今回は、ちょっと難しいお話です。
皆さん、老年的超越をご存じですか?
提唱者のトーンスタムは、2005年に発刊された著書で、老年的超越をこう定義しています。
「物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化」
小難しくてわかりにくいので、少々かみ砕いて説明しましょう。
高年齢になって生じる以下の変化を指す概念のようです。
自己の欲求達成に満足を得るのではなく、他者への思いやりや利他的な行動を重視するようになる。
過去の社会的な地位や役割に対するこだわりがなくなり、社会的なつながりが狭くなっても、少数者との深い関係を結ぶことで満足を感じるようになる。
また、宇宙的、超越的とは、自己の存在や命が、現在のみならず過去から未来までも通じていて、より大きなものにつながっている。
という感覚を指しているのだそうです。
日本人へのアンケート調査でも、周囲への感謝の気持ちが高まる。
先祖や未来の子孫とのつながりを強く感じる。
過去に築き上げた自分へのこだわりがなくなる。
思いやりや利他性が高まる。
あるがままを受け入れ、自然の流れにまかせる。
などの、老年的超越の傾向が抽出されています。
ここで思い出されるのが、美空ひばりの最晩年の名曲「川の流れのように」ですね。
この歌は、作詞は秋元康ですが、「自分の歌から遠い若い人たちにメッセージを残したい」。
という、ひばりの強い意向により製作されました。
その最後の小節を紹介しましょう。
ああ 川の流れのように
おがやかに
この身をまかせていたい
ああ 川の流れのように
青いせせらぎを聞きながら
まさに ひばりは最晩年のこの時期、老年的超越の境地にあったのでしょう。
その後の研究の結果でも、老年的超越はトーンスタムの仮説の通り、70歳代で急速に発達し、80歳代、90歳代で高止まりすることが示されています。
さて、結論です。
老年的超越は、高齢期における精神的健康を維持し、幸福感を高める働きをしていることがわかりましたね。
今後も高齢化が進行し、超高齢者社会を迎える我が国委おいて、老年的超越は注目すべき高齢者の心理特性なのです。