11月3日の日、いつもの様にケンの野球の試合があった。
その日は大会の開会式もあったため、T市営球場で行われた。(選手宣誓は我がSクラブキャプテンW君!)
ここは、かなり本格的な球場で、いつも、どこかの小学校の運動場で試合をする事が多いケン達にとって、あこがれのグランドである。
来賓挨拶でも言っていたが、中日の岩瀬投手も高校時代このグランドで3回投げたことがあるらしい。

そんな球場なので、観客席はベンチ上の高い所にあり、私達はグランドにはなかなか足を踏み入れる事はできない。
しかし、その日私はお茶当番である。
前の試合の時は、お茶当番のみ特別にベンチにはいる事が許されたのだ。
試合1時間前くらいに、お茶セットとともにベンチにはいって「へ~こんな感じなんだー!」ときょろきょろしていた。すると何か状況が変わったようで、メンバー登録している人しかベンチに入ってはダメだというお達し。仕方なく、隣の小部屋に移動。
ところが、しばらくしてメンバーに空きがあるから、一人だけ入っていいとの事。私が「今日ベンチにはいれたらいいポジションで写真が撮れるだろうなー」などと言っていたため、あと2人のお母さんが、私がベンチにはいるように配慮してくれた。なんだか申し訳なかったが、1月に行われる卒団式に向けて6年生の写真が一枚でも多く撮りたかったので、ありがたくベンチ入りさせてもらった。
Sクラブの登録メンバー、監督、コーチが全員はいると、やはり少し狭く感じる。
その日は曇り空で少し肌寒い感じだったが、ベンチの中は「とにかく勝ちたい」という熱意にあふれ熱かった。
というのも、Sクラブはここのとこなかなか勝てず、4連敗である。
6年生はあと少ししか大会がないのに、なかなか優勝旗を勝ち得ることができない。今回の大会は6年生にとって残り少ないチャンスである。


試合がはじまった。
みんなよく声がでている。もちろん監督達も大声で叫んでいる。
Sクラブエースは調子よく、相手に全くヒットを許さないナイスピッチング。
しかし、こちらもなかなかヒットはでない。
最初、ベンチだったケンが途中からセンターにはいった。
ここからは、かなりドキドキであった。
「ケン!頼む!エラーしないでくれー!!」ひたすら祈っていた。

ケンに打順がまわってきた。カキーン!打った。センターに向けて飛んだ球は、ヒットなのか、相手のエラーなのかよくわからなかったが、とにかくファーストセーフ。
その後、ケンがバッターボックスに立っている時に、相手のエラーが重なって、走者が2人生還し2点はいるという場面もあった。(タイムリー打たずして2得点。「秘打 立っているだけ」)
打って打ってうちまくる試合ではなかったが、相手に得点を許さず、8対0 5回コールドで初戦を飾ることができた。
いやーよかったよかった。

今回ベンチにはいって、監督コーチのかけ声を身近に聞いて、いろいろ勉強になった。試合が始まっている状況では、その流れの中で、子供達それぞれのもてるチカラを発揮させなくてはならない。足の遅い子もいれば、バントの苦手な子もいる。しかし、バッターボックスに立ったら、かけ声、サインのみでその子のチカラを引き出さなくてはならない。守備にしても、「下がれ」とか「前にでろ」とかの指示はできても、実際にボールがとんできたときは、その子のグローブにボールが収まるのを祈るように見守るしかできない。

印象的だったのは、空振りをした子が、気落ちした顔でベンチを振り返った時
「そこで笑顔だー!」と声をかけた事。
技術面だけじゃなく、精神面までちゃんと見てないとかけられない言葉だと思った。

試合の中で、子供がいいバッティングをしたとき、それがたとえセンターフライになろうとも「いまのバッティングはよかった」といい、フライをとりに思い切ってつっこんだがとれなかったときも「それでいい」という。その言葉は、子供達がベンチに帰ってくるのを待っていてひとりひとりにかけるわけである。もちろん叱ったり怒鳴ったりもたくさんある。私だって、ケンが怒鳴られてる場面をみたら心中穏やかではいられないだろう。

監督コーチは、叱咤激励して子供達を送り出し、戦って帰ってきた子供を迎え、また送り出す。この繰り返しである。自分たちが手をだせないはがゆさもそうとうあるだろう。
子供達がそのチカラを発揮したとき、親ももちろんうれしいが、一番うれしいのは、指導者ではないだろうか。もちろんその逆もあり「あれだけ練習したのに・・」とくやしく思う場面もたくさんあると思う。
監督コーチ達は子供達と一緒に戦っているんだ。そんな事を実感した。
ベンチとはそんな場所なんだ、とあらためて感じた。

ケン達が、6年生と一緒に戦えるのはあとわずか。この大会一つでも多く勝ち抜いて6年生に胸をはって卒団して欲しい。

がんばれSクラブ!