咳は、気管支炎や肺炎の主症状です。


臨床的には如何に止めるかが問題となります。


しかし、咳は気道内の異物を排除する防御反応の一つでもあり、咳を如何に出させるかも健康を維持する上では重要です。

 

咳反射は嚥下反射とともに、誤嚥の防御反応なのです。

 

嚥下反射が低下し、口腔内容物を不顕性誤嚥したり誤嚥した時に、咳反射が保たれていれば、咳として異物を排除できます。

 

咳反射が低下すると、異物を肺内にとりこみ誤嚥性肺炎を発症します。

 

老人では、嚥下反射も咳反射も低下しますので、結果として誤嚥性肺炎を生じやすくなるのです。

 

誤嚥性肺炎は、高齢者肺炎の80%を占めると云われています。


肺炎の死亡率は第4位ですが、要介護老人の直接死因としては第一位です。

 

咳の発生機序について簡単に説明しましょう。


気道刺激物質があると、迷走神経と舌咽神経の受容体が刺激されます。


すると受容体の近傍から、神経ペプチドであるサブスタンスP(SP)が放出されます。

 

気道上皮中にSPが増えると、咽頭から気道に分布する咳受容体が刺激されます。


この刺激がある閾値を超えると、延髄にある咳中枢が刺激され運動神経系を介して咳を生じるのです。

 

高齢者肺炎の大半を占める誤嚥性肺炎の原因は、加齢に伴う大脳基底核の脳血管障害です。

 

この結果、大脳基底核線条体で合成されるドーパミンが減少します。


ドーパミンの減少はSPの合成を低下させます。

 

このため、咽頭や気道壁に分泌されるSPは低下し、嚥下反射と咳反射の低下が生じるのです。

 

高齢者の誤嚥性肺炎の実態は脳の病気なのです。肺炎はその結果にしか過ぎません。

 

 

誤嚥性肺炎を抗生剤だけで治療しても、一過性の効果しか得られないのは、前述した誤嚥性肺炎の機序によるのです。

 

発病の機序が分かれば対策が立ちます。

 

ドーパミンとSPが不足していれば、上げてやれば良いのです。

 

シンメトリルはドーパミンの合成を促し、SPを上昇させます。


これで、肺炎は予防できます。

 

次にアンジオテンシン阻害薬の内服です。


ACE阻害剤はSPの分解酵素を阻害しますので、結果として少ないSPも分解されずに残ります。

 

内服により高齢者でも、嚥下障害と咳反射が保たれ、誤嚥性肺炎を予防できます。

 

肺炎になったときも、抗生剤に上記2剤を併用することで肺炎の治療効果を改善することが報告されています。