2018/11/21:投稿
2021/12/28:更新

 鉄筋コンクリートの建造物を巡る旅・鉄コン其古卍 Part 8、勇稲荷神社(ゆう・いなりじんじゃ)です。タイトルが“釣り”であることはお詫び申し上げます。ゴメンナサイ。

勇稲荷神社の遠景。鳥居越しに社殿がチラっと見える

 勇稲荷神社は、ひたちなか海浜鉄道・那珂湊駅のロータリーから100m圏内の市街地に、ひっそりと在ります。上掲画像のとおり、敷地も社殿もコンパクト。

 神社というより、むしろ「祠」と
勇稲荷神社を正面からみたところ
表現した方がフィットする感じで、隣接する民家の生活音が
勇稲荷神社の入り口。赤い文字で開運と書いてあってめでたそう
聞こえてきます。

 さて、この勇稲荷神社、情報がとにかく少ない。境内に神職や巫女さんがいる気配はなく、ネットにも竣工年や設計者に関する情報は見当たりません。かくなる上は、アナログで調べる以外に手立てなし。

 とっかかりとして、ひたちなか市観光協会に電話してみました。どマイナーな建築だけに、さすがに一旦保留。そして待つこと数日、同協会が神社関係者を紹介してくださいました。以下は、その神社関係者と電話でやり取りした内容です。

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Q.現社殿が竣工したのはいつですか?
A.定かではないが、1975年頃。

Q.現社殿の設計者とデザイン・コンセプトに関する情報はあるでしょうか?
A.設計者は氏子の伝手を頼ったが、設計者の名前までは分からない。デザインは設計者の「独断」で、完成した社殿にみんな驚いた。雨漏りするが、構造が特殊なため対策が難しくて困っている。

Q.現社殿を建て替える計画はありますが?
A.いまのところ、建て替えの計画はない。

Q.どのような年中行事が行われていますか?
A.いまは年に2~3回、正月と新嘗祭くらい。ちなみに、ひたちなか市の橿原神宮の宮司が勇稲荷神社の宮司を兼務。
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 何はともあれ、社殿の形が、極めてユニーク。こうのようなシルエットをして、個人的には『星型社殿』と呼んでいます。星型社殿に該当するのは、わたくしが知る限り、ここ勇稲荷神社と熊野神社衣笠分社(京都市北区)

の二つくらいです。

 両社とも、社殿を正面から見ると、下の頂点が欠けた六芒星のような形をしています。熊野神社衣笠分社の方はネット情報が豊富で、建築誌「新建築」の1983年11月号にも取り上げられています。勇稲荷神社の方が8年先になる計算。もしかして…。

 ただ、とんがりコーンが陸屋根を貫くようなこのデザインって、1965年竣工の御嶽教・御嶽山大和本宮や1966年竣工の

土合駅をはじめ、1970年前後にちょっとしたブームになっていました。両社が建てられた当時は、参照例が豊富にあったのだろうと推測します。
※土合駅の画像はWikipediaより

 以下、境内点景をば。

 曲がり松が、境内を周囲から分離する異化効果に一役かっていて、
勇稲荷神社境内にある曲がり松
摩訶不思議な空間が生みだされています。 

 社殿向かって左手にも、
曲がり松越しの勇稲荷神社
曲り松

 横から見ると、
曲がり松越しの勇稲荷神社
松の幹と石碑の上部がコッツンコ

 ネタバレ的ショット
勇稲荷神社の近景
基本構成はオーソドックスな陸屋根の直方体。その周りを斜線で修飾し、星型のビジュアルを実現した、と踏んでいます。仕上げはモルタルのようです。

 社殿のバックショット。この辺りに関しては、
勇稲荷神社の近景。バックショット
内部がどうなっているのか見てみたいものです。

 V字型の大棟の排水は、
勇稲荷神社の近景。バックショット
どう処理されているのでしょう?

 勇稲荷神社は、超S級のオススメ建築です。東京圏在住の方は、アクセス至便。是非ともお越しくださいませ。