秘密の森の、その向こう(21) | 戸田学の映画誌

戸田学の映画誌

映画を中心とした事柄をあれこれ書いてゆく雑記帳です。

監督・脚本、そして衣装は『燃ゆる女の肖像画』(19)のセリーヌ・シアマ。

8歳の少女が喪失を体験して、そして時空を超えた成長のおとぎ話ともいえる綺麗な綺麗な映画。監督は撮影中に方向性を見失った時、「宮崎駿ならどうする?」と自らに問いかけたという。

 

病室で老嬢が椅子に座っている。「アレクサンドリア」という。鉛筆を持っている8歳のネリー(ジョセイフィーヌ・サンス)はノートに記す。「さようなら」。ネリーは隣の部屋へ行き、イヤホンをした老女にも「さようなら」。次に隣りの病室へ入ってゆくと老女が本を置く。そして「さようなら」と告げる。

廊下で出ると父親(ステファン・ヴァルペンヌ)が机を運んでいる。片づいている病室へ入ると母親のマリオン(ニナ・ミュリス)が祖母の杖を持っている。「ママ」。窓の外には木々が見え、ネリーは景色を見る。タイトルが入る―ー。

映画は静かに静かに始まる。

 

森のそばの祖母の家へ着くと、中の家具にはシートがかかっている。父親が冷蔵庫を移動させると背後から古い壁紙が出て来た。

母親の子どものころのノートがあった。ネリーは母親に「字の間違いが多い。絵は上手」「そう?」「キツネがタバコを吸ってる」「持って帰るには気が滅入る」。

ネリーが近くの森へ行くと、木の枝で枠を作った小屋があった。

夜、母はネリーに光の加減でベッドの端に黒豹が出てくると教える。夜中に目覚めたネリーは、リビングで寝ている母の元へゆき「私も悲しい」「どうして?」「さようならを言えなかった」「いつも言ってるじゃない?」「最後に言えなかった」「誰にも分からない。どう言いたかった?」「さようなら」。ネリーはそのことが気がかりであった。

朝、起きると母親が姿を消していた。

ネリーは壁に備え付けられた押し入れからパドルボールを見つけ、それで遊んでいるとボールを打ちすぎてしまう。森の中を探していると向こうで長い木の枝を一人で運んでいる少女がいる。手を振っている。ネリーに「手伝って」という。2人で木を運んでいると、昨日見た枝の小屋があった。

彼女は同じ8歳のマリオン(ガブリエル・サンス)。やがて雷雨になり、二人はマリオンの家へゆくとそこはおばあちゃんの家だった。中の壁は古い壁紙のままであった……。

 

8歳のマリーとマリオンを演じているのは、ジョセフィ-ヌ&ガブリエル・サンス姉妹。かつて『二十四の瞳』(54)で木下恵介監督は、よく似た低学年と高学年の小学生の兄弟姉妹を集め、ひとりの生徒の成長を演じさせた。この映画の場合は、母娘を姉妹が演じた。

ふたりは互いの不安を打ち明け、やがて現状を理解したマリーはマリオンに「あたいはあんたの娘よ」と話す。

 

喪失と再生。少女のみずみずしい感性と周りを思いやる心。静かな優しさが見るものの心の奥底に広がる。

おとぎ話のようだが、この世界の混乱期に静かな警鐘を鳴らしているかのようにも思える。

1時間13分。

 

9月23日(祝)公開。

https://gaga.ne.jp/petitemaman/