梅、椿に続く第3の花信風、水仙についてお話しましょう。

 

スイセン(水仙)は、ヒガンバナ科の多年草です。

 

関東から九州の海岸地方に自生し、ニホンズイセンと呼ばれています。

 

(日本水仙はこんな花です)

 

しかし、日本の在来種ではなく、古く中国から渡来したものが、野生化したと考えられています。

 

原産地はスペイン領のカナリヤ諸島とされていますが、欧州の地中海地方で広く栽培され、中国を経て日本に伝わりました。

 

地下の球根から、1~2月頃に線形の葉間から20cm程の花茎を伸ばして、数個の清楚な白花を横向きに咲かせます。

 

福井県の越前岬は水仙の野生地と知られ、淡路島の海岸には有名な水仙郷があります。

 

雪の中でも香しく咲くところから、雪中花の異名があります。

 

さて、水仙の第2の故郷、地中海地方のギリシャには、こんな神話が残っています。

 

昔、ギリシャにナルシスという大変美しい少年がいました。

 

森の妖精エコーが、この少年に恋をします。

 

けれどもナルシスは、池に映る自分の美しい姿に見とれているだけで、エコーには見向きもしません。

 

エコーは、思いがとどかないのを嘆き悲しんで痩せ細り、ついには声だけに成ってしまいました。

 

(ナルシスとエコー。ギリシャ神話より)

 

エコーを哀れんだ運命の女神ネメシスにより、水に映る自分の姿に恋するようになったナルシスは水に溺れて死に、水辺に咲く水仙に化身したのでした。

 

一方、日本水仙の野生地福井県の越前岬には、こんな伝説が伝わっています。

 

(越前岬。自殺の名所です)

 

越前の武士山本五郎左衛門は、長男の一朗太を伴い木曽義仲の軍に加わり源平の合戦に出陣します。

 

留守を守っていた弟の次郎太は、ある日波間を漂う人を見つけ、助けて館に連れ帰ります。

 

介抱してみるとそれは稀にみる美しい娘で、次郎太はひとめ見て恋いに落ちました。

 

そんな時、宇治川の合戦で源義経に敗れ、父を討たれ自らも片足を失った一郎太が帰郷してきたのです。

 

一朗太もまた、娘の美しさに心を奪われます。

 

仲の良かった兄弟の中は険悪に成り、命をかけた争いにまで発展します。

 

板挟みになった娘は、自ら命を絶つほかないと思い定め、越前岬の断崖から海に身を投じたのです。

 

時がたち、春が過ぎ夏秋を経て、長い冬も終わろうとする頃、北国の海辺にだれも見たことのない美しい花が咲きました。

 

真っ白な花びらの中に、小さな黄色い花をつけた、清らかな水仙花です。

 

この地の人々は、この花は海に身を投じた、あの美しい娘の化身に違いないと信じて、子孫にこの話を語り継いだのでした。

 

水仙の花言葉はナルシスの神話から、うぬぼれ、エゴイズムです。

 

俳句では冬の季語

 

奪い得ぬ 夫婦の恋や 水仙花

 

中村草太男

 

また、白樺派の歌人木下利玄に、こんな一首があります。

 

真ん中の 小さき黄色の盃に 甘き香もれる 水仙の花

 

(木下利玄)