膝の関節は、大腿骨(太ももの骨)、膝蓋骨(膝のお皿)、脛骨(スネの骨)の3つの骨により作られています。膝蓋骨は本来大腿骨の滑車溝とよばれる溝に収まっていますが、膝関節の緩みにより膝蓋骨が滑車溝から外れ、内側もしくは外側へ脱臼することにより膝蓋骨脱臼が起こります。膝蓋骨脱臼は内方脱臼の方が外方脱臼よりも多く見られ、前者は小型犬に多く後者は大型犬に多く認められます。
今回はより多くみられる膝蓋骨内方脱臼について詳しくご説明します。
膝蓋骨内方脱臼における症状としては、
・運動中に突然足をあげる、キャンと鳴いて痛がる
・かくかくとロボットの様な歩行をする
・ガニ股、О脚
などが挙げられます。
膝蓋骨内方脱臼が進行すると、四頭筋群(太ももの筋肉)の内側変位や、大腿骨遠位の外側への彎曲、脛骨粗面の内側転移といった筋骨格の変形が認められるようになります。
原因
ほとんどが先天的(遺伝的)な筋骨格異常に起因しています。稀に、外傷によって膝蓋骨脱臼を併発する場合があります。
診断
用手で膝蓋骨脱臼の有無やその程度を調べることが出来ます。他にも、レントゲン検査では膝蓋骨脱臼だけではなく、骨変形や関節炎の程度も診断出来ます。膝蓋骨脱臼はその脱臼の程度により4つのグレード(GⅠ~Ⅳ)に分類されます。
GⅠ:通常時は脱臼がみられない。用手で強制的に脱臼をさせることができる。
筋骨格の変形は最小限である。
GⅡ:通常時でもたまに脱臼が見られ、跛行が認められることがある。用手にて整復するか、動物が膝を屈曲させるまで脱臼したままである。
大腿骨に軽度の変形が認められる。
GⅢ:膝蓋骨はほぼ内方に脱臼したままである。用手にて整復することが出来る。
四頭筋群の内側変位が認められる。大腿骨と脛骨の変形が認められることがある。
GⅣ:膝蓋骨は常に内方に脱臼したままである。用手でも整復することが出来ない。
滑車溝の低形成、四頭筋群の内側変位、大腿骨と脛骨の変形が顕著に認められる。
治療法
治療法は、保存的治療と外科的治療があります。
保存的治療
保存的治療では、症状のない場合無治療で経過を見ます。一時的に痛みが出た場合は鎮痛薬を投与する対症療法を行います。
外科的治療
痛みを伴う場合、GⅢ~GⅣ、前十字靭帯断裂を伴う等の場合には外科的治療の適応となります。大型犬の場合では、大腿骨滑車のびらんや半月板の損傷、前十字靭帯断裂の併発などを起こしやすいため、軽度であっても外科的手術を行うことを推奨します。また、低グレードであったとしても脛骨や大腿骨の変形を防ぐために外科的治療は非常に有用です。
外科的治療では、グレードによって術式を選択し組み合わせて行います。
・滑車溝造溝術
・脛骨粗面転移術
・内側肢帯開放術
・外側肢帯縫縮術 等
GⅠ~Ⅲの場合、外科的治療法を選択した場合の機能回復は非常に良好であるとされています。
保存的療法を行う場合、リスクも存在します。
・大腿骨や脛骨の変形の進行
・膝蓋骨脱臼を繰り返すことによる大腿骨滑車のびらん
・前十字靭帯断裂の併発
他にも肥満や過度な運動もこれらのリスクを高める要因となります。
膝蓋骨脱臼に罹患していても無症状や痛みを伴わないことが多く、飼い主様も気付かない場合があります。そのため根治的治療法は外科的治療しかありませんが、無治療で経過をみることも多いです。手術をおすすめする基準は難しく、絶対的な水準がないためグレードだけではなく年齢や体重も考慮し検討する必要があります。もし、手術を検討したい等、気になる点やご不明な点がございましたらいつでもご相談ください。