小倉の東方、足立山の麓に、
「広寿山・福聚寺」を訪ねました。

鬱蒼とした繁みの中に敷地が開けて、
堂々と建物を構えています。

 



前回に続いて、【或る「小倉日記」伝】からです。

主人公・田上耕作は、この寺へ、
住職の姪、山田てる子の導きでやってきました。

それまでに、耕作は、

宣教師ベルトランと
玉水アキから聞いた話をまとめて、
「鴎外全集」の編集委員を勤めたK・Mに手紙を書き、
小倉時代の森鴎外を追いかけることの価値を認めた
返事を得ていました。

しかし、そこから、

鴎外が住んでいた鍛冶町の家主を当たり、
次に住んだ新魚町の家からの手掛かりを追っても、
めぼしい情報を得られないばかりか、

自分の熱心の意義に疑問を投げる言葉を見舞われ、
絶望の念まで湧いて苦しでいました。

こんな時、耕作の前に現れたてる子は、若くて美しい娘。

声をかけられた時、
耕作が「にわかに青空を見たように元気づいた」のは、
鴎外のことが進展する期待からでしたが、

不具者である身になれなれしく寄り、
手を握って愛人のように林の中を連れ添い歩くてる子の
態度に、耕作のもう一つの胸も騒ぎました。

この訪問で住職から得られた
「東禅寺」という手掛かりによって、
鴎外に至る次の道が開始されました。
が、
てる子が耕作の家にたびたび訪れることも始まりました。

てる子を嫁に迎えるという、
母・ふじと一緒に抱いた万に一つの期待が、
てる子のかまわない一言で砕かれるまで、
鴎外への情熱と並んで、耕作の内を駆けていきます。

傑作短編集〈第1〉或る「小倉日記」伝 (1965年) (新潮文庫)/松本 清張
Amazon.co.jp