いよいよ手術当日。

お産でしか入院経験はなく、ましてや全身麻酔の手術なんて、人生初!!

さすがに緊張するが、ちょっとだけわくわく感があるのはなぜ?

午後1時頃から手術なので午前中は暇かと思ったら、結構やることがあった。肺活量はかったり、点滴、体温、手術にむけてのいろいろな注意点の説明など。

手術室担当の看護師さんが言った。

「男性の患者さんにたまに見られるんですが、手術後意識が戻った時、自分が手術してたってことわすれちゃってて、自分ののどにくっついてる呼吸器の管とかにびっくりしてパニクっちゃう人がいるんですよ。意識が戻ったと確認したらすぐに取り外しますので、あわてないでくださいね。」

そんなこともあるんだなぁ。

手術着に着替えて、それから白いひざ下ストッキングをはく。

このストッキングは、ビターっと足にかなり強い力でフィットしていて(看護師さんがちゃんとふくらはぎのサイズとかはかりに来た)、目的は血栓の予防だそう。

手術中、後、何時間も同じ体制でいるため、足に血栓ができる人がいるらしい(いわゆる、エコノミー症候群)のでそれを防ぐため。

 

朝から何も食べてないが、不思議とおなかはすかない。

 

お昼になり、いよいよ手術室に向かう。

このとき私は、歩いていったのか、車いすでいったのか、なぜか全く覚えていない。

気が付いたら、ステンレス製?のシルバーの大きな扉が目の前にあって、それがさーっと開いて中に入る。

狭いベッドを中心にたくさんの人がそれぞれ自分の担当の準備チェックをしていた。

なんだか、明るくてあったかい感じ。

「ベッド狭いから気をつけてくださいねー」と二人の看護師さんの補助を受けてベッドに横になる。

あっちからこっちから手が出てきて、たくさんの器具を体にくっつけられる。

あらためて、先生がどんな手術をするのかと、私の名前を確認をする。

麻酔科の先生が「今から麻酔はいりますねー」という。

テレビの医療系ドラマでよくあるシーンが思いうかんだ。

麻酔科のカリスマのような先生が麻酔が入ったところで、患者の様子を注意深く観察し「はい、落ちた」というところ。

妹が前に経験したときの話も思い出した。

一枚一枚顔にふわふわっとラップがかかっていく感じだったと言っていた。そして、次の瞬間はもう手術は終わっていたと・・。

 

実は私はここで、せっかく全身麻酔を経験するんだから、私が麻酔にかかるぎりぎりの際のところ、意識を失う瞬間をできるだけがんばって体感してやろうと

思っていた。こんな体験なかなかできないから・・。←バカ

 

そしてその瞬間はやってきた!どーんと体が重くなって心の中で「来た来た~!」って叫んだ。

次気が付いた時は手術は終わっているはずだった。つきそってくれている、母、妹、アヤの心配そうな顔が待っているはずだろうと・・・。

 

ところが・・・。

 

気が付くとまだ手術室。

???

左手の点滴を見て看護師さんが「点滴の落ちがわるいですー」って言ってる。

お腹の上あたりに何か器具がカチャカチャ言ってる。

あれ?まだ手術前?私麻酔にかかってない?

あれ?

 

あれあれ?

 

そういえば私、息をしていない。

息ができない!うそ!!死んじゃうよ!誰かに知らせないと!私の意識があるってこと、息ができないってこと知らせないと!

体を動かそうとするが、指一本動かない。自分の体が重い鉄でできていて、すっごい強力磁石で手術台にくっついてるみたいに全く動かない。

だれも私の意識があること気が付かない。

 

・・・・だめだ

・・私はこうやって死んでいくんだ・・。息ができずに、その瞬間を誰にも気づかれずに・・。

するともう一人の私が気が付いた。

「あれ?なんのかんの言って、私結構長い時間こんな風にうだうだ考えてるよね・・。息ができなかったらもうとっくに死んじゃってるんじゃない?」

「ひょっとしてあれ?人口呼吸器がついてるから?あれのおかげで息できてる?」

「あぁ、なるほど!」

と勝手に納得、勝手に安心

 

多分その瞬間・・・「落ちた」

 

気が付くと、手術は終わっていた。みんなの呼ぶ声が聞こえた。

お母さんが「よくがんばったね」と言っている。

眼鏡をかけていないからなのか、意識がもうろうとしているのか、目の前はぼやーっとしている。全く焦点が合わない。

看護師さんが呼びかけ、それに対して私がうなずいたら、のどにつけられている呼吸器なんかを手早く取り外してくれた。

(よっしゃ、私はパニくらなかったぞ)

案外頭の中はいろいろ考えていた。

この日はナースステーションに一番近い病室で過ごすことになっていた。

焦点はだんだんあってきたんだろうけど、あんまり部屋の様子はわからない。

心配してきてくれた人達が、ほっとしながら周りであれこれ話をしているのが聞こえる。

アヤが今晩つきそってくれるようで、「この部屋に泊まっていいか看護師さんに聞いてくる」と言っている。

お姉ちゃんが来てくれてる。なんだか安心。

 

しばらくすると、なんだか吐き気がしてきた。

絶食してたんだから何もおなかにはいってないんだろうけど、とにかく気持ち悪い。

看護師さんに言ったら、「痛み止めの点滴のせいかもしれませんねー」「この点滴が終わったら吐き気止めの点滴いれますねー」

といった。何度か吐いて寝ての繰り返し。

夜中も同じ状態でつらかった。

私が吐きそうになって器をひきよせると、隣のソファで小っちゃく丸まって寝ているアヤが飛び起きる。

ベッドのそばにきて背中をさすってくれて、私が吐いた物を捨てて器を洗って・・。

夜中に4~5回そんなことを繰り返した。

アヤはほとんど熟睡できてないだろうな。かわいそうだなぁ。と思っていた。

でも、アヤがついててくれて本当に助かった。

アヤありがと。