今では見かけることがありませんが、かっては犬は荷を引く動物として、ごく普通に使われていました。
特に、ロバも買えない貧しい人々にとって、犬は最良の運搬手段でした
犬であれば、どこでも簡単に手に入りますし、家族と一緒の場所で飼うことことができます。
食べ物も、馬やロバと違い、人の残り物を与えておけば大丈夫です。
背中に荷物を背負って運んだり、小さな荷車を引いたりして荷を運んだのです。
荷を運ぶだけでなく、主人が荷車から離れても番をしますし、家族が寝ている時には、番犬の役も果たしてくれます。
ニューファウンドランド、グレート・ピレニーズ、セント・バーナード、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどは、その頑強さと荷車を引く耐久力から、肉屋、野菜売り、乳搾り、織物商人、パン屋など重宝されました。
欧州と違い日本では、荷役犬はあまりなじみがありませんね。
しかし、ほとんどの日本人が知っている荷役犬のスターがいます。
フランダースの犬、パトラッシュです。
(ネロ、パトラッシュ、唯一の友達アロア)
あらすじを、手短にお話しします。
舞台は、フランダース地方の都市、アントワープ郊外の小さな農村です。
パトラッシュは、金物屋の荷役犬でした。
(金物屋に、こき使われるパトラッシュ)
さんざんこき使われた後、年をとって働けなくなると捨てられてしまいました。
(年老いたパトラッシュは、働けなくなってしまいました)
捨てられたパトラッシュを保護して飼い犬にしたのが、ジョバン老人とネロでした。
ジョバン老人が病気で倒れたあと、ネロはパトラッシュとミルクの運搬業して生活を支えます。
その後の話は、皆様のご存じの通り、涙なくして語ることができません。
ので、省略。
(預けられたアロアの家を抜け出し、雪の中パトラッシュはネロを追います)
クリスマスの翌朝、大聖堂のルーベンスの絵の前で、愛犬を固く抱きしめたまま死んでいる少年が発見されます。
誰の手でも、両者を引き離すことができず、村人達は今までの行いを後悔しつつ、教会の許可を得て犬と少年を共に祖父の墓に葬ったのでした。
フランダースの犬は、英国の作家ウィーダが1872年に発表したものです。
日本では、明治41年(1908年)に出版されています。
1975年(昭和50年)と1992年(平成4年)には、アニメ化されたものが放映されました。
ところで英国では、現在犬を荷役に使用することは禁じられています。
フランダースの犬が作られた約50年前、英国動物愛護協会が創設され、犬の虐待に対する大規模な反対運動を開始しました。
犬の虐待の中に、荷役も含まれていました。
荷役犬の多くは大切に飼われ、ロバを買えない貧しい人々には必需品だ、との反論もありましたが、愛護協会の強力なロビー活動の結果、犬を荷役に使うことは禁止され、犬に対す課税も決まりました。
荷役は禁止され課税もされたたため、結果は悲惨なものでした。
犬の虐殺が、英国全土で行われたのです。
バーミンガム、リバプールでは1000頭以上の犬が殺されました。
ケンブリッジでは通りに犬の死骸が散乱し、市の治安警察は400頭の犬の死骸を焼却処分したと記録されています。
行き過ぎた動物愛護は、意図するところ逆に、悲惨な結末をもたらすという教訓です。
さて、パトラッシュのモデルとなった、ブービェ・デ・フランダースはアニメと違いこんな犬です。
(ブービェ・デ・フランダース)