールドカップ本戦に於いて良い結果、ここで言う良い結果とは予選グループ突破ですがそれを手にする事は難しいのではないかと。

それは最終予選のUAE・サウジアラビアとの試合でも明確に現象として出ていましたしブラジル・ベルギーが相手だからこそ露わになった事でもないのです。

ですからマンマーク気味の守備を闘い方の柱にしたとしてそれを積極的に活用するのはどのフェーズなのか、もう少し整理する必要があると感じています。

敵陣におけるハイプレスに於いては間違いなく人を掴むという要素が強く必要とされますが、それが例えば「自陣での守備」に於いても同じで良いのか。

当たり前にゾーン毎の考え方の違いは出していかないと番組で紹介させてもらったような自分のマーカーは見ているがサッカーとして使われてはならない「スペース」は逆にポッカリと空けてしまい見事に使われてしまうという現象に行き着きます。


理由は簡単、相手がそれを「理解」して動きを付けているからです。

自分がどこに動くとどこにスペースが生まれるのか、などという事は知識として当たり前に持った上で日本に対して攻撃を仕掛けてきます。

ルカクにボールが入ってしまったらほぼ奪う事は難しくなるという事は誰でも知っている事でだからこそそこにボールが入らない守備をしながらより良い状況を作り出しボールを奪いにかかる必要があると考えているのです。

日本戦の後にベルギーのDF、ヴェルトンゲンは勝利について「ロジカルな結果だ」というコメントを残していましたがベルギーからするとハイプレスには苦労したもののそうではない局面にて日本のどこに構造的な欠陥があるかという事は理解していたからこその勝利なのだという意味でのコメントではないかと受け取りました。


サッカーはあくまでボールを持つ人間が何をするかが重要でその人に選択肢を持たせる為に周りの選手は動きを付けます。
ボールを持っている選手の状況で攻める方も守る方も持つべき優先順位が変わるという事です。

だからこそ例えばセリエAのアタランタのように徹底したマンマークを採用し要注意人物には絶対に前は向かせないという守備ならまだしも、今の代表のようにある程度状況によって役割が変わるような守備であるならば特に自陣で守る際にはもっとスペースを埋めるところから始めるという事は考え方として持った方が良いのではないかと考えています。

それが敵陣におけるハイプレスになれば、リスクを負い過ぎない為相手はそこまで動きは付けられませんから積極的に人にアタックする守備は十分に可能だし必要です。

しかしハイプレスに於いても乾が見せるような消すべきパスコースを消した上で自分のマーカーに対し強くアプローチをする事という細やかな作業は必要になります。


サッカーの戦術は0も100もなく全ては複雑に絡み合っているものです。


何か一つの形だけで試合の中で起こる現象、相手が仕掛けてくる何かに対して対応出来るわけではありません。


だからこそゾーン毎に考え方を整理しオーガナイズを変えたり、相手によって闘い方を変化させる必要が出て来ます。

特に中盤ゾーンとディフェンディングサードにおける守備については動く相手に対しボール状況を無視して先に付きに動いてしまうと使われたら一番嫌なスペースを自ら渡す事になってしまいます。

それが番組にて紹介した二つの映像になります。

他にもたくさん映像は選びましたが番組尺の中で何を強調するかを塾考した結果、あの2シーンに決めました。

戦術的な「柱」を持ちつつ対戦相手に対し如何にして自分達の強みをアジャストさせていくかが重要になりますから、例えばベルギー戦で言えばルカクには絶対に下のボール入れさせない。

ハイプレスは可能、しかしそれが出来ないフェーズに入ったら451の陣形を素早く組んで少しずつ窮屈な状況に誘導しスモールフィールドが作れたらそこからは絶対に逃がさない強い守備をする。

どの状況ならCBはサイドにカバーに行くのかも含め対戦相手のプレイモデルを理解した上でチームとしての守備の仕方は詳細に決めた方が良いですしそれは選手個々に対しても同様だと思います。

ブラジル・ベルギーと試合をした事で体験する事になった成功・失敗それぞれをどう捉えて次に繋げていくかが今後に向けて非常に重要になりますが、手にした材料達の中から何を良しとし課題とするかで今後のチームの進む方向がまた変わってきます。


今回はいただいた時間の中で自分なりに代表チームの闘い方を正しく把握する努力をした上で番組として成立する内容に絞り話をさせてもらいました。


多少大雑把になってしまう事は承知の上で、それでもサッカーの本質について出来る限り踏み込む努力をしてみましたが番組を見てくれた人達がそうした情報を元に代表チームやサッカーについて具体的な会話や議論に繋がって欲しいという願いもありああいう場面を選びました。


日本がサッカー大国になる為には、もっとサッカーの本質に目を向けていく事とそうした事を前提とした情報発信が必要だと考えています。


個人としては解説者・指導者として目指すべき方向に向けて一所懸命に進むのみ、それがより一層のサッカーファンの拡大やサッカーに親しむ人達の何かしらの助けになればと祈願しながらこれからもサッカーを大切に扱っていくつもりです。